泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子

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泣き虫な俺と泣かせたいお前【9】

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 俺が大学で倒れてから1週間。あれから一度も凛乃介と顔を合わせなかった。
 始めはただ単に忙しいのだろうと思っていた。
 しかし、凛乃介も取っている講義に出席していなかったり、そもそも家に帰ってきている気配が無かったりと、もしかしたら俺を避けているのではと思えるような場面が増えてきた。
 心当たりは沢山ある。
 凛乃介にいつ見限られてもおかしくない状況だと自覚するのが遅過ぎた。
 今日も未練たらしく無駄に大学構内を彷徨いてみたが、凛乃介の姿はなかった。

 あまりの突然の出来事に頭の中が混乱する。
 凛乃介は優しいから、俺のこの体質が治るまで付き合ってくれるのだと、勝手に思い込んでいた。浅はかで馬鹿だった、と思う。
 もしかしたら、もう会えなくなってしまうかもしれない。思考がぐちゃぐちゃになって悲観的になった俺は、どうしても凛乃介にもう一度会いたくなった。

 好きだということは告げない。ただ馬鹿な俺に付き合わせて悪かったと、一言謝りたかった。

 俺は意を決してカラオケで夜まで時間を潰した。何度も何度も頭の中で凛乃介への謝罪を反芻して、失敗しないように練習した。
 ソワソワと時計を何度も確認する。時間が迫るにつれ、落ち着かなくなってくる。
 今日は確か凛乃介がバイトの日で、19時から出勤のはずだ。
 俺が凛乃介がバイトしているバーに行ったことは無かった。一回、誘われたことはあったが、お酒が飲めないことを理由に断った。
 本当は、接客とはいえ、女の子のお客さんに囲まれて笑顔で会話している凛乃介を見るのが辛かったからだった。

「凛乃介、いるかな……」

 避けている相手が、突然バイト先に押し掛けてきたら困るだろうな、と思う。だけど、これで最後だからと気持ちを持ち直す。

 店の近くまで来た俺は、うろうろと様子を伺うように遠目から、店が入っている雑居ビルを観察した。完全に不審者だったが、そうでもしないと足を踏み出せないほど、自分には不釣り合いの雰囲気で怖気付く。
と、言っても店は階段を降りた地下にあるので、直接店の様子が分かるわけではない。しかし、店に入っていく客の様相が、既に自分とは違う世界に生きている人種そのもので、凛乃介も側から見ればそういう種類の人間なのだと思い知る。
 幼馴染じゃなかったら、絶対に声を交わすこともなかっただろう。

 俺はグッと両手を握り締め、足を前へと動かした。
 一歩動かす度に大きく心臓が跳ねる。未知の領域へと踏み出す勇気は相当で、ようやく辿り着いた店のドアの前で、その勇気はもう残りわずかとなっていた。

 駄目だ、やっぱり無理……

 いきなり、押し掛けるなんてどうかしている。やっぱり日を改めて、ちゃんと約束してから……、などと、理由をつけて逃げ出そうとした瞬間、店のドアが開いた。

「また来てねー!」

 凛乃介の声がした。
 思わず凝視すると、凛乃介がこちらに気付き、固まった。

「また凛乃介がいる時に来るね!」

 女の子達がきゃあきゃあとはしゃぎながら店から出てくる。俺はほぼ動かない身体で何とか女の子達を避けると、そのまま立ち尽くした。

「直生……? なんでここに……?」

 突然過ぎて声が出てこない。
 あれだけ練習した謝罪も頭の中から飛んでしまった。

「お、俺がここに来ちゃ悪いかよ……」

 そうしてまた、憎まれ口を叩いてしまう。

「いや、悪くはないけど……直生、酒飲めねーじゃん」
「酒以外の飲み物だってあるだろ」
「まぁ、あるっちゃあるけど……」

 完全に凛乃介は困惑していて、俺もどう言い繕ったらいいのか分からなかった。

「前に、凛乃介が誘ってくれたじゃん。俺のバーテン姿見に来いよって。だから、来た」
「言ったけど……」

 ここで追い返されてしまっては元も子もない。
 俺はあくまで凛乃介から誘われたからという理由を押し通そうとした。

「邪魔だったらすぐに帰るし」
「邪魔ってことはないけど……」

 凛乃介は気まずそうに視線を逸らす。
 すると、店の中から凛乃介に声が掛かった。凛乃介は慌てて、接客用の笑顔を向けると、ドアを大きく開けて俺を招き入れた。

「来て」

 言われるままに店内に足を踏み入れる。薄暗い照明に、聞き慣れない洋楽の音楽が掛かっている。想像よりも店内は広く、それなりに人で賑わっていた。
 俺は挙動不審になりながら、凛乃介の後についていった。

「ここで待ってて」

 カウンターから一番遠い、奥まった場所にある席に通される。
 俺が席に座ると、凛乃介は入り口のカーテンを下ろして出て行ってしまった。
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