遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました

如月 そら

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4.公僕

公僕①

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『公僕』公務員を指す言葉なのだと亜由美も聞いたことがあった。

 その立場なのであれば、確かにお礼をするのも単純にとはいかないのかもしれない。

 けれど純粋に嬉しかった気持ちにお礼をしたいのに、どうしたらいいのだろう。

 しゅん……と俯いてしまった亜由美に鷹條は最初よりは柔らかい雰囲気を向ける。

「その気持ちだけで十分だよ」
「でも……」

 お礼、と言いながらも亜由美は自分の気持ちには気づいていた。
 この人をとても好ましく思っているのだ。これで関係を途切れさせてしまいたくない、という気持ちがある。

 けれど、鷹條との関係を進めるための言葉を発する勇気がどうしても出ない。

 このまま終わりにしたくないんです。
 そう言いたいけれど。

 ──君は一人でも大丈夫でしょう?
 そんな風に拒否されることがいちばん怖い。

「タクシーが来たよ」
 亜由美を半ば抱き上げるようにして鷹條はタクシーに乗せてくれる。

(どうしよう? どうしたらいいの?)

 行きの車の中と違い、今度は焦っていて亜由美の口から言葉が出ない。

 そんな風に迷っていたら、あっという間に自宅のマンション前に着いてしまった。
 マンション前で鷹條は一緒にタクシーを降りてくれた。

「あの……良かったら、何かお出ししますけど……」

「いや。こんな時間に独身のお嬢さんの部屋に上がり込むわけにはいかないだろう」

 きっと断るだろうとなんとなく想像はしていた。思った通りの言葉が返ってきたことには残念だけれど、ショックは受けない。

 むしろこの人ならばそう答えるだろうと予想していたから。

 四角四面のように感じる表情や、態度は自身を公僕だと意識してのものなのだろう。
 普段から鷹條はそれを意識しているのだと思われた。

(真面目な……人なんだわ)
 迷惑をかけるわけにはいかない。好ましく思っているといっても、鷹條がそう思っていないのでは意味がないのだ。

 亜由美には最後まで勇気は出なかった。
「本当にありがとうございました」
 その場でぺこりと頭を下げて、マンションの中に入っていくことしか出来なかったのだ。

 ◇◇◇
 
 この日の朝、鷹條千智たかじょうちさとは当直明けだった。

 朝の空気は爽やかで駅から出てきた人たちが周りの官公庁の建物に吸い込まれて行く中、逆らうようにして鷹篠は駅に向かって歩く。

 鷹條が勤務するのは警視庁警護課で、つまりSPと呼ばれる「セキュリティ・ポリス」という要人警護の仕事についていた。

 SPの警護対象者というのは規定されており、係は四つに分かれている。

 一係は総理大臣、二係は衆参両院議長・副議長、最高裁長官及び国務大臣、三係は国賓や海外からの外交使節団で、四係はその他の政府要人だ。

 鷹條はその二係に所属していた。二係も三班に別れておりそれぞれ交代で勤務をしている。

 時期的に国会の予算委員会の決議の真っ最中であり、審議が不十分だと紛糾したため、通常ではありえないくらい委員会が長引いた。

 通常の当直ならば庁舎内で過ごすことも多いし、余裕があれば仮眠を取ることもある。
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