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鳥は鳥籠に戻る
鳥は鳥籠に戻る②
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佐々木はそんな気持ちをぐっと呑み込んだ。
「そうはいきませんね。お父上にはオンナだろうと言われてはいましたが。あの性癖はどちらなんです?」
「性癖?」
「緊縛でしょう?」
正直、個人的な性癖について、云々するつもりはない。
それよりも跡継ぎとしてやってほしい、やらなくてはならないことが、圭一郎にはある。
「いや? 監禁だよ」
圭一郎は佐々木を真っ直ぐに見る。
けれど、その真っ直ぐさの中に仄暗いものが見えて、佐々木はぞくっとした。
──こんな眼を、する人だったか?
いや、そうだったのかもしれない。
佐々木が知らなかっただけで。
であれば『監禁だ』と言い切る圭一郎にも納得だ。
佐々木はこれ見よがしにため息をついて見せた。
「それでお帰りになれなかったということですかね」
「違う。俺が珠月に夢中になった。それで帰りたくなくなったんだ」
性癖があろうがなかろうが圭一郎は大病院である北高会病院の跡継ぎなのだ。
これは、切り離すべきだ、と佐々木は判断した。手段は選ばない。
「なるほど……」
佐々木は、足早に2階に向かう。
頭の中を目まぐるしく色んな考えが行き交ったけれど、見たこともない圭一郎を作り出したのが、まるで彼女のように思えた。
ならば断絶すれば、圭一郎は元に戻るのではないかと、後から思えば短絡的だったのだが佐々木はそう思ってしまったのだ。
「……おい!」
佐々木の後を追って、圭一郎が付いてきていたのは気配で察していた。
けれど絶対に今ここで何とかすると決意したから。
ガン!と荒々しくドアを開けると、彼女は驚いた様子で佐々木を見た。
まるで透けそうな気配の妖精のような女性だ。
しかしこの美しさと甘さで圭一郎を手玉に取ったのかと思うと、ただ腹立たしい。
佐々木はその感情のまま、珠月と呼ばれていた彼女にぶつかった。
「起きましたね。一体、目的は何なんです? 北高会病院ですか? あなたのような得体のしれない女性が圭一郎さんのお相手にでもなれるとでも? 思い上がりも甚だしいな」
目覚めた瞬間に、知らない男が目の前にいて、強い感情をぶつけられたのだ。
彼女は可哀想に、真っ青になっていた。
「私、圭一郎さんを愛しています。あなたにとっては得体が知れないかもしれませんけれど、それだけは本当のことです」
どんな愛なんだか。
その可憐さに一瞬、気持ちを掴まれそうになったけれど、佐々木は何とか気持ちを立て直す。
「どうやって圭一郎さんを誘惑したんです? そうやって? あなただけを愛していると可愛い顔で迫ったんですか。圭一郎さんはウブなところがありますからね、チョロかったでしょう」
「なんてことを……!」
一瞬、呆気にとられたような表情をした彼女は、思ったよりも強い瞳で佐々木を見返してきた。
佐々木は敢えて胸元から預かっていた現金を取り出し、珠月に向かって投げた。
受け取って姿を消してくれれば、それでいいと思った。
だからそれに珠月が手を触れた時はつい安心してしまった。純粋に見えても金の力には適わないのだと思って。
けれど珠月はそれを佐々木に押し返したのだ。
「可哀想な人ね。私は圭一郎さんが好きだったからここにいたんです。ただそれだけだわ。この人にご迷惑がかかるのならいつでも居なくなって差し上げます」
そう言うと、彼女はすっくとでも、音がしそうなくらいにキリッと立ち上がった。
むしろ、圭一郎の方が動揺していたと思う。
「珠月……!」
圭一郎が、珠月の腕を掴むのが見えた。彼女は緩やかにその手をそっと外す。
そして、圭一郎に向かって優しい笑顔で微笑みかけた。
「そうはいきませんね。お父上にはオンナだろうと言われてはいましたが。あの性癖はどちらなんです?」
「性癖?」
「緊縛でしょう?」
正直、個人的な性癖について、云々するつもりはない。
それよりも跡継ぎとしてやってほしい、やらなくてはならないことが、圭一郎にはある。
「いや? 監禁だよ」
圭一郎は佐々木を真っ直ぐに見る。
けれど、その真っ直ぐさの中に仄暗いものが見えて、佐々木はぞくっとした。
──こんな眼を、する人だったか?
いや、そうだったのかもしれない。
佐々木が知らなかっただけで。
であれば『監禁だ』と言い切る圭一郎にも納得だ。
佐々木はこれ見よがしにため息をついて見せた。
「それでお帰りになれなかったということですかね」
「違う。俺が珠月に夢中になった。それで帰りたくなくなったんだ」
性癖があろうがなかろうが圭一郎は大病院である北高会病院の跡継ぎなのだ。
これは、切り離すべきだ、と佐々木は判断した。手段は選ばない。
「なるほど……」
佐々木は、足早に2階に向かう。
頭の中を目まぐるしく色んな考えが行き交ったけれど、見たこともない圭一郎を作り出したのが、まるで彼女のように思えた。
ならば断絶すれば、圭一郎は元に戻るのではないかと、後から思えば短絡的だったのだが佐々木はそう思ってしまったのだ。
「……おい!」
佐々木の後を追って、圭一郎が付いてきていたのは気配で察していた。
けれど絶対に今ここで何とかすると決意したから。
ガン!と荒々しくドアを開けると、彼女は驚いた様子で佐々木を見た。
まるで透けそうな気配の妖精のような女性だ。
しかしこの美しさと甘さで圭一郎を手玉に取ったのかと思うと、ただ腹立たしい。
佐々木はその感情のまま、珠月と呼ばれていた彼女にぶつかった。
「起きましたね。一体、目的は何なんです? 北高会病院ですか? あなたのような得体のしれない女性が圭一郎さんのお相手にでもなれるとでも? 思い上がりも甚だしいな」
目覚めた瞬間に、知らない男が目の前にいて、強い感情をぶつけられたのだ。
彼女は可哀想に、真っ青になっていた。
「私、圭一郎さんを愛しています。あなたにとっては得体が知れないかもしれませんけれど、それだけは本当のことです」
どんな愛なんだか。
その可憐さに一瞬、気持ちを掴まれそうになったけれど、佐々木は何とか気持ちを立て直す。
「どうやって圭一郎さんを誘惑したんです? そうやって? あなただけを愛していると可愛い顔で迫ったんですか。圭一郎さんはウブなところがありますからね、チョロかったでしょう」
「なんてことを……!」
一瞬、呆気にとられたような表情をした彼女は、思ったよりも強い瞳で佐々木を見返してきた。
佐々木は敢えて胸元から預かっていた現金を取り出し、珠月に向かって投げた。
受け取って姿を消してくれれば、それでいいと思った。
だからそれに珠月が手を触れた時はつい安心してしまった。純粋に見えても金の力には適わないのだと思って。
けれど珠月はそれを佐々木に押し返したのだ。
「可哀想な人ね。私は圭一郎さんが好きだったからここにいたんです。ただそれだけだわ。この人にご迷惑がかかるのならいつでも居なくなって差し上げます」
そう言うと、彼女はすっくとでも、音がしそうなくらいにキリッと立ち上がった。
むしろ、圭一郎の方が動揺していたと思う。
「珠月……!」
圭一郎が、珠月の腕を掴むのが見えた。彼女は緩やかにその手をそっと外す。
そして、圭一郎に向かって優しい笑顔で微笑みかけた。
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