55 / 92
054 変異体マージベア
しおりを挟む「考えろ。アイツの正体を探れ。あの魔物……恐らくマージベアと思われる魔物が、なぜあんな姿になっているか」
ジベと違いあの変異したマージベアは目が繰り抜かれたように無くなっており、だらりと開いた口からは溶け始めた牙が生えていた。今はまた他の魔物を体に纏ってしまい、その姿を確認できない。
変異マージベアはこちらに気付いた様子はなかったように思う。あれだけ派手に体を吹き飛ばしたのに、だ。意識が既にないのか、はたまた感知する器官に俺が見つかっていないだけなのか。
とにかく行動を起こす。俺はまたも距離を詰め、練術を拳に使用する。
「金剛拳!!」
黄金に輝く拳は魔物たちを爆散させつつ、変異体の元へ飛び込んでいく。
何かに気付いたらしい変異体は、鉱石のついた手で頭部を守る。俺の拳は鉱石を殴りつけた。
「イデェ!」
なんてことはない。壁を思いきり殴った時のような痛みが俺の拳を襲っただけだった。
しかし、今の俺は練術を使用している。ただの壁や鉱石なんて弾け飛んでもおかしくないはずなのに。
「グ……ルァ……!」
変異マージベアが低く唸る。そのまま俺の方へ爪を向けてくるが、俺は既に距離を開けていてそこにいない。
と、そこに更に周囲の魔物が引き寄せられていく。一瞬露出していた頭部はまたも他の魔物によって覆われてしまう。
いくら攻撃しても効かず、新たに魔物を補充されてしまう。これでは埒が明かない。
俺は一度鱗纏を解く。そして変異体から距離を取ると、座禅を組んで地面に座る。
「すぅー……」
深く、深く呼吸をする。今俺が許容できるギリギリの量の気を取り込む。
許容量はいつかに無茶をした時に十分理解した。自暴自棄になった戦い方だったが、あの時の無茶が今俺の許容値の尺度になっている。
大量の気を練り込むと、俺の体はいつかのように輝き始める。香水によって俺から距離を取っていた魔物たちが、その光を忌避するように更に距離を取る。
練術はここの魔物たちにかなり効果があるようだ。生存本能によってその危険度を理解したらしい彼らは、一目散に走りだし、洞窟の出口の方へ駆けていく。
俺は静かに立ち上がり、両手を前に突き出す。
「練術、煌々練波!!」
光線を繰り出す。今度は両手から放ち、より多くの魔物たちを殲滅していく。
生存本能の高まりによって逃げる魔物もいれば、自棄になって飛び出してくるのも生存本能か。
「けど、焼くだけだ!」
飛び出してきた魔物が一瞬で消滅する。まだ変異体に触れていない魔物の体液には毒性はない。俺はそれを浴びてしまったが、構わず周囲に光を放つ。
そう。今の魔物は生存本能により俺を襲った。ならばもっと巨大でよりその力の強い奴はどうするだろうか。
「グル……ルァア!」
変異体のマージベアが俺の方へ飛び込んできた。難なくかわすが、今までと様子が違うことに気付く。明らかに俺の存在に気付いている。
今まで俺が接近しても無視していたマージベアが、今度はあちらから攻撃を仕掛けてきた。この事実に俺は少し焦る。
落ち着け。状況はいつもと変わらない。さっきまでが余裕があり過ぎたんだ。
「グルロロロロ」
変異体の唸り声と思わしき声が響く。喉が上手く鳴らせないのか、液体の混じったような音になっている。
そいつが足を蓄え、飛び込む体勢を取った。こちらに飛び込んでくる気だ。急いで逃げろ。
俺は練術を使用したまま走り出す。洞窟の出口まで逃げるには少し時間がかかるが、道中気を付ければ大丈夫なはずだ。森の中に進めば障害物も多く、練術による戦法も増える。
だが、次の瞬間こちらに飛び出すもう一つの影に俺は思わず身を固めた。
「ぐッ!」
練術で覆った腕で攻撃を止める。襲ってきたのは今まで俺から逃げていた魔物だ。
香水で俺には近づかないはずなのに、と思った次の瞬間。
変異体マージベアが俺へと向けてそのドロドロの体を突っ込ませてきていた。
「鱗纏!!」
体が遥か後方に吹き飛ばされる。壁にめり込んだらしく、かなり動き辛い体勢になっている。
痛みは無視できる程度だ。ギリギリで練術を使用して毒も受けずに済んだ。だが、周囲を魔物に囲まれている状況はマズイ。この状態で変異体からは逃げきれない。
どろ、と頭部から液体が流れてきたので手で拭って気付く。そうだ、俺はさっき魔物の体液を浴びたんだ。これで匂いがなくなってしまったんだ。
俺は壁から何とか抜け出し、剣を抜く。練術を使用すると剣が黄金に輝く。こいつらの相手は出来ない。変異体マージベアが俺を狙ってきているのも、退路を塞ぐ魔物もマズイ。今まで以上に手加減不要な状況に、俺は深い息を一つする。
「いくぞ!!!」
俺は飛び出す。
魔物は剣に触れるだけで爆散する。その体液は鱗纏が防ぐ。変異体マージベアにまとわりつく魔物たちを切り裂くが、数秒で他の魔物が補充される。
どういう仕組みか全くわからない。何故こいつは他の魔物を纏っているのか。何故俺の位置が急にわかるようになったのか。
そもそもマージベアがこうなった原因は……。
「鉱石を食った……のか?」
俺は思い出す。
ジベが口の中を見せてきていた時、その牙に何がついていたか。動物の肉片、植物の繊維、そして石の破片。
マージベアはただの熊じゃない。魔力を持って産まれ生きる、魔物だ。その食事内容が通常の動物なんかと一緒なわけがない。
ジベの口の中にあった石の破片は、たまたま口に入ったんじゃない。あいつも石を食ったんだ。つまり、このマージベアも鉱石を食らった。
「それで今、こうなってんのか……!?」
「ゲルォッ! グロロロロロロ!!」
変異体マージベアが叫ぶ。次の瞬間、魔法陣が周囲に現れる。
「!? こ、これは!!」
そしてその魔法陣から氷の槍が多数飛び出し、周囲の魔物ごと俺に襲い掛かる。
「小ドラゴンの技と似てる……!」
更に魔法陣が増え、そこから先程よりも大量の槍が俺を襲った。
俺はすかさず練術で地面を殴り、巻き上がった土で防ぐ。それでも全部は防ぎきれないので、俺は自分で開けた穴に飛び込んだ。
「……し尽くせ。炎撃魔法、ギガフレア!!」
直後、誰かの声が響き。俺の上を炎が通っていった。詠唱を唱えていたようだが、そこまでは聞き取れなかった。
今一瞬でも穴に飛び込むのが遅ければ焼かれて死んでいたかもしれない。跳ねる心臓がやけにうるさい。
炎が止み、俺はそっと顔を出す。
そこにいたのは。
「おや? 先程のギルドの方。貴方もこの魔物から魔炎を回収に来たのですか?」
「な、なんだと!?」
魔の導き、と呼ばれる黒い集団だった。
0
あなたにおすすめの小説
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる