遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました

如月 そら

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11.水も滴る……

水も滴る……④

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 大好きな人の可愛いわがままを跳ね除けられるほど亜由美は強くないし、鷹條は普段わがままなんて言わないから、聞いてあげたくなってしまった。


 恥ずかしいから、先に入ってて! と鷹條をバスルームに追いやり、心の準備ができたところで洗面所で服を脱ぎ、タオルで前を隠しつつ亜由美はドアを開ける。

 鷹條はシャンプーを終えて、身体を洗っているところのようだった。
 ドアを開けたら、鍛え上げられた背中と引き締まった臀部が見える。

 以前にも少しだけ見たことはあるけれど、鷹條の彫刻のような身体を目にしたら、ものすごく鼓動が大きく跳ねてしまった。

 それは仕事柄鍛えていることは分かるけれども、無駄な肉がほとんどなくこんなに綺麗に筋肉のついた身体を近くで見たことはない。

 ドアを開けた音で、鷹條が振り返った。
「悪い、邪魔か?」

 首を横に振るので一生懸命だ。
 真っ赤になってしまっている亜由美を見て、鷹條はとても嬉しそうに笑った。

「誰かと一緒に入るのは初めて?」
 こくこくっと亜由美は頷く。恥ずかしさが限界突破しすぎて口を開くこともできないのだ。

 自分の一糸まとわない姿を見せることもだし、鷹條の裸が目に入ることも、亜由美にはどうしたらいいのか分からない。

(てか、千智さん何でそんなに堂々としてるの!? 身体が綺麗だから?)

 そう思うともう少しダイエットすれば良かったとか、こんな身体でいいんだろうかとかそういうことが気になってしまって身動きできない。

「タオルで隠して。恥ずかしいんだ?」
 分かってるくせに時々いじわるなのはどうしてだろう。

「おいで。そのままじゃ洗うこともできないだろう」
 手を取られて、そっとタオルを外される。外されると同時に視線を感じて亜由美は俯いてしまう。

「亜由美」
 甘く、優しく呼ぶ声がして、そっと顎を指先で掬われた。目線を合わせられる。

 端正な顔とその綺麗な顔を伝う水滴、髪も洗った後で髪からも水滴が滑り落ちてゆく。

 仕事が終わった時の鷹條はいつも髪をしっかりとセットされた状態で、業務が終わってからですら乱れていることない。
 オフの時もラフにはしているが、整えてはいる。

 こんなシャワーを浴びたての、まだ水滴すら肌に滴るような鷹條を見るのは初めてで、ドキドキするなんてものではない。
 大きく響く鼓動に身動きもできない。

「洗っていい?」
 そう聞かれて、こくっと亜由美は頷いた。

 ボディタオルを泡で満たして、亜由美の身体をとても大事そうに洗ってくれる。

 もちろん物心ついてからは誰かに身体を洗ってもらうなんてことはしたことがなく、とても恥ずかしい。なのに、鷹條はとても楽しそうなのだ。

「千智さんは楽しそうね?」
「ああ、楽しい。亜由美はどこもかしこも綺麗だし、すごく俺のものって感じがする。しかも初めてとか可愛いすぎる」

 首から腕、背中、腰へとボディタオルが滑っていった。
「前も、洗っていい?」

 顔が赤くなる。亜由美はこくりと頷いた。鷹條は泡を手の平にのせて、そっと亜由美の胸に触れる。

「んっ……」
 泡で滑りがよくなっていて、普段手で触れる時とは全く感触が違う。

 洗ってくれているだけなのに、亜由美は漏れてしまう声を抑えることができなかった。

 手の平がお腹を撫でて、下腹部にも降りてゆく。ふわふわと表面を泡で包まれた後、指が敏感な花芽に触れた。

「……あ……っ」
 指は狭間にも触れる。

「感じてた? 濡れてるね」
「ちが……」

 ボディソープの滑りを借りて動く指の普段とは違う感触に亜由美は背中を震わせた。
 鷹條はシャワーからお湯を出して亜由美の身体についた泡を流してくれる。

「可愛い」
 そっと優しく、後ろからしっかりと抱きしめられる。

「あ……」
 お互いに素肌が密着する。なにも身にまとわない状態で抱き合うのは、コトの最中ならあったかもしれないけれど、まだ理性の残った状態では初めてのことだ。

 それがこんなに恥ずかしいなんて亜由美は知らなかった。


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