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12.特別な存在
特別な存在②
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──それにあの方お胸もその……とても素敵だったのだし。
浅緋は片倉のスーツをぎゅっと握って、俯く。
「どうしました?」
「私もです。私もヤキモチやきました。今日のレセプションでの素敵な女性です。お名前で呼んで仲良さそうだったわ」
「彼女は取引先の役員です。兄妹で役員をしているので、苗字で呼ぶとややこしいからあのような会では名前で呼ぶことが多い人なんですよ。今日は兄の方も来ていましたしね」
「やだ……私、ごめんなさい」
ヤキモチなど、本当に恥ずかしい。
けれどよく考えてみると、浅緋でさえ恥ずかしいと思うようなことを、先程片倉は告白してくれたのだ。
浅緋は顔を上げて片倉を見た。
(あの……、見たことないようなお顔なのですが)
片倉は幸せそうに、愛おしげに浅緋を見ている。
「どんな気持ちになったの?」
そう聞かれて、浅緋は先程の気持ちを一生懸命思い出す。
「顔から血の気が引くというか、とても寂しい気持ちです」
浅緋のその言葉を聞いて、片倉はさらに浅緋をきゅうっと抱きしめた。
「ならば安心してください。僕は浅緋さんのことしか好きじゃない。浅緋さんだけが愛おしくて、浅緋さんだけを守りたいんです。浅緋さんだけが僕をこんな気持ちにさせるんだ」
強く抱かれて足元が浮き上がりそうだ。片倉は浅緋の名前を何度も何度も呼んで低くてよく響く声を浅緋の耳に届かせた。
そんなの、とてもドキドキしてしまう。
「っ……わ、分かりましたからっ」
「あの時は嫉妬に駆られて、あなたを誰にも渡したくないという気持ちでキスしたんです」
だんだん体が密着していって、浅緋は片倉に包み込まれて、切り取られたような空間の中で果てしのない安心感がある。
「だからね、やり直してもいいですか?」
視界も香りも身体も、片倉に包み込まれてしまっていて耳元でこんな風にささやかれて、すべての感覚をもってかれてしまっていて鼓動が早くて、もう浅緋には何も考えることができない。
片倉でいっぱいになって、満たされてしまっている。
浅緋にはこんな風になったことがなくて、どうしたらいいのか分からないのに、今、何か聞かれている。
──いいですか? って何を?
「いいですかって、何をですか?」
「キスしてもいいかなって聞いているんです」
「慎也さんっ……」
「はい」
「私どうしたらいいのか分かりません」
浅緋の頭の中にあったのは困ったときは困っていると言え、という槙野の言葉だった。
「じゃあ、これだけ答えて。僕とキスするの、嫌ですか?」
浅緋はそれだけを考えて首を横に振った。
嫌なわけがない。
「じゃあ、キスしていい?」
こくりとうなずく。
「浅緋さん……」
とても、甘い声がして、片倉が浅緋の頬に手を触れる。そうしてそっと顔を仰のかせた。
まるで、すべてのパーツが計算されつくして配置されているような片倉の顔がとても近い。
軽く唇が重なった。
片倉が触れてくれている手の感触や、優しく見つめてくれる眼鏡の奥の瞳とか、触れ合っている身体の体温とか、そういうものをひどく近くに感じたし、抑えることのできない自分の胸の高鳴りも浅緋は感じた。
そうして胸がぎゅっとして、温かい気持ちになってとてもふわふわして幸せな気持ちになったのだ。
「ん?」
甘くて、よく響く片倉の声がとても近い。
「嬉しい……です」
「そう。じゃあ、もっとしていい?」
「はい」
だから、浅緋はきっと唇が重なるんだろうと思っていたのだ。
浅緋は片倉のスーツをぎゅっと握って、俯く。
「どうしました?」
「私もです。私もヤキモチやきました。今日のレセプションでの素敵な女性です。お名前で呼んで仲良さそうだったわ」
「彼女は取引先の役員です。兄妹で役員をしているので、苗字で呼ぶとややこしいからあのような会では名前で呼ぶことが多い人なんですよ。今日は兄の方も来ていましたしね」
「やだ……私、ごめんなさい」
ヤキモチなど、本当に恥ずかしい。
けれどよく考えてみると、浅緋でさえ恥ずかしいと思うようなことを、先程片倉は告白してくれたのだ。
浅緋は顔を上げて片倉を見た。
(あの……、見たことないようなお顔なのですが)
片倉は幸せそうに、愛おしげに浅緋を見ている。
「どんな気持ちになったの?」
そう聞かれて、浅緋は先程の気持ちを一生懸命思い出す。
「顔から血の気が引くというか、とても寂しい気持ちです」
浅緋のその言葉を聞いて、片倉はさらに浅緋をきゅうっと抱きしめた。
「ならば安心してください。僕は浅緋さんのことしか好きじゃない。浅緋さんだけが愛おしくて、浅緋さんだけを守りたいんです。浅緋さんだけが僕をこんな気持ちにさせるんだ」
強く抱かれて足元が浮き上がりそうだ。片倉は浅緋の名前を何度も何度も呼んで低くてよく響く声を浅緋の耳に届かせた。
そんなの、とてもドキドキしてしまう。
「っ……わ、分かりましたからっ」
「あの時は嫉妬に駆られて、あなたを誰にも渡したくないという気持ちでキスしたんです」
だんだん体が密着していって、浅緋は片倉に包み込まれて、切り取られたような空間の中で果てしのない安心感がある。
「だからね、やり直してもいいですか?」
視界も香りも身体も、片倉に包み込まれてしまっていて耳元でこんな風にささやかれて、すべての感覚をもってかれてしまっていて鼓動が早くて、もう浅緋には何も考えることができない。
片倉でいっぱいになって、満たされてしまっている。
浅緋にはこんな風になったことがなくて、どうしたらいいのか分からないのに、今、何か聞かれている。
──いいですか? って何を?
「いいですかって、何をですか?」
「キスしてもいいかなって聞いているんです」
「慎也さんっ……」
「はい」
「私どうしたらいいのか分かりません」
浅緋の頭の中にあったのは困ったときは困っていると言え、という槙野の言葉だった。
「じゃあ、これだけ答えて。僕とキスするの、嫌ですか?」
浅緋はそれだけを考えて首を横に振った。
嫌なわけがない。
「じゃあ、キスしていい?」
こくりとうなずく。
「浅緋さん……」
とても、甘い声がして、片倉が浅緋の頬に手を触れる。そうしてそっと顔を仰のかせた。
まるで、すべてのパーツが計算されつくして配置されているような片倉の顔がとても近い。
軽く唇が重なった。
片倉が触れてくれている手の感触や、優しく見つめてくれる眼鏡の奥の瞳とか、触れ合っている身体の体温とか、そういうものをひどく近くに感じたし、抑えることのできない自分の胸の高鳴りも浅緋は感じた。
そうして胸がぎゅっとして、温かい気持ちになってとてもふわふわして幸せな気持ちになったのだ。
「ん?」
甘くて、よく響く片倉の声がとても近い。
「嬉しい……です」
「そう。じゃあ、もっとしていい?」
「はい」
だから、浅緋はきっと唇が重なるんだろうと思っていたのだ。
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