しば犬ホストとキツネの花屋

ことわ子

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童顔ですね

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「冬火さん!」
「はは、本当に今日は血統書付きだな」

 奇跡的にすぐに連絡が取れた冬火さんは、これまた奇跡的に暇だということで、オレの呼び出しに応じてくれた。
 新宿駅から出てすぐ、行き交う人混みの奥から一瞬で壁に寄り掛かっている冬火さんを見つけて駆け寄る。

 今日はグレーのジャケットを着ていていつもより少しだけきっちりしているが、それでも小物でいい塩梅に崩していて、毎度のことながらおしゃれだなと思った。
 オレが同じ格好をしても同じ印象にならないのが、男としての敗北を感じる。
 と、いつもなら少し卑屈になっていたが、今日のオレはは一味違う。
 なんと言っても、ちゃんとセットされた髪にオーナーとヒロムさんが買ってくれた高めのスーツを着ているからだ。

「どうっすか? 今日のオレかっこよくないっすか?」
「はいはい、かっこいい、かっこいい」

 笑いながら頭を撫で回され、セットしていた髪は一瞬でぐちゃぐちゃになってしまった。

「あー! せっかくお金払って人生で初めて美容室で綺麗にしてもらったのに!」
「やっぱりこっちの方が落ち着くな」

 冬火さんは何故か満足そうな顔でそう言い、歩き出した。
 慌ててオレもついていく。

「今日はどこ行くかー。この前はラーメンだったし、その前はカレーだっけ? 小太郎、好き嫌いないから何でも誘えてほんと重宝するわ」
「…………今日はお酒飲みたい気分なんすけど」

 オレが控えめにそう言うと、少し目を見開いた冬火さんが笑った。

「珍しい。ってか小太郎って未成年じゃなかったんだ?」
「これでも歴とした二十歳っすよ! そういう冬火さんはいくつなんですか!?」

 何度かご飯に行って、友達に昇格できたと思っていたのに、そういえば歳も知らなかったな、と少し落ち込む。

「ん? 俺は三十だけど」
「えっ……」
「何その反応」

 てっきり、ヒロムさんと同じくらいかと思っていた。歳上だということは分かっていたが、自分と十も離れているなんて思ってなかった。

「童顔ですね」
「あー、よく言われんだよ。顔もこんなんだから、余計に年齢不詳に見られてほんと迷惑」
「オレは羨ましいですけどね」

 これは本音だった。
 ちんちくりんな自分がいくら頑張っても冬火さんのようにはなれない。

「女顔なんて良いことないぞ」
「でもオレ冬火さんの顔好きだし……」

 言ってしまってから慌てて口を噤むがもう遅い。
 悪い顔をした冬火さんは急にオレの前で立ち止まり、不意に顔を近づけてきた。

「そんなに好きならよく見るか? ほら」

 あまりの衝撃に固まってしまう。
 揶揄われているのが分かるのに、瞳を逸らすことができない。

「……って冗談だって。拒否してくれないとやめ時分かんなくなるだろうが」
「すいません」

 何故か小言を言われたオレは、それでも冬火さんの一挙一動に目を奪われ続けた。

「えーと、酒が飲みたいんだっけ? バーとかはそんなに詳しくないんだよなぁ…………あ、」
「心当たりありますか?」
「あるっちゃあるんだけど……小太郎にはどうなんだろう」

 含みのある言い方に少し不安を覚えたが、他に候補が無かった。

「そこ行きたいっす」

 冬火さんは少しだけ悩むような素振りを見せた後、方向を変えて歩き出した。

「取って食われそうになっても泣くなよ」

 ………………取って食われる……?

 一体どんな所へ行こうとしているのか、背中が冷える感覚を覚えながら、オレは冬火さんの後を追った。
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