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保護者同伴
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それから何度か二人でご飯に行き、多分知り合いから友達へと昇格したかな、という時のことだった。
成り行きで、ヒロムさんの知り合いのカメラマンの都井さんに写真を撮ってもらえることになった。
ヒロムさんとオーナーが楽しそうにオレを着飾り、高いスーツも買ってくれた。
生まれて初めてのきちんとした格好にテンションが上がったオレは、あろうことか、冬火さんに自撮りを送ってしまった。慌てて取り消ししようとするがすぐに既読がついてしまい、一言『血統書付きに見えるな』と返ってきた。
こんな時でも犬扱い。でもどことなく褒められてるような気がして顔が緩んだ。
「ナナトー? もうそろそろ時間だから行くよ?」
いつまで経っても地図が読めないオレのために、わざわざ都井さんのスタジオまでの道案内を買って出てくれたヒロムさんが声をかけてきた。
「あ、すいません! 今行きますー!」
バタバタとヒロムさんの隣に行くと、せっかくちゃんと着たスーツが崩れてしまった。
ヒロムさんは無言でオレのネクタイを直すと、歩き出した。オレもそれに続く。
「あの、ヒロムさんって好きな人いますか?」
「え、なにいきなり?」
何か話さないと、と思って、次に口から出た言葉はとんでもないものだった。
冬火さんの件でずっと気になっていたことは事実だが、こんな移動中にしていい話ではないということは分かった。
「あ、いや、何となく、恋バナ…………的な?」
恋バナと言えば何となく誤魔化されるような気がしたが、オレの予想に反してヒロムさんの表情は険しくなってしまった。
「……………………いないよ」
たっぷりの間の後、ヒロムさんは呟くようにそう言った。
「あ、そうなんすね~ヒロムさんモテるのに勿体無いっすね」
出来るだけ軽く言って流す。
なんとなく、ヒロムさんに恋人がいて欲しいと思っていたオレは少し落胆した。が、すぐに思い直して頭を振る。
ヒロムさんに恋人がいようがいまいが、オレに可能性が生まれるわけではない。夢を見ていないで今の関係を大切にしないとバチが当たる気がする。
自分の中から出てこようとする欲を無理矢理押し込めて、ヒロムさんを見た。
男のオレから見てもヒロムさんはかっこいい。そんな人に敵うわけない、そう何回も何回も言い聞かせる。
都井さんのスタジオに着く頃にはオレの淡い期待は影を潜め、いつものオレになっていた。
いくら腕の良いカメラマンでも、被写体がオレだと苦労するらしい。
スタジオに着いたオレはまるで保護者のような顔をしたヒロムさんに見守られながら撮影挑んでいた。が、正直難航している。
どうしてもカメラの前に立つと緊張してしまい、自分ではキメ顔をしているつもりでも面白い顔になってしまっているらしい。
見かねたヒロムさんが実演で見本を見せてくれたが、そもそも元の素材が違い過ぎるので全く参考にならない。
オレが嘆いていると、ヒロムさんがおもむろに口を開いた。
「そうだなー。ナナトは好きな人いる?」
「え?」
「は?」
オレと都井さんの声が重なる。
「い、嫌だな~いくらヒロムさんでも、セ、セクハラですよ~」
不意打ちの攻撃に慌てて誤魔化そうとするが声が裏返る。
「いや、変な話じゃなくてさ。レンズの向こうに好きな人が立ってるイメージで写真撮ってるんだよね、おれ」
「どういうことっすか?」
「好きな人には自分の一番良い姿見せたいでしょ? だからそういうつもりでカメラの前に立ってるんだよ」
「な、なるほど……!」
なんとなく、ヒロムさんの言いたいことは分かった。確かに、好きな人にはかっこいい姿を見て欲しい。今まで何回もそう思った。
オレはカメラを向ける都井さんの後ろに冬火さんを思い浮かべた。
いつものように悪い笑顔でオレのことを揶揄っている姿が見える。
そうはいきませんよ、とオレは姿勢を正した。
言葉に出しては伝えられないけど、視線くらいは許されるかもしれない。今のオレの気持ちを精一杯ぶつけるようにレンズの奥を見据えた。
「わぁ! オレじゃないみたい!」
撮った写真を見せてもらうと、自分で言うのもなんだが、かっこいいホストがそこにいた。
「え、これが店に飾られるんですか!? オレ売れちゃいません!?」
「写真負けしないように頑張らないとね」
「うっ……」
少し調子に乗ってみたところ、ヒロムさんに余裕で返されてしまった。ヒロムさんには到底及ばないのは分かっているが、新しい自分が見えた気がして嬉しかった。
「今日はありがとうございました」
オレは都井さんにお礼を言い、帰る準備を始めた。
新しい自分を見て欲しい、そう思ってしまったら最後、居ても立っても居られなくなってしまった。
「じゃあ、オレはそろそろお暇します!」
「あー、出来あがったデータはお店の方に送っておくから少し待ってて」
「分かりましたー! 楽しみにしてます!」
早口でそう返し、すぐにスタジオを出ようとする。
今日冬火さんは暇だろうか、いきなり連絡したら迷惑じゃないだろうか、そもそもこんなくだらないことで連絡しても大丈夫なんだろうか、そんな風に頭の中がいっぱいになっていると、都井さんに呼び止められた。
「おい、先輩置いて行くな!」
都井さんの横から動かないヒロムさんに首を傾げる。この後は解散という話になっていたはずだ。
「ヒロムさんには道案内だけ頼んだんで、この後は自由行動ですよー! 今日は定休日だし、二人でご飯でも行ったらどっすかー?」
「え……そうなの?」
「はい! あ、じゃあオレ時間無いんで!」
道案内をしてくれた先輩を置き去りにして、オレは跳ねるような足取りでスタジオを出た。
それから何度か二人でご飯に行き、多分知り合いから友達へと昇格したかな、という時のことだった。
成り行きで、ヒロムさんの知り合いのカメラマンの都井さんに写真を撮ってもらえることになった。
ヒロムさんとオーナーが楽しそうにオレを着飾り、高いスーツも買ってくれた。
生まれて初めてのきちんとした格好にテンションが上がったオレは、あろうことか、冬火さんに自撮りを送ってしまった。慌てて取り消ししようとするがすぐに既読がついてしまい、一言『血統書付きに見えるな』と返ってきた。
こんな時でも犬扱い。でもどことなく褒められてるような気がして顔が緩んだ。
「ナナトー? もうそろそろ時間だから行くよ?」
いつまで経っても地図が読めないオレのために、わざわざ都井さんのスタジオまでの道案内を買って出てくれたヒロムさんが声をかけてきた。
「あ、すいません! 今行きますー!」
バタバタとヒロムさんの隣に行くと、せっかくちゃんと着たスーツが崩れてしまった。
ヒロムさんは無言でオレのネクタイを直すと、歩き出した。オレもそれに続く。
「あの、ヒロムさんって好きな人いますか?」
「え、なにいきなり?」
何か話さないと、と思って、次に口から出た言葉はとんでもないものだった。
冬火さんの件でずっと気になっていたことは事実だが、こんな移動中にしていい話ではないということは分かった。
「あ、いや、何となく、恋バナ…………的な?」
恋バナと言えば何となく誤魔化されるような気がしたが、オレの予想に反してヒロムさんの表情は険しくなってしまった。
「……………………いないよ」
たっぷりの間の後、ヒロムさんは呟くようにそう言った。
「あ、そうなんすね~ヒロムさんモテるのに勿体無いっすね」
出来るだけ軽く言って流す。
なんとなく、ヒロムさんに恋人がいて欲しいと思っていたオレは少し落胆した。が、すぐに思い直して頭を振る。
ヒロムさんに恋人がいようがいまいが、オレに可能性が生まれるわけではない。夢を見ていないで今の関係を大切にしないとバチが当たる気がする。
自分の中から出てこようとする欲を無理矢理押し込めて、ヒロムさんを見た。
男のオレから見てもヒロムさんはかっこいい。そんな人に敵うわけない、そう何回も何回も言い聞かせる。
都井さんのスタジオに着く頃にはオレの淡い期待は影を潜め、いつものオレになっていた。
いくら腕の良いカメラマンでも、被写体がオレだと苦労するらしい。
スタジオに着いたオレはまるで保護者のような顔をしたヒロムさんに見守られながら撮影挑んでいた。が、正直難航している。
どうしてもカメラの前に立つと緊張してしまい、自分ではキメ顔をしているつもりでも面白い顔になってしまっているらしい。
見かねたヒロムさんが実演で見本を見せてくれたが、そもそも元の素材が違い過ぎるので全く参考にならない。
オレが嘆いていると、ヒロムさんがおもむろに口を開いた。
「そうだなー。ナナトは好きな人いる?」
「え?」
「は?」
オレと都井さんの声が重なる。
「い、嫌だな~いくらヒロムさんでも、セ、セクハラですよ~」
不意打ちの攻撃に慌てて誤魔化そうとするが声が裏返る。
「いや、変な話じゃなくてさ。レンズの向こうに好きな人が立ってるイメージで写真撮ってるんだよね、おれ」
「どういうことっすか?」
「好きな人には自分の一番良い姿見せたいでしょ? だからそういうつもりでカメラの前に立ってるんだよ」
「な、なるほど……!」
なんとなく、ヒロムさんの言いたいことは分かった。確かに、好きな人にはかっこいい姿を見て欲しい。今まで何回もそう思った。
オレはカメラを向ける都井さんの後ろに冬火さんを思い浮かべた。
いつものように悪い笑顔でオレのことを揶揄っている姿が見える。
そうはいきませんよ、とオレは姿勢を正した。
言葉に出しては伝えられないけど、視線くらいは許されるかもしれない。今のオレの気持ちを精一杯ぶつけるようにレンズの奥を見据えた。
「わぁ! オレじゃないみたい!」
撮った写真を見せてもらうと、自分で言うのもなんだが、かっこいいホストがそこにいた。
「え、これが店に飾られるんですか!? オレ売れちゃいません!?」
「写真負けしないように頑張らないとね」
「うっ……」
少し調子に乗ってみたところ、ヒロムさんに余裕で返されてしまった。ヒロムさんには到底及ばないのは分かっているが、新しい自分が見えた気がして嬉しかった。
「今日はありがとうございました」
オレは都井さんにお礼を言い、帰る準備を始めた。
新しい自分を見て欲しい、そう思ってしまったら最後、居ても立っても居られなくなってしまった。
「じゃあ、オレはそろそろお暇します!」
「あー、出来あがったデータはお店の方に送っておくから少し待ってて」
「分かりましたー! 楽しみにしてます!」
早口でそう返し、すぐにスタジオを出ようとする。
今日冬火さんは暇だろうか、いきなり連絡したら迷惑じゃないだろうか、そもそもこんなくだらないことで連絡しても大丈夫なんだろうか、そんな風に頭の中がいっぱいになっていると、都井さんに呼び止められた。
「おい、先輩置いて行くな!」
都井さんの横から動かないヒロムさんに首を傾げる。この後は解散という話になっていたはずだ。
「ヒロムさんには道案内だけ頼んだんで、この後は自由行動ですよー! 今日は定休日だし、二人でご飯でも行ったらどっすかー?」
「え……そうなの?」
「はい! あ、じゃあオレ時間無いんで!」
道案内をしてくれた先輩を置き去りにして、オレは跳ねるような足取りでスタジオを出た。
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