80 / 83
20.スライディング土下座
スライディング土下座③
しおりを挟む
「帰国するときは教えてくれるって言ってたじゃない」
少しむくれて父に言う。
「驚かせようと思ったんだよ」
「驚いたけども……」
一方で鷹條は甘えたり、むくれたりする亜由美を微笑ましい気持ちで見ていた。
やはり親の前ならば素直に甘えられるんだなと感じる。
緩く微笑んだ鷹條はお茶を飲み終わったあと、リビングのソファから立ち上がった。
「せっかくの親子水入らずなんだし、ゆっくり話したいこともあるだろう。今日は俺は失礼するよ」
「なんだか申し訳なかったわ」
両親と亜由美は玄関まで鷹條を見送る。
「本当に申し訳ありませんでした」
玄関を出る時、再度頭を下げる鷹條に父は笑顔を向けた。
「気にしないで。ご両親にもぜひよろしくお伝えください」
「はい。じゃあ、亜由美また」
「うん。気をつけて帰ってね」
玄関を出る時、鷹條はふわりと家族に笑顔を向けた。
「驚きましたけど、お会いできてご挨拶できて嬉しかったです。またこちらにいるうちにゆっくり食事でも行きたいです」
「もちろんそうしよう」
「こちらこそよろしくね」
そして鷹條はドアの向こうに姿を消したのだが、亜由美はその笑顔に胸を射抜かれてしまっていた。
(千智さんの笑顔……レアすぎるし、破壊力がスゴすぎる)
「なかなか好青年だな」
父はそう言って、うんうん頷いていた。横で母も頷いている。
「すごく素敵な方ねぇ、亜由美ちゃん」
「うん」
両親に鷹條を認められるのは素直に嬉しいことだった。
亜由美がお風呂から上がってくると、父はソファで居眠りしていて、母はダイニングで雑誌をめくっていた。
二人が海外に行く前には当たり前だった光景だ。
亜由美は父に軽く声をかける。
「お父さん、ここじゃゆっくりできないからベッドで寝たら?」
「う……ん」
亜由美に声をかけられ、ぼうっとした父がしぶしぶ起き上がってベッドに行くのもいつものことだ。
母は亜由美がマガジンラックに置いていた、結婚情報誌を持ってきて、それを先程から熱心に見ていたようだった。
「ドレス、見てるの?」
亜由美が声をかけると母は雑誌から顔を上げる。
「ええ。可愛いのがたくさんあるのね。もうどんなのにするか決めた?」
「いいえ。まだ」
「今度一緒に見に行く?」
「え? いいの?」
母と一緒にドレスを見に行けるとは思っていなかった亜由美はうれしくて笑顔になる。
「もちろんよ。娘と一緒にドレスを見に行けるなんて幸せだわー。決めてしまわなくても、結婚が決まって一緒に選べるってだけで幸せ」
母のこういう明るいところが亜由美は大好きだ。
「うん。じゃあ、一緒に行こうね。予約しなくちゃ」
「亜由美ちゃんにはどういうのが似合うかしら? やっぱりお姫様に憧れてるの?」
「似合うものの方がいいかなぁって思っているの」
久しぶりの親子の時間はゆっくりと夜更けまで続いたのだった。
亜由美の両親は仕事の関係で三ヶ月ほど日本に滞在することになったらしく、その間に鷹條との両親の顔合わせを済ませたり、式場を決めたりと結婚式の準備を進める。
いろいろと検討した結果、会社近くのチャペルを併設している迎賓館で結婚式と披露宴をすることに決めた。
鷹條の先輩もそこで結婚式を挙げることが多いと聞いたし、その場所は亜由美の会社からも近く、交通の便もいい。
また、ブライダルプランナーの担当者が一顧客一担当と聞いたら、鷹條がここにしようと言ったのだ。
多くは語らなかったけれど、亜由美がプランナーに相談しやすい式場を選んでくれたのだろうと思う。
会社の先輩の中には亜由美が結婚するのだという話を聞いて『男性は結婚式の準備では本当に当てにならないし、それで何度喧嘩したか分からない』と言ってきた人もいたのだが、今のところ結婚式の準備で鷹條と喧嘩をしたことはない。
──亜由美のしたいように。
そう言ってくれていても、必要な時にはプランナーに必要なことを伝えてくれるのは本当に助かった。
少しむくれて父に言う。
「驚かせようと思ったんだよ」
「驚いたけども……」
一方で鷹條は甘えたり、むくれたりする亜由美を微笑ましい気持ちで見ていた。
やはり親の前ならば素直に甘えられるんだなと感じる。
緩く微笑んだ鷹條はお茶を飲み終わったあと、リビングのソファから立ち上がった。
「せっかくの親子水入らずなんだし、ゆっくり話したいこともあるだろう。今日は俺は失礼するよ」
「なんだか申し訳なかったわ」
両親と亜由美は玄関まで鷹條を見送る。
「本当に申し訳ありませんでした」
玄関を出る時、再度頭を下げる鷹條に父は笑顔を向けた。
「気にしないで。ご両親にもぜひよろしくお伝えください」
「はい。じゃあ、亜由美また」
「うん。気をつけて帰ってね」
玄関を出る時、鷹條はふわりと家族に笑顔を向けた。
「驚きましたけど、お会いできてご挨拶できて嬉しかったです。またこちらにいるうちにゆっくり食事でも行きたいです」
「もちろんそうしよう」
「こちらこそよろしくね」
そして鷹條はドアの向こうに姿を消したのだが、亜由美はその笑顔に胸を射抜かれてしまっていた。
(千智さんの笑顔……レアすぎるし、破壊力がスゴすぎる)
「なかなか好青年だな」
父はそう言って、うんうん頷いていた。横で母も頷いている。
「すごく素敵な方ねぇ、亜由美ちゃん」
「うん」
両親に鷹條を認められるのは素直に嬉しいことだった。
亜由美がお風呂から上がってくると、父はソファで居眠りしていて、母はダイニングで雑誌をめくっていた。
二人が海外に行く前には当たり前だった光景だ。
亜由美は父に軽く声をかける。
「お父さん、ここじゃゆっくりできないからベッドで寝たら?」
「う……ん」
亜由美に声をかけられ、ぼうっとした父がしぶしぶ起き上がってベッドに行くのもいつものことだ。
母は亜由美がマガジンラックに置いていた、結婚情報誌を持ってきて、それを先程から熱心に見ていたようだった。
「ドレス、見てるの?」
亜由美が声をかけると母は雑誌から顔を上げる。
「ええ。可愛いのがたくさんあるのね。もうどんなのにするか決めた?」
「いいえ。まだ」
「今度一緒に見に行く?」
「え? いいの?」
母と一緒にドレスを見に行けるとは思っていなかった亜由美はうれしくて笑顔になる。
「もちろんよ。娘と一緒にドレスを見に行けるなんて幸せだわー。決めてしまわなくても、結婚が決まって一緒に選べるってだけで幸せ」
母のこういう明るいところが亜由美は大好きだ。
「うん。じゃあ、一緒に行こうね。予約しなくちゃ」
「亜由美ちゃんにはどういうのが似合うかしら? やっぱりお姫様に憧れてるの?」
「似合うものの方がいいかなぁって思っているの」
久しぶりの親子の時間はゆっくりと夜更けまで続いたのだった。
亜由美の両親は仕事の関係で三ヶ月ほど日本に滞在することになったらしく、その間に鷹條との両親の顔合わせを済ませたり、式場を決めたりと結婚式の準備を進める。
いろいろと検討した結果、会社近くのチャペルを併設している迎賓館で結婚式と披露宴をすることに決めた。
鷹條の先輩もそこで結婚式を挙げることが多いと聞いたし、その場所は亜由美の会社からも近く、交通の便もいい。
また、ブライダルプランナーの担当者が一顧客一担当と聞いたら、鷹條がここにしようと言ったのだ。
多くは語らなかったけれど、亜由美がプランナーに相談しやすい式場を選んでくれたのだろうと思う。
会社の先輩の中には亜由美が結婚するのだという話を聞いて『男性は結婚式の準備では本当に当てにならないし、それで何度喧嘩したか分からない』と言ってきた人もいたのだが、今のところ結婚式の準備で鷹條と喧嘩をしたことはない。
──亜由美のしたいように。
そう言ってくれていても、必要な時にはプランナーに必要なことを伝えてくれるのは本当に助かった。
66
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
諦めて身を引いたのに、エリート外交官にお腹の子ごと溺愛で包まれました
桜井 響華
恋愛
旧題:自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす
꒰ঌシークレットベビー婚໒꒱
外交官×傷心ヒロイン
海外雑貨店のバイヤーをしている明莉は、いつものようにフィンランドに買い付けに出かける。
買い付けの直前、長年付き合っていて結婚秒読みだと思われていた、彼氏に振られてしまう。
明莉は飛行機の中でも、振られた彼氏のことばかり考えてしまっていた。
目的地の空港に着き、フラフラと歩いていると……急ぎ足の知らない誰かが明莉にぶつかってきた。
明莉はよろめいてしまい、キャリーケースにぶつかって転んでしまう。そして、手提げのバッグの中身が出てしまい、フロアに散らばる。そんな時、高身長のイケメンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのだが──
2025/02/06始まり~04/28完結
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる