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056 ジベとの共闘、そして

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「うおおおおお!!」

 俺は剣を振りつつ走る。男たちは全員魔術師らしく、近距離武器を持たない。
 故に魔法攻撃が主なのだが、それぞれが詠唱を必要とする為それだけでこちらに余裕ができる。
 短髪の男に斬りかかると、奴は思わず杖でそれを受けた。ライトニングを纏った剣だ。一瞬でそれが砕け散る。

「つ、杖が……!」

 男が膝をつく。次いで残り二人の杖も破壊する。魔法使いは杖を壊されれば魔法を使えない。……と言うわけでもないだろう。
 並の魔法遣いなら杖なしでは使い物にならないが、曲がりなりにも死霊術師だ。この程度で終わると思えない。

「さあ立てよ! お前たちも魔炎を使えるんだろ! …………ん?」

 啖呵を切ってそう告げていた時、男たちが目を剥いて俺の後方を指さした。こんな状況でえらく古典的な逃避方法を取ったな、と思ったがどうやら様子が違う。
 俺も振り返ると、そこには入り口に溜まっていた魔物の群れが押し迫っていた。
 俺は慌ててジベの首を掴むと、洞窟の奥へ走り始める。男たちも先に奥へ向かっていた。

「おい! どうなってるんだ!」

 訊ねると、短髪の男が手を前後に大きく振りながら返す。

「俺たちが来るときにある程度蹴散らしながら来てたのは見たな!? ギガフレアとかぶっ放してよ! けど、ここのマージベアは魔石パピリティスを食ってるから、魔物がその魔力を求めてやってくんだよォ!!」
「おい、あまりベラベラ……ぶげっ!」

 短髪を制止しようとする他の死霊術師。
 なるほど、そういうわけだったのか。魔石パピリティスって言うのか……。
 俺は制止する男を剣の柄で吹っ飛ばすと、続けて問う。

「あの変異体マージベアの形態はなんだ! 何故魔物の体が溶けてマージベアに引っ付いてる!」
「魔力を求めた結果だ! マージベアが魔石を食った影響でとんでもない引力を発生させててなァ! 魔物自体、魔力と親和性が高すぎて魔石側が奴らを吸収しようとしちまって、肉体そのものが魔力になろうとしているのがあの状態だ! 要は魔物の体を代償に、高密度の魔力を生み出してんのがあの変異体だ! んで、それを頂いて魔炎にしようとしてるのが俺たちって訳よォ!」
「なるほどな……」

 俺は呟く。

「あ!!」

 唐突に男が声を上げる。

「なんだ!」
「全部喋っちまった!」
「ああそうだな! 知りたいことが聞けて良かったよ!!」

 俺は男を追い抜いて奥へ行く。
 変異体マージベアのドロドロが無くなっており、初老の男のネックレスが嫌な輝きを放っていた。……魔炎への変換が終わったんだ。

「おや、次の餌と共にやって来たのですねぇ……。この量があればどんどん魔炎が手に入って便利なのですが、如何せん帰りが面倒で堪りませんねぇ」
「次の餌……あの魔物の群れのことか」

 魔炎の量が見てわかるほど増幅している。普段はドクロと十字架のネックレスの中に入っているらしいが、そこから魔炎が漏れてユラユラと尾を引いている。
 その光だけで部屋が黒と言うか、紫に染まっているのだ。

「ああ、あの魔物の群れもそうですが。君のお仲間のそれ、一番初めに食われますよ」
「……?」

 男が俺の背後を指さす。
 後ろにはジベがいる。いたはずだ。
 俺が不審に思いつつ振り返ろうとしたその時――

「――なにぃぃぃいい!!?」

 ジベが宙を舞い……何かに引き寄せられるようにして飛んでいっていた。

「そりゃあそうでしょう。元々マージベアなんですから、より親和性の高い魔物から吸収されるに決まっています」
「ジベェ!!!」

 練術をフルに使用する。
 引き寄せられるその前足を掴み、俺はなんとか引っ張り返そうとするが、鉱石に剣が引き寄せられた時と同じだ。
 びくともしない。

「なら、本体を叩く!」
「無駄ですよ」

 男が呟くのを無視して、俺はジベが引き寄せられるより先に飛び込み、変異体マージベアへ斬りかかる。
 が、剣が吸い込まれてしまい武器を手放してしまう。俺は練術、金剛拳へ切り替え変異体を何度も殴りつける。しかし一向に響いた様子はない。
 そして次の瞬間。

「グルルルルルウウウウ!」
「ジベ!」

 ジベが変異体マージベアの体にまとわりついた。
 見る見るうちにその体が変色していき、ドロドロの黒いものへと――。
 俺は画面を取り出す。最後まで見ないうちに操作して、画像に触れた。
 光が溢れる。

「無駄ですよ」

 即座に金剛拳を発動。今度は魔石の部分を何度も殴る。
 しかし、次の瞬間にはジベが黒く変色し始める。
 光が溢れる。

「ジベ、ここで待て! 俺だけ変異体と死霊術師を殴りに行く!!」

 向こうから魔物の群れが見えた時間に戻ってきた。
 ジベは頷くと、その場に座り込んだ。
 俺は走る男たちを無視して最奥部へ向かうと、ライトニングを纏った剣を変異体へ投げる。
 変異体がそれを弾くと、またも魔石に剣が吸収されていく。魔力の残滓しかないはずの剣ですらあの引力なのだ。同種のジベがその引力に逆らえなくて当然かもしれない。

「煌々練波!!」

 俺は手から光を放つ。変異体へのダメージは大きいように見える。
 だが変異体は倒れない。そして魔石も破壊できない!

「金剛拳!!」

 先程も行った行為。
 効果はない。

「練術、光身連撃!!」

 体が光り輝く。
 吸収された剣を掴み、高速で振り回そうとするが剣は動かない。

「何か、何か何か何か! 何か手はないのか!!」
「無駄ですよ」

 死霊術師の男が言う。

「貴方が如何なる手段で破壊を試みようと、この魔物は壊れない、死なない。今まで吸収してきた魔力の量が桁違いなのです。それを全て魔炎に変換するのが我々。核の部分すらも魔炎に変換するか、魔力そのものを打ち払えるのなら別ですが」

 俺にはどちらも不可能だ。
 魔炎を作れないし、魔力を弾くことは出来ても破壊は出来ない。

「そう、貴方は何も出来ない。だから助けたいお仲間も助けられない」

 男が指を差す。
 次の瞬間、向こうにいたはずのジベが物凄い速度で吸収されに飛んでいく。

「ジベぇえええ!!」
「親和性の高さが引力を生むのです。人間とは親和性が低く、魔物とは高い。同種のマージベアなら尚のこと。恐らく同じ山の中にいるだけで引き寄せられてしまうでしょうね」

 男の言葉が耳に入らない。俺に見えるのはジベが黒い肉塊になる瞬間。
 光が溢れる。

「ジベ!」

 俺はジベを外へ走らせた。
 光が溢れる。

「ジベ!」

 剣を用いて変異体の破壊を試みた。
 死霊術師を誘導して巨大魔法を変異体にぶつけさせてみた。
 光が溢れる。

「ジベぇ!!」

 ジベが逃げる隙に一番効果のあった煌々練波を当て続けた。
 しかし本体が弱まるほどに引力が強くなってしまう。
 光が溢れる。

「あああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 光が溢れる。

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