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鳥は窓辺で歌う
鳥は窓辺で歌う④
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ただ優しいその腕の中で、珠月は甘えるように身体を寄せるだけなのだ。
準備が整ったから一緒に来て欲しい。
圭一郎にそう言われて珠月は頷いた。
圭一郎はいつも、もう離れたくないと言う。
珠月も、もう離れたくないと思っているから。
時期が来たら圭一郎と一緒に行くということはペンションのオーナーにも伝えてあった。
オーナー夫婦はとても喜んでくれた。
珠月がいちばんボロボロだった時に、何も言わず置いてくれた優しいご夫婦なのだ。
今でも珠月のことを妹のように家族のように大事にしてくれている。
『みっちゃんはね、幸せになるべきだよ』
ずっとずっとそう言ってくれていた。
珠月が涙で明け暮れていた時も幸せにならなきゃ、君にはその権利があると言い続けてくれていた。
だから、立ち直ることが出来たのだと思う。
別荘を飛び出してきた珠月は相当に不穏だったとは思うのだが、そんな珠月にも優しくしてくれた人達だ。
だから珠月を大事にしてくれる圭一郎と一緒に行くと言っても引き止めることはせず、喜んでくれたのだ。
そうして、これから珠月が住むところだよと圭一郎が連れて行ってくれたのは……。
珠月と祖母が住んでいた家だった。
しかもその家は祖母の甥にとられていたはずなのに。
「少しだけ庭とか水回りとか、部屋の中もちょっとだけ触らせてもらったけれど」
そう圭一郎が言うのに、珠月は家の中を見て回る。
間取りは変わっていなかったけれど板の間は綺麗にされていたし、畳も新しいものに張り替えられていた。
庭は雑草も取り除かれ綺麗に整えられていて、キッチンも最先端のものが入っている。
珠月の瞳にみるみる涙が溜まっていった。
「ありがとう。嬉しい……。けど、どうして? ここは別の人がいたでしょう?」
「遺言がね、あったんだよ」
「え?」
そんなことは知らなかった。
「知らなかっただろう?」
「はい……」
「病院に珠月のおばあさんのことを知っている看護師がいてね。うちからは転院しただろう? だから亡くなったことを知らなくて。その話をしたら、じゃあ、お孫さんはお一人でお住まいで寂しいですねって言うんだな」
確かに祖母が亡くなったのは圭一郎の病院ではなかった。
しかし長く入院していたので、祖母のことを知っている人がいてもおかしくはない。
「家は孫に残したいと言っていて、遺し方を相談したいと言っていたんだって。それで詳しい人をうちの看護師が紹介したそうだ」
その人に病院の顧問弁護士から連絡を取り、法的に正しいことが証明され、その親族は追い出されたのだという。
『相続において、遺言は全ての権利に優先される』
「遺言は弁護士が預かっているから開示してもらうといいよ。本当は俺が勝手に部屋の中を変えてしまうのは良くないんだけど……」
実際、弁護士には圭一郎はとても叱られたのだ。
「でも婚約者なんだからいいだろうと押し切ってしまった」
縁側から、庭へと続く障子を、珠月はさらりと開ける。
「ああ……」
右手には物干しがあって、正面には植木、左手には築山。
変わらない光景だ。
そして開け放した障子からは、空が綺麗に見える。
準備が整ったから一緒に来て欲しい。
圭一郎にそう言われて珠月は頷いた。
圭一郎はいつも、もう離れたくないと言う。
珠月も、もう離れたくないと思っているから。
時期が来たら圭一郎と一緒に行くということはペンションのオーナーにも伝えてあった。
オーナー夫婦はとても喜んでくれた。
珠月がいちばんボロボロだった時に、何も言わず置いてくれた優しいご夫婦なのだ。
今でも珠月のことを妹のように家族のように大事にしてくれている。
『みっちゃんはね、幸せになるべきだよ』
ずっとずっとそう言ってくれていた。
珠月が涙で明け暮れていた時も幸せにならなきゃ、君にはその権利があると言い続けてくれていた。
だから、立ち直ることが出来たのだと思う。
別荘を飛び出してきた珠月は相当に不穏だったとは思うのだが、そんな珠月にも優しくしてくれた人達だ。
だから珠月を大事にしてくれる圭一郎と一緒に行くと言っても引き止めることはせず、喜んでくれたのだ。
そうして、これから珠月が住むところだよと圭一郎が連れて行ってくれたのは……。
珠月と祖母が住んでいた家だった。
しかもその家は祖母の甥にとられていたはずなのに。
「少しだけ庭とか水回りとか、部屋の中もちょっとだけ触らせてもらったけれど」
そう圭一郎が言うのに、珠月は家の中を見て回る。
間取りは変わっていなかったけれど板の間は綺麗にされていたし、畳も新しいものに張り替えられていた。
庭は雑草も取り除かれ綺麗に整えられていて、キッチンも最先端のものが入っている。
珠月の瞳にみるみる涙が溜まっていった。
「ありがとう。嬉しい……。けど、どうして? ここは別の人がいたでしょう?」
「遺言がね、あったんだよ」
「え?」
そんなことは知らなかった。
「知らなかっただろう?」
「はい……」
「病院に珠月のおばあさんのことを知っている看護師がいてね。うちからは転院しただろう? だから亡くなったことを知らなくて。その話をしたら、じゃあ、お孫さんはお一人でお住まいで寂しいですねって言うんだな」
確かに祖母が亡くなったのは圭一郎の病院ではなかった。
しかし長く入院していたので、祖母のことを知っている人がいてもおかしくはない。
「家は孫に残したいと言っていて、遺し方を相談したいと言っていたんだって。それで詳しい人をうちの看護師が紹介したそうだ」
その人に病院の顧問弁護士から連絡を取り、法的に正しいことが証明され、その親族は追い出されたのだという。
『相続において、遺言は全ての権利に優先される』
「遺言は弁護士が預かっているから開示してもらうといいよ。本当は俺が勝手に部屋の中を変えてしまうのは良くないんだけど……」
実際、弁護士には圭一郎はとても叱られたのだ。
「でも婚約者なんだからいいだろうと押し切ってしまった」
縁側から、庭へと続く障子を、珠月はさらりと開ける。
「ああ……」
右手には物干しがあって、正面には植木、左手には築山。
変わらない光景だ。
そして開け放した障子からは、空が綺麗に見える。
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