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普通じゃない
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「裸くらい、久城は慣れてるかもしれないけど、普通はこんなことしないから」
勢いで言い放って、自分の失言に思わず口を手で塞ぐ。
今、俺は久城を普通をいうカテゴリから外したのだ。しかも無意識に。それがどれだけ残酷なことか、言われた本人以外には到底想像が及ばない。
「あ……」
何を言っても取り繕えない空気が二人の間を流れる。言葉にしてから後悔してももう遅い。
久城は変わらず俯いていて、動こうともしない。
「あの、ごめ……」
反射的に謝罪の言葉を紡ごうとした俺の口を、顔を上げた久城が手で塞いだ。
「謝らないでよ。いいよ、別に。そう思われても仕方ないしね」
違う、と否定したいのに、口は塞がれていて身動きが取れない。久城の投げやりな口調が胸に刺さって深く引き裂いていく。
きっと俺は今、酷く歪んだ顔をしている。しかしそれ以上に目の前にある顔が見たこともないような表情で笑っていて、言葉を失う。
「一つ聞きたいんだけど」
壊れたような笑顔を見せながら、久城は話し続ける。
「まさとが言う、こんなことってこういうことも含まれる?」
いつもより平坦で冷たさを含む声が段々と近付いてくる。気付けば逃げられない距離まで詰められていて、そして。
「え」
失った俺の言葉ごと久城に飲み込まれていた。久城の顔は近すぎて焦点が合わない。視覚を奪われ、残るのは唇の感触だけ。
俺は混乱して息を吸おうと口を開けた。が、その隙間を埋めるように生暖かい久城の舌が侵入してこようとする。
「……!」
俺は力の限り久城を突き飛ばすと乱暴に口元を拭った。はだけた布は床に広がり、俺はほぼ裸同然の姿で、髪が乱れて表情が分からない久城を見た。
「なんでこんな」
説明が欲しかったわけじゃない。ただ久城が苦しそうな顔をしている理由が知りたかった。勢いでこんなことをしたと思えない。いや、思いたくなかったのだ。
「俺は普通じゃないから」
久城の言葉に息が止まった。俺が言い放った『普通』という言葉を引用した。それがどういう意味なのかくらい、混乱している頭でも分かる。
「だからあれは……!」
言葉の綾だと、そう伝えようとしたが久城が俺の目を真っ直ぐに見据えてきて、声が出ない。
「俺は普通じゃないって、自分が一番分かってる」
どこか諦めたような声が、静かな美術室に寂しく響く。こんな声を出させてしまったのは自分なのだと愕然とする。
そもそも何が普通で何が普通じゃないかなんて、そんな曖昧なもの決めつける方が間違っている。見方が変われば、意見も変わる。そんな単純なことに気付けないで意見を押し付けた自分が恥ずかしい。
俺は何も言えなくなって、下を向いた。初めて久城の前で下を向いた。いつもは久城が下を向いていたのに、今は逆だ。下を向いていた久城はこんな気持ちだったのかと、今更想像が追い付いて情けなくなる。
「無理強いしてごめん」
「……」
「最初から、調子乗ってたんだ、俺」
「……」
「まさとが普通に接してくれたから」
「……」
「…………嬉しくて」
揺れる声に俺は思わず顔を上げた。泣いているかと思ったが、久城はいつも感情が分からない顔でこちらを見ていた。
「迷惑かけてごめん」
久城は謝った。傷付けたのは俺なのに。
「後、今までありがとう」
言葉の意味を理解する前に久城は立ち上がった。俺が引き留めようとする前に久城は俺の前から消えてしまった。
美術室に一人、残された俺は物悲しさに拳を握りしめた。
勢いで言い放って、自分の失言に思わず口を手で塞ぐ。
今、俺は久城を普通をいうカテゴリから外したのだ。しかも無意識に。それがどれだけ残酷なことか、言われた本人以外には到底想像が及ばない。
「あ……」
何を言っても取り繕えない空気が二人の間を流れる。言葉にしてから後悔してももう遅い。
久城は変わらず俯いていて、動こうともしない。
「あの、ごめ……」
反射的に謝罪の言葉を紡ごうとした俺の口を、顔を上げた久城が手で塞いだ。
「謝らないでよ。いいよ、別に。そう思われても仕方ないしね」
違う、と否定したいのに、口は塞がれていて身動きが取れない。久城の投げやりな口調が胸に刺さって深く引き裂いていく。
きっと俺は今、酷く歪んだ顔をしている。しかしそれ以上に目の前にある顔が見たこともないような表情で笑っていて、言葉を失う。
「一つ聞きたいんだけど」
壊れたような笑顔を見せながら、久城は話し続ける。
「まさとが言う、こんなことってこういうことも含まれる?」
いつもより平坦で冷たさを含む声が段々と近付いてくる。気付けば逃げられない距離まで詰められていて、そして。
「え」
失った俺の言葉ごと久城に飲み込まれていた。久城の顔は近すぎて焦点が合わない。視覚を奪われ、残るのは唇の感触だけ。
俺は混乱して息を吸おうと口を開けた。が、その隙間を埋めるように生暖かい久城の舌が侵入してこようとする。
「……!」
俺は力の限り久城を突き飛ばすと乱暴に口元を拭った。はだけた布は床に広がり、俺はほぼ裸同然の姿で、髪が乱れて表情が分からない久城を見た。
「なんでこんな」
説明が欲しかったわけじゃない。ただ久城が苦しそうな顔をしている理由が知りたかった。勢いでこんなことをしたと思えない。いや、思いたくなかったのだ。
「俺は普通じゃないから」
久城の言葉に息が止まった。俺が言い放った『普通』という言葉を引用した。それがどういう意味なのかくらい、混乱している頭でも分かる。
「だからあれは……!」
言葉の綾だと、そう伝えようとしたが久城が俺の目を真っ直ぐに見据えてきて、声が出ない。
「俺は普通じゃないって、自分が一番分かってる」
どこか諦めたような声が、静かな美術室に寂しく響く。こんな声を出させてしまったのは自分なのだと愕然とする。
そもそも何が普通で何が普通じゃないかなんて、そんな曖昧なもの決めつける方が間違っている。見方が変われば、意見も変わる。そんな単純なことに気付けないで意見を押し付けた自分が恥ずかしい。
俺は何も言えなくなって、下を向いた。初めて久城の前で下を向いた。いつもは久城が下を向いていたのに、今は逆だ。下を向いていた久城はこんな気持ちだったのかと、今更想像が追い付いて情けなくなる。
「無理強いしてごめん」
「……」
「最初から、調子乗ってたんだ、俺」
「……」
「まさとが普通に接してくれたから」
「……」
「…………嬉しくて」
揺れる声に俺は思わず顔を上げた。泣いているかと思ったが、久城はいつも感情が分からない顔でこちらを見ていた。
「迷惑かけてごめん」
久城は謝った。傷付けたのは俺なのに。
「後、今までありがとう」
言葉の意味を理解する前に久城は立ち上がった。俺が引き留めようとする前に久城は俺の前から消えてしまった。
美術室に一人、残された俺は物悲しさに拳を握りしめた。
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