俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ

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挿話

These days will continue.

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 こちらのエピソードは時系列的に本編第3章・253話で描いた智×知香の結婚式…その裏側で起きていた、あの方々のお話です。お楽しみいただけますように。




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(ん~と……こっちはまだ未着手。こっちは来週支払い分、と……)

 月末が差し迫った日の夕方。リビングのダイニングテーブルにカレンダーと書類を広げ、椅子に座り込んで今月分の会計処理を進めていく。タンザニアに移住して半年が経った今年の春先から、スワヒリ語を習得しつつある俺にカナさんは会計処理を投げてくるようになった。タンザナイトをはじめとする自分の商談に集中したいという意思の表れなのだと思うが、相変わらず唐突に色んな仕事を振ってくるのは勘弁してくれないだろうか。

 商談に関する資料やその他の資料の整理をしていると、ドライヤーをかけ終えたカナさんが浴室からリビングへと戻ってきた。そのまま俺の正面の椅子に腰かけると、彼女の動作に合わせてふわりと石鹸の香りが広がっていく。

「ただいま」
「ん~。おかえり」

 カナさんの声に、書類に視線を落としたまま言葉を返す。カナさんはお手洗いに立つとか、別部屋に荷物を取りに行くとか、そういった日常の些細な出来事にも「ただいま」「おかえり」を欠かさないひとだ。これは籍を入れる前、俺がタンザニアに移住し同居を始めた初日から変わらない。その理由までは、今もさっぱりわからないけれど。

(そういえば……)

 タンザニアに初めて足を踏みいれ、カナさんに空港まで迎えに来てもらい、同居を始めた翌朝。俺がシャワーを浴びてこのリビングに戻ってきた時。その時も、カナさんは電話をしながらも「おかえり」という言葉を俺に投げかけてくれた。俺はもうずっとひとりで暮らしていたからか、少し驚いたのと同時に、あの瞬間に途方もない面映ゆさを覚えたのを忘れたことはない。

 大切な想い出の一欠けらをぼうっと眺めながらも書類を見つめ帳簿に数字を書き込んでいくと、ふっと。カナさんの火照った手のひらが俺の頬に触れた。そして、その手が俺の髪へと滑ってくる。細い指先は、そのまま俺の毛束をゆるりと摘まんだ。相変わらず突拍子もないカナさんの行動に、俺は書類から顔をあげ小さく首を傾げ、心のままに問いを投げかける。

「……何してるの?」
「え? いや、こういう風にマサの頬っぺた触ったり髪の毛触ったりできるのって、私だけの特権だなぁって改めて思って」

 目の前のカナさんは頬杖をつきながら物珍しそうに俺の髪を撫でまわす。俺の頬に触れるのも、髪を撫でるのも、後にも先にもカナさんだけの特権。あとは彼女の兄であるマスターくらいか。

「まぁ…………うん、そうだね」

 彼女と彼は、俺の大切な家族。俺を愛してくれる人、そして同じだけ、いや、それ以上に愛を返せる人たち。今はもう、躊躇いもなくそう言い切れる。カナさんと籍を入れて3ヶ月が過ぎ、穏やかで優しい日々が、こうした何気ない時間が、俺の欠けた半分を幸福で埋めていく。

 じんわりと心があたたかくなる。へにゃりと笑んでみせれば、カナさんも同じくふっと笑みを浮かべた。

「もうそろそろ、エアメールが日本に届いたかしら」

 俺の頭からするりと引かれたカナさんの左手に光る銀色の光。その光が辿る軌跡を眺めていると、赤い唇がゆるりと弧を描く。紡がれたその言葉に目を瞬かせ、手元のカレンダーに視線を落とす。今日は―――― 6月、24日。

「……あぁ、そっか。今日だっけ。知香ちゃんたちの結婚式」
「そう。邨上のポカンとした顔が見れないのが残念だわ」

 カナさんは何かを企んでいるかのように琥珀色の瞳を細め、楽しそうに髪を揺らした。俺と籍を入れたことをメッセージ本文の最後に記した署名でだけで元部下にほのめかそうと画策するあたり、本当にこの人は何を考えているのかわからないペガサスだ。

(……智くんも、カナさんに振り回されて大変だったろうね~ぇ……)

 もう二度と言葉を交わすことはないだろう、ダークブラウンの瞳を脳裏に思い浮かべる。あんなことがあったとて彼とは相容れないし、大嫌いな人間だけれど、同情『は』してやってもいい。それくらい、俺も目の前のペガサスに振り回されているのだから。

「邨上のびっくりした顔が見れない分、今日くらいはマサのそういう顔を見てもいいわよね?」

 両手で頬杖をついたカナさんは、いつものように悪戯っぽく笑みを浮かべている。……今度は何を企んでいるのだろう。というよりも、いつだって俺の「そういう顔」をカナさんは見ているだろうに。

「……いつも見てると思うけど」
「あら、そうかしら?」

 訝しむように声を返した俺の表情を見遣ったカナさんは、とぼけたように小さく肩を竦めた。俺を振り回している自覚がないとは言わせない。何かまた仕事を振ってくる気だろうか。そう身構えた次の瞬間、カナさんは、はっとするほどに艶やかな極上の笑みを浮かべた。それはまるで、天から浴びた光に照らされたような。ありあまる幸福を、噛みしめるような。

「あのね、マサ。来年の春――――」

 はにかんだように笑んだカナさんから告げられた言葉を理解するまでに、数分の時間がかかったような気がする。それらの言葉が心に沁み渡った瞬間、ふわり、と。使が、俺の頬を撫でた気がした。
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