5 / 8
童顔ですね
しおりを挟む「冬火さん!」
「はは、本当に今日は血統書付きだな」
奇跡的にすぐに連絡が取れた冬火さんは、これまた奇跡的に暇だということで、オレの呼び出しに応じてくれた。
新宿駅から出てすぐ、行き交う人混みの奥から一瞬で壁に寄り掛かっている冬火さんを見つけて駆け寄る。
今日はグレーのジャケットを着ていていつもより少しだけきっちりしているが、それでも小物でいい塩梅に崩していて、毎度のことながらおしゃれだなと思った。
オレが同じ格好をしても同じ印象にならないのが、男としての敗北を感じる。
と、いつもなら少し卑屈になっていたが、今日のオレはは一味違う。
なんと言っても、ちゃんとセットされた髪にオーナーとヒロムさんが買ってくれた高めのスーツを着ているからだ。
「どうっすか? 今日のオレかっこよくないっすか?」
「はいはい、かっこいい、かっこいい」
笑いながら頭を撫で回され、セットしていた髪は一瞬でぐちゃぐちゃになってしまった。
「あー! せっかくお金払って人生で初めて美容室で綺麗にしてもらったのに!」
「やっぱりこっちの方が落ち着くな」
冬火さんは何故か満足そうな顔でそう言い、歩き出した。
慌ててオレもついていく。
「今日はどこ行くかー。この前はラーメンだったし、その前はカレーだっけ? 小太郎、好き嫌いないから何でも誘えてほんと重宝するわ」
「…………今日はお酒飲みたい気分なんすけど」
オレが控えめにそう言うと、少し目を見開いた冬火さんが笑った。
「珍しい。ってか小太郎って未成年じゃなかったんだ?」
「これでも歴とした二十歳っすよ! そういう冬火さんはいくつなんですか!?」
何度かご飯に行って、友達に昇格できたと思っていたのに、そういえば歳も知らなかったな、と少し落ち込む。
「ん? 俺は三十だけど」
「えっ……」
「何その反応」
てっきり、ヒロムさんと同じくらいかと思っていた。歳上だということは分かっていたが、自分と十も離れているなんて思ってなかった。
「童顔ですね」
「あー、よく言われんだよ。顔もこんなんだから、余計に年齢不詳に見られてほんと迷惑」
「オレは羨ましいですけどね」
これは本音だった。
ちんちくりんな自分がいくら頑張っても冬火さんのようにはなれない。
「女顔なんて良いことないぞ」
「でもオレ冬火さんの顔好きだし……」
言ってしまってから慌てて口を噤むがもう遅い。
悪い顔をした冬火さんは急にオレの前で立ち止まり、不意に顔を近づけてきた。
「そんなに好きならよく見るか? ほら」
あまりの衝撃に固まってしまう。
揶揄われているのが分かるのに、瞳を逸らすことができない。
「……って冗談だって。拒否してくれないとやめ時分かんなくなるだろうが」
「すいません」
何故か小言を言われたオレは、それでも冬火さんの一挙一動に目を奪われ続けた。
「えーと、酒が飲みたいんだっけ? バーとかはそんなに詳しくないんだよなぁ…………あ、」
「心当たりありますか?」
「あるっちゃあるんだけど……小太郎にはどうなんだろう」
含みのある言い方に少し不安を覚えたが、他に候補が無かった。
「そこ行きたいっす」
冬火さんは少しだけ悩むような素振りを見せた後、方向を変えて歩き出した。
「取って食われそうになっても泣くなよ」
………………取って食われる……?
一体どんな所へ行こうとしているのか、背中が冷える感覚を覚えながら、オレは冬火さんの後を追った。
10
あなたにおすすめの小説
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
さよなら、永遠の友達
万里
BL
高校時代、バスケットボール部のキャプテン・基樹と、副部長として彼を支える冷静な舜一。対照的な二人は親友であり、マネージャーの結子を含めた三人は分かちがたい絆で結ばれていた。しかし舜一は、基樹への決して報われない恋心を隠し続けていた。
卒業を控え、基樹との「ずっと一緒にバスケをする」という約束を破り、舜一は逃げるように東京の大学へ進学する。基樹を突き放したのは、彼が結子と結ばれる幸せを近くで見届ける自信がなかったからだ。
10年後。孤独に生きる舜一のもとに、基樹から「結子が事故で亡くなった」という絶望の電話が入る。ボロボロになった親友の悲痛な叫びを聞いた瞬間、舜一の中にあった想いが目を覚ます。仕事もキャリアも投げ出し、舜一は深夜の高速をひた走る。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる