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055 変異体、死霊術師、ジベ
しおりを挟む「天槍抱かざれば暗夜の帳を打ち払えん。我が手に宿り力を示せ! 雷撃魔法、ギガライトニング!!」
三人の男が同時に詠唱した。三人からそれぞれ魔力が集約したのが見える。リーダー格のローブの男が杖を振ると、そこから光が現れる。
ルーンの使うライトニングよりも遥かに強力な雷撃が繰り出された。その攻撃をもろに受けた変異体マージベアが吹っ飛んで倒れる。
俺は穴から飛び出して奴らの方を向く。
「お前たち! どういうつもりだ! この魔物を倒しに来たのか!? 魔炎ってどういうことだ!!」
「おやおや、知らずにここに来たのですねぇ。しかし魔炎という名を知っているとは、ただのギルドメンバーではないのですかねぇ?」
前にはローブの男たち。後ろには変異体マージベア。彼らが潰し合う分には俺としては一向に構わない。
だが目的が分からない。魔炎を回収しに来たと言っても、このマージベアからは魔炎の気配なんてない。
「魔炎の回収って言葉も気になるが、魔の導きと名乗るお前たちのことはステラからも聞いたぞ……!」
「ほうほう。さっきはピンと来てなさそうでしたが、あの少女が我々を知っていたのですねぇ。ならばローブも着替えてしまいましょうかねぇ」
リーダー格の男が言うと、四人全員がローブを翻す。裏返し着替え直すと、黒地に赤いラインの物に変わった。
そして奴らは首元を何やら触る。服の中に隠していたネックレスだ。
その形状に俺は確信する。
「ドクロに十字架のネックレス……! やはりお前たちが死霊術師の集団か!」
「正解ですよぉ。ま、世間の名付けた呼び名ですけどねぇ」
リーダー格の男の素顔が露になる。髪が白に染まった初老の男性。
その他三人の男たちも40代程度と思われる風貌。その中の、粗暴そうな短髪の男が口を開く。
「俺らのことを知っちまったからには、ただで帰すわけには行かなくなっちまったぜェ? なあ坊主?」
「……」
俺は考える。俺にはやり直しの力がある。そしてその俺の最強の武器は情報だ。
ここ何日かで自覚をしたが、俺の力は情報収集とその活用に真価を発揮する。つまり、今俺はこいつらから何かしらの情報を引き出さなければならないわけだ。
「どうせ殺されるなら教えてくれよ。お前たちは何が目的で、何をしているのか」
「えらく物分かりがいいじゃねーか! 冥途の土産だ、教えてやる。俺たちは魔王の復活とその為に――」
「――やめなさい。あの少年は何かを企んでいますよぉ」
粗暴そうな男が話すのを、初老の男が制する。
惜しい。目的がバレてしまった。俺は顔に出やすい性質だったな、忘れていた。
初老の男が俺を警戒しつつ口の端を歪ませる。多少警戒しているとはいえ、余裕そうな顔だ。
彼はこちらへ歩み寄るとネックレスを掴む。何か嫌な予感のした俺は練術を体に纏う。
「ただ、魔炎の力については多少教えてあげますよぉ。例えば、こんな風に使うとかねぇ!!」
ネックレスから黒い炎が飛び出す。今まで見たどの魔炎よりも高濃度で高密度なエネルギーなことが一目でわかった。
俺は練術を最大限防御に回し、魔炎を腕で受ける。熱さはない。だが、何か物凄い力で練術を削りに来ているのを感じる。
アスラの時も、ブリーの時もこれほどのエネルギーはなかった。
「ぐ……!」
ニヤついた男たちの表情が気に障る。魔炎が俺の体にまとわりつこうとし始め、押し返せない。更なる力を蓄える為、一呼吸しようとした。
「グ……ル……ルァァ!!」
その時、背後からマージベアの唸り声が響く。男たちは杖を構え、魔物に相対する。魔物が走る。だが、狙いはどうやら俺らしく、その爪が俺へと伸びてくる。
練術で魔炎を押し返そうとしたが仕方ない。ここは一度攻撃を受けよう。この一撃で死ぬことはない。もし重傷を負っても力を振り絞ってやり直すことは、経験上可能だ。
俺はそう判断し、目を瞑る。
「ガルルルルガァアア!!」
しかし爪は俺に届かない。変異体マージベアには出せないはずの唸り声。
俺がゆっくりと目を開けると、そこには見覚えのある毛むくじゃらの背中。変異体マージベアの黒くてドロドロした巨大な爪を受け止める、同じような爪の持ち主。
「ジベ!!」
そこに立っていたのは俺たちの知るマージベア、ジベだった。
「助けに来てくれたのか! ちょっと待っててくれよ……! 練術!!」
俺は気を更に吸収。体中に練術を用いて先程より力を増幅させ、地面を蹴る。
そのままぐるりと向きを変え、変異体へ魔炎を押し付ける。魔炎がドロドロの魔物たちを溶かす。本体には届かなかったようだが、それでも足止めにはなったらしかった。
「ありがとうジベ! けど、ステラはどうした! 外で待ってるのか?」
「グル!」
問うとジベは頷いた。
「――らせ。雷撃魔法、ライトニング!」
「ジベ、逃げろ」
後方から聞こえた声に、俺はすかさず剣を抜く。死霊術師の連中がまだ俺への追撃を行ってきている。
練術を纏わせずともこの雷撃魔法ならこちらで吸収できる為、俺は奴らの方へ走る。ライトニングを剣で巻き取った後、俺は練術を使用する。
後方からは魔炎の攻撃を耐えきった変異体が、魔法陣を展開して来ている。死霊術師と変異体に挟まれた状況を打破しなければならない。
「グルルルルッ!」」
「うお!」
死霊術師が追撃で魔法をいくつか放つ。俺が迎撃しようと走るのを、ジベが俺を咥え上げ、その背に跨らせる。
「の、乗っていいのか? お前、ステラしか乗せたくないのかと勝手に思ってた」
「グルル!」
「状況が状況だけに許してやる、って感じかな」
「グル!」
正しいと言わんばかりの返事に、思わず微笑む。
正面から飛来する魔法は俺の剣では斬り伏せられない。ジベが避けるのに任せていると、ド正面にドでかい魔法が現れる。フレアの魔法だ。
「ジベ! 俺を降ろせ! あの魔法は避けきれない!」
「グルルァ!!」
「!?」
ジベが拒否するように唸る。直後、この魔物の前に魔法陣が現れる。あの変異体や小ドラゴン程の強力な魔法ではないが、それでも生み出された吹雪がフレアを迎撃する。
「マージベア……そうか、種族自体が魔法を使う熊なんだな。凄いぞジベ!」
「グ……ル……ロロロロロラァ!」
後方から水の混じったような唸り声。そうだ変異体が魔法陣を展開しているままだ。
「ジベ、正面は任せる! 俺は後ろのあいつをどうにかしてみる!」
ジベの背に跨ったまま俺は右手に練術を使用する。今日何度目かの技、煌々練波を繰り出し魔法陣を破壊していく。
すぐにジベは死霊術師たちの元へ辿りつくが、俺は止まらないように指示をする。
男たちの頭を跳び越えた結果並びが、変異体、死霊術師、俺たち、の順に変わる。今度は俺が死霊術師を挟み撃ちにする番だ。
「これは……少年は貴方たちに任せます。私は魔炎の回収を行います」
リーダー格の男が指示を出すと、三人が俺の方を向いた。
ジベから飛び下りると、俺は剣を構える。先程奴らから奪ったライトニングによって、剣がバリバリと音を鳴らしている。
戦力に不利はない。この三人相手なら勝てる。
「さあ、マージベアよ! この私に魔炎を献上なさい!」
向こうでは白髪の男が叫んでいた。
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