89 / 92
088 疲れのピークに
しおりを挟む「ライトニング!」
ルーンが先制して雷撃魔法を放つと、男たちの内二人が同時に魔法を唱え、それを打ち消した。
その衝撃に紛れるようにソリスが向かい、剣を抜いて片方の男を斬り伏せる。
「嘘だろ!?」
二秒以内の攻防で一人を無力化する。
ソリスが二撃目を放とうとすると、それを止めるようにリーダー格の男が魔法を放った。彼女は振り返り、それを斬った。
「おおおおお!!」
俺はその隙にもう片方の男に向かい剣を振る。
「ボルト!」
「効かねえよ!」
詠唱なしの雷撃魔法が飛んでくるが、ライトニングより威力が低い。
俺はすぐにそれを剣に纏わせると、威力を増大させた刃で男を斬った。
「リドゥ、こっちも終わったわよ」
俺が剣を納めると、既にリーダー格の男が倒れていた。
あまりの速さに俺は一瞬だけ口を開けた。
「記憶を読み取ろう」
ルーンがそう言って男の頭に手を当てた。
「アンタ、そんなこと出来たの?」
「最近ね。アスラのことがあってから必要性を感じて研究したんだ」
ルーンが何ともなしに言う。
魔法ってそんな簡単に作れるものなのかはわからない。ただ、たかだか数週間でそれが出来るとは思えない。
彼は珍しく何かをぶつぶつ唱えている。流石に詠唱なしでは不可能なことらしい。
しばらくすると彼の手が輝き、男の頭から何かを吸い取っているように見えた。
「……なるほど。悪いことを考える奴もいるもんだね」
男の内の一人から手を離したルーンが、しかめ面を浮かべて言った。
何がわかったのか促すと、彼は話し始める。
「魔炎の製造みたいだね。その方法は――」
彼は未来でも言っていた内容を俺に告げる。
「それで、街を襲う計画を立てていたらしい。この結晶の起動に時間がかかるらしくて、今はまだそれの途中だったみたいだ」
「結晶が、まだなのか」
俺は聞き返す。
「うん、そうみたいだよ。でも実はこれ、壊すと魔王の配下の一人が来ちゃうらしくて、壊すわけには行かないみたいだ」
「へー。アタシでも倒せるかしら、そいつ」
「!?」
ソリスの好奇心に驚愕する。ど、どうにか止めないと。
「いやあ……無理そうだよ。というか、こんなところでそんな奴と戦ったら街の方がもたないよ」
「確かに……。残念だけど今回は諦めるわ」
「でもルーン、結晶はこのままには出来ないだろ? どっかで保管でもした方がいいんじゃないか?」
「そうだねえ……ソリス、どっか当てはないかな?」
と、なんとか。
俺は未来での出来事をそのままなぞることに成功し、結晶をギクル連山の麓まで運び終えた。
二週間後、街へ帰ってきて三人で南区へ向かう。
「ただいま!」
久しぶりに二人の実家へ行く。扉を開けると同時にソリスが叫ぶと、奥から家族の返事が聞こえて来た。
そして彼女の父が顔を出す。豪快な笑い声、それに飛びつくソリス。
その光景を見て、俺は思う。ああ、これでようやく未来を守れたんだ、と。
「リドゥ?」
全てを終えたことを確信した俺は、ふらりとその場に座り込んでしまう。
視界が揺れ、頭もくらくらする。目が乾いているのか、やたらと瞼が重い気がする。
ルーンが心配している。俺の額に手を当てると彼は慌てたように手を引っ込めた。
「……すごい熱だ。ソリス! リドゥを運ぶの手伝って!」
「ええ!」
父親の元から離れ、俺の元へ駆け寄るソリス。二人が俺の肩を抱え立ち上がらせると、部屋の奥へと導いていく。
三つ並んだベッド。一つは今朝も使用した形跡があるが、二つはしばらく使っていないのか、シーツも布団も綺麗なままだった。
その真ん中のベッドに俺を横たえると、ルーンが荷物を取りに玄関へと戻っていった。……ああ、なんだろう。このベッドいい匂いがする。
ソリスが俺の枕元へ腰かけると、俺の額に手を触れてきた。彼女の手は温かく、今の俺としてはひんやりしていてほしいところではあるが、何より安心感があった。
「無理してたのね、リドゥ。よく考えればギルドに入ってからこっち、ずっと動きっぱなしだったもんね。剣も持ったことなかったのによく頑張って来たわ」
言われてみれば、と思い返す。俺の元々の体は貧弱で熱や風邪なんてしょっちゅうだった。
それを思えば長らく体調を崩さずにいられたのは、俺にとってあり得ないことだ。風邪を引いて、改めて健康体の素晴らしさをを実感した。
「リドゥ、少し診るよ」
荷物を持って戻ってきたルーンが俺の顔をいじり始めた。
目や鼻を覗き、口を開かせられる。装備を全部取られ、寝間着のような格好にされるついでに、彼は心臓の音を聞いていた。
「うん、風邪みたいだね。良かった、なにか大変な病気だったらどうしようかと思ったよ」
「アタシが確信してたわよ、ただの風邪だって」
「なんでわかんのさ、そんなこと」
「だってリドゥここ一か月くらいずっと思いつめた顔してたし。無理してなんかしようとしてんのが丸わかりだったでしょ」
じとり、と彼女が俺を見下ろした。それを聞いてルーンも確かに、と呟いていた。
……顔に出てたのか、俺は。
「何をしたかったのかは知らないけど、無理しすぎなのよ。アタシ達をちゃんと頼りなさい」
ソリスが再び俺の額に手を置いた。前髪を梳くように彼女の指が通ると、とても心地の良い気分になった。
「ああ、ありがとう……」
俺は二人の言葉にそう返した。
二人を頼っていないつもりはない。なんなら俺に出来ないことの方が多いわけで、それを二人に丸投げしていることばかりだ。
だが、確かに。秘密を抱えているという意味では二人からしてみれば何か違和感があるのは確かだろう。
世界への影響値が大きく変動することが分かった今、俺の力のことは話せない。あの時の二人のような関係は、もう作ることが出来ない。
俺のことを覚えてくれている存在は。いってらっしゃいと俺を見送ってくれた存在は。俺を迎えてくれる存在は、どこにもいない。
「……少し、眠るよ」
瞼が重い。俺が告げると二人が微笑んだ。
「ええ、そうしなさい。後でお母さんに消化にいいものでも作ってもらうわ」
「ふふ、母さんなんだ。ソリスは作らないんだね」
「作らないわよ。メーネにも怒られちゃうわ」
「はは、そうだね」
体が弱ると気分が落ち込んでくる。普段は考えないようにしていることが頭の奥から次々と湧いてきて、心底暗い気分になってくる。
今はただ、眠い。
ソリスの手の感触に泣きそうな程寂しくなりながら、俺は目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる