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鳥籠から逃れた君を想う
鳥籠から逃れた君を想う②
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その呟きを聞いて、苦笑する面々だ。
「まあ、確かにここにモニターがあれば、説明もここで画像を見ながら出来ますから助かりますね」
「とりあえずカンファレンスルームにあるものでも何でもいいから、佐々木に持ってこさせなさい。画像がなければ話にならない」
「院長、病人なんですよ」
「私は医師だ」
「今は患者です、お父さん。いつも困った患者は嫌だと言うでしょう? 完全に困った患者ですよ」
父は、少し目を見開いて、
「では、後でもいい。圭一郎、とりあえず聞いてきてくれ。画像は見るからな」
と言う。
つまりは圭一郎を行かせるけれど、画像は確認するから誤魔化しは効かない、と言いたいのだ。
「分かりました」
圭一郎は尾永の後を付いて、部屋を出る。
「院長はもう圭一郎さんが可愛くて仕方ないんですね」
部屋を出てすぐ、くすくすと笑い声を漏らしながら尾永が圭一郎に言った。
それは、とても意外な言葉だった。
「父が?」
「あんな風に、その場を他人に任せられるような方ではありませんから」
「頑固だからな」
「そうなんですけど院長のあの性格ですから、信頼していなければご子息でも場を任せるなんてことはしない気がするんですね。お任せするというのは、やはり相当に信頼しているのだと思いますよ」
圭一郎にしてみれば、またわがままを言って……くらいにしか思っていなかったことが、他人からはこう見えるのかと思うと、なんだか不思議な気がした。
「そう……なんですか」
「意識をなくす直前にバイパス術なら圭一郎に手術させろと仰って、意識をなくされたくらいですから」
「は!? そんなこと言ったんですか!?」
「ええ」
本当になんていうわがままを……と、呆れた気持ちになりながらも、父らしいと思う気持ちもある。
何より驚いたのは、圭一郎になら自分の身体を預けてもいいと父が思っていたということだ。
尾永がどうぞとカンファレンスルームのドアを開けてくれた。
診察室のものよりも、こちらのモニターの方が確認しやすいからだ。
本来なら医師が何人も集まって、治療方針を検討するための部屋なのでかなりの広さがある。
いつもはさほど部屋のことを考えたことはなかったが、今日に限っては2人しかいないせいか、とても広く心細く感じた。
「で、実際はどうなんですか? バイパスが必要ですか?」
「いえ、PCIでいけると思います」
PCIは冠動脈形成術と呼ばれるもので、細くなってしまった血管に、ステントと呼ばれる、管を取り付けることで、血流を維持するものだ。
動脈は本来太い血管だ。
つまりそれは、たくさんの血液を運ぶ必要がある。
狭くなっていれば、それを維持するための手術が必要であり、今回はその治療方針を説明するためのものなのだが。
重篤なものであれば、心臓バイパス術と呼ばれる心臓に直接バイパスと呼ばれる迂回路を作る手術をすることになる。
割とたくさんされる手術ではあるが、リスクがないわけではない。
出来れば開腹するような手術は避けたいと思いつつ、身内だとこうなるんだなと圭一郎は苦笑する。
担当医である尾永は、そこまでのことはしなくて大丈夫だと言っているのだ。
圭一郎自身は尾永の判断を信頼しており、尾永は尾永で院長である圭一郎の父の意を汲んで、画像を確認しながら詳細に説明をしてくれた。
それは充分に納得出来るものだったので、圭一郎は病室に戻る。
父はベッドの上にテーブルを置き、そこで書類を確認していた。
横にはパソコンもある。
「どうだった?」
老眼鏡を外しつつそんな風に聞かれ、圭一郎はこれ見よがしにため息をつく。
「倒れたんですよね」
圭一郎はテーブルの上の書類を片付け、父が使用していたノートパソコンをパタン、と閉じた。
「しばらく禁止です」
「まあ、確かにここにモニターがあれば、説明もここで画像を見ながら出来ますから助かりますね」
「とりあえずカンファレンスルームにあるものでも何でもいいから、佐々木に持ってこさせなさい。画像がなければ話にならない」
「院長、病人なんですよ」
「私は医師だ」
「今は患者です、お父さん。いつも困った患者は嫌だと言うでしょう? 完全に困った患者ですよ」
父は、少し目を見開いて、
「では、後でもいい。圭一郎、とりあえず聞いてきてくれ。画像は見るからな」
と言う。
つまりは圭一郎を行かせるけれど、画像は確認するから誤魔化しは効かない、と言いたいのだ。
「分かりました」
圭一郎は尾永の後を付いて、部屋を出る。
「院長はもう圭一郎さんが可愛くて仕方ないんですね」
部屋を出てすぐ、くすくすと笑い声を漏らしながら尾永が圭一郎に言った。
それは、とても意外な言葉だった。
「父が?」
「あんな風に、その場を他人に任せられるような方ではありませんから」
「頑固だからな」
「そうなんですけど院長のあの性格ですから、信頼していなければご子息でも場を任せるなんてことはしない気がするんですね。お任せするというのは、やはり相当に信頼しているのだと思いますよ」
圭一郎にしてみれば、またわがままを言って……くらいにしか思っていなかったことが、他人からはこう見えるのかと思うと、なんだか不思議な気がした。
「そう……なんですか」
「意識をなくす直前にバイパス術なら圭一郎に手術させろと仰って、意識をなくされたくらいですから」
「は!? そんなこと言ったんですか!?」
「ええ」
本当になんていうわがままを……と、呆れた気持ちになりながらも、父らしいと思う気持ちもある。
何より驚いたのは、圭一郎になら自分の身体を預けてもいいと父が思っていたということだ。
尾永がどうぞとカンファレンスルームのドアを開けてくれた。
診察室のものよりも、こちらのモニターの方が確認しやすいからだ。
本来なら医師が何人も集まって、治療方針を検討するための部屋なのでかなりの広さがある。
いつもはさほど部屋のことを考えたことはなかったが、今日に限っては2人しかいないせいか、とても広く心細く感じた。
「で、実際はどうなんですか? バイパスが必要ですか?」
「いえ、PCIでいけると思います」
PCIは冠動脈形成術と呼ばれるもので、細くなってしまった血管に、ステントと呼ばれる、管を取り付けることで、血流を維持するものだ。
動脈は本来太い血管だ。
つまりそれは、たくさんの血液を運ぶ必要がある。
狭くなっていれば、それを維持するための手術が必要であり、今回はその治療方針を説明するためのものなのだが。
重篤なものであれば、心臓バイパス術と呼ばれる心臓に直接バイパスと呼ばれる迂回路を作る手術をすることになる。
割とたくさんされる手術ではあるが、リスクがないわけではない。
出来れば開腹するような手術は避けたいと思いつつ、身内だとこうなるんだなと圭一郎は苦笑する。
担当医である尾永は、そこまでのことはしなくて大丈夫だと言っているのだ。
圭一郎自身は尾永の判断を信頼しており、尾永は尾永で院長である圭一郎の父の意を汲んで、画像を確認しながら詳細に説明をしてくれた。
それは充分に納得出来るものだったので、圭一郎は病室に戻る。
父はベッドの上にテーブルを置き、そこで書類を確認していた。
横にはパソコンもある。
「どうだった?」
老眼鏡を外しつつそんな風に聞かれ、圭一郎はこれ見よがしにため息をつく。
「倒れたんですよね」
圭一郎はテーブルの上の書類を片付け、父が使用していたノートパソコンをパタン、と閉じた。
「しばらく禁止です」
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