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泣き虫な俺と泣かせたいお前【12】
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この映画で犬は死なない。それ自体は嘘ではなかった。
けれど、別の問題が発生して、俺は口を真一文字に結んで堪えていた。
映画の内容は普通のコメディだった。少しクスッと笑える部分があり、多分世間的な評価も高いと思う。内容が少し子ども向けだったので気まずい雰囲気にもならず、我ながら良い選択をしたと思っていた。
が、途中、主人公はこけるシーンで何故かツボに入ってしまった。
こんな子ども向け映画でゲラゲラ笑う大学生なんて恥ずかし過ぎると凛乃介の方を盗み見ると、凛乃介は真顔でそれを見ていた。
ツボに入っているのが自分だけだと分かると、余計に吹き出したくなった。
最早内容が面白いのではない。我慢しないといけない状況にどんどん抑えが効かなくなって、ついには声を出して笑い始めてしまった。
急に笑い出した俺に、凛乃介は肩を揺らしてびっくりしていた。自分ではどうすることもできない笑いの渦に、徐々にお腹が痛くなってくる。
「直生……? 大丈夫……?」
「はは大丈、ははははは」
人前で、しかもよりにもよって凛乃介の目の前で爆笑してしまい、笑いながら悶える。
止められない笑い声と共に、涙が出てきた。
あれだけ気を付けてたというのに、違う意味で涙を流してしまった。
「ちょっと一旦止めるわ」
凛乃介はボタンを押し、立ち上がった。
そして、台所からコップに水を入れて持って来てくれた。
「これ飲んでちょっと落ち着け」
「ふふ、うん……はは」
俺はコップを受け取り、水を飲んだ。口内から染み渡る冷たさに、徐々に落ち着きを取り戻した。
「はぁー、ありがと」
「うん」
息苦しさに大きく息を吸う。感情的には落ち着いた。しかし涙は止まってはくれなかった。
「あ、……」
頬を伝う涙の感覚に、俺は凛乃介の顔を見た。言葉を交わしたわけではないのに、凛乃介は何も言わずにゆっくりと俺の前に座り、優しく抱き寄せた。真正面から抱きしめられ、いつもより少し強い力で腕を回される。それでも息苦しさを感じないのは、凛乃介なりの配慮なのだろう。
頭の腕に置かれた手は、宥めるように顔の横を滑り降り、やがて首筋へと行き着いた。
不意に素肌を触られ思わず声が出る。
それを聞いた凛乃介は一瞬迷うような表情をした後、俺の額に唇を触れさせた。
キスをされると思い、反射で強く瞳を閉じていた俺は、予想外の部分への触れ合いに目を丸くした。
そんな俺の表情を見た凛乃介は優しく笑い、今度こそ、唇に熱を伝えてきた。
軽く触れるだけには留まらず、形を確かめるかのように啄んでいく。深くはない子どものようなキスなのに、どんどん抜け出せなくなっていく。
気持ちいいと感じてしまった瞬間、凛乃介は小さく音を立てて唇を離した。
至近距離で俺のことを見つめ続け、鼻の頭を俺の鼻に擦り付ける。触れそうで触れない距離に息ができない。
もう限界だ、というところで俺は少しだけ凛乃介との間に距離をあけ、大きく息を吐いた。
「もしかして、息、止めてた?」
図星を突かれて恥ずかしくなる。いくらなんでもキスの時に息ができないなんてベタすぎる。
「凛乃介と違って慣れてないからな!」
やけくそで答えると、凛乃介は心外だという顔をした。全く意味が分からない。
「俺だって別に慣れてないよ」
「は、どの口が言うんだよ」
「本当だって」
嘘にしては悪質過ぎる。
あれだけ沢山のセフレがいて、キスもしていないなんて、そんなことあり得ないのに。
「へーそうですかー」
「お前信じてないだろ」
「当たり前だろ、何人、凛乃介のセフレ見てきたと思ってんの?」
「セフレとはしてない」
「してなかったらセフレとは言わないんだよ」
「だから! セフレとはキスしてない!」
「へ……?」
そんなことが可能なのか? と一瞬考えるが、まぁ出来なくもないのだろうと何となくは分かる。
だけど、そんなこと、セフレたちが許すんだろうか。
「なんで……?」
「なんでもいいだろ別に」
「教えろよ!」
俺は詰め寄った際に、勢い余って凛乃介を押し倒すような体勢になってしまった。
凛乃介はすかさず身を翻すと、俺を組み敷くように見下ろした。
大きな身体の圧迫感は俺を黙らせるのに充分だった。
「やっと静かになった」
凛乃介は俺の頬についていたまだ乾いていない涙を拭いながら息を吐く。凛乃介の少し荒めの呼吸が耳に響いて離れない。
「優しくするつもりだけど、多分っていうか、絶対、泣かせることになると思うから先に謝っておく」
何の話だ?
凛乃介の言っている意味が分からずキョトンとしていると、大きなため息をつかれた。心底失望したというような凛乃介の顔に焦り始める。
「はあー、まだ駄目かぁー」
何が駄目なのか、全く分からない。
凛乃介はそのまま覆いかぶさるようにして俺を抱きしめると、首元に顔を埋めた。凛乃介のピアスが首に触れる。
くすぐったさに身を捩ると、強い力で拘束されてしまった。
「今日は我慢するからこれくらいは許して」
よく分からないが、それから凛乃介は動かなくなってしまった。声をかけてみたが離れてくれる様子はない。俺は抱き締められたままの謎の時間を悶々と過ごし、これからの二人の関係を思い描くことで、なんとか正気を保ち続けた。
fin
けれど、別の問題が発生して、俺は口を真一文字に結んで堪えていた。
映画の内容は普通のコメディだった。少しクスッと笑える部分があり、多分世間的な評価も高いと思う。内容が少し子ども向けだったので気まずい雰囲気にもならず、我ながら良い選択をしたと思っていた。
が、途中、主人公はこけるシーンで何故かツボに入ってしまった。
こんな子ども向け映画でゲラゲラ笑う大学生なんて恥ずかし過ぎると凛乃介の方を盗み見ると、凛乃介は真顔でそれを見ていた。
ツボに入っているのが自分だけだと分かると、余計に吹き出したくなった。
最早内容が面白いのではない。我慢しないといけない状況にどんどん抑えが効かなくなって、ついには声を出して笑い始めてしまった。
急に笑い出した俺に、凛乃介は肩を揺らしてびっくりしていた。自分ではどうすることもできない笑いの渦に、徐々にお腹が痛くなってくる。
「直生……? 大丈夫……?」
「はは大丈、ははははは」
人前で、しかもよりにもよって凛乃介の目の前で爆笑してしまい、笑いながら悶える。
止められない笑い声と共に、涙が出てきた。
あれだけ気を付けてたというのに、違う意味で涙を流してしまった。
「ちょっと一旦止めるわ」
凛乃介はボタンを押し、立ち上がった。
そして、台所からコップに水を入れて持って来てくれた。
「これ飲んでちょっと落ち着け」
「ふふ、うん……はは」
俺はコップを受け取り、水を飲んだ。口内から染み渡る冷たさに、徐々に落ち着きを取り戻した。
「はぁー、ありがと」
「うん」
息苦しさに大きく息を吸う。感情的には落ち着いた。しかし涙は止まってはくれなかった。
「あ、……」
頬を伝う涙の感覚に、俺は凛乃介の顔を見た。言葉を交わしたわけではないのに、凛乃介は何も言わずにゆっくりと俺の前に座り、優しく抱き寄せた。真正面から抱きしめられ、いつもより少し強い力で腕を回される。それでも息苦しさを感じないのは、凛乃介なりの配慮なのだろう。
頭の腕に置かれた手は、宥めるように顔の横を滑り降り、やがて首筋へと行き着いた。
不意に素肌を触られ思わず声が出る。
それを聞いた凛乃介は一瞬迷うような表情をした後、俺の額に唇を触れさせた。
キスをされると思い、反射で強く瞳を閉じていた俺は、予想外の部分への触れ合いに目を丸くした。
そんな俺の表情を見た凛乃介は優しく笑い、今度こそ、唇に熱を伝えてきた。
軽く触れるだけには留まらず、形を確かめるかのように啄んでいく。深くはない子どものようなキスなのに、どんどん抜け出せなくなっていく。
気持ちいいと感じてしまった瞬間、凛乃介は小さく音を立てて唇を離した。
至近距離で俺のことを見つめ続け、鼻の頭を俺の鼻に擦り付ける。触れそうで触れない距離に息ができない。
もう限界だ、というところで俺は少しだけ凛乃介との間に距離をあけ、大きく息を吐いた。
「もしかして、息、止めてた?」
図星を突かれて恥ずかしくなる。いくらなんでもキスの時に息ができないなんてベタすぎる。
「凛乃介と違って慣れてないからな!」
やけくそで答えると、凛乃介は心外だという顔をした。全く意味が分からない。
「俺だって別に慣れてないよ」
「は、どの口が言うんだよ」
「本当だって」
嘘にしては悪質過ぎる。
あれだけ沢山のセフレがいて、キスもしていないなんて、そんなことあり得ないのに。
「へーそうですかー」
「お前信じてないだろ」
「当たり前だろ、何人、凛乃介のセフレ見てきたと思ってんの?」
「セフレとはしてない」
「してなかったらセフレとは言わないんだよ」
「だから! セフレとはキスしてない!」
「へ……?」
そんなことが可能なのか? と一瞬考えるが、まぁ出来なくもないのだろうと何となくは分かる。
だけど、そんなこと、セフレたちが許すんだろうか。
「なんで……?」
「なんでもいいだろ別に」
「教えろよ!」
俺は詰め寄った際に、勢い余って凛乃介を押し倒すような体勢になってしまった。
凛乃介はすかさず身を翻すと、俺を組み敷くように見下ろした。
大きな身体の圧迫感は俺を黙らせるのに充分だった。
「やっと静かになった」
凛乃介は俺の頬についていたまだ乾いていない涙を拭いながら息を吐く。凛乃介の少し荒めの呼吸が耳に響いて離れない。
「優しくするつもりだけど、多分っていうか、絶対、泣かせることになると思うから先に謝っておく」
何の話だ?
凛乃介の言っている意味が分からずキョトンとしていると、大きなため息をつかれた。心底失望したというような凛乃介の顔に焦り始める。
「はあー、まだ駄目かぁー」
何が駄目なのか、全く分からない。
凛乃介はそのまま覆いかぶさるようにして俺を抱きしめると、首元に顔を埋めた。凛乃介のピアスが首に触れる。
くすぐったさに身を捩ると、強い力で拘束されてしまった。
「今日は我慢するからこれくらいは許して」
よく分からないが、それから凛乃介は動かなくなってしまった。声をかけてみたが離れてくれる様子はない。俺は抱き締められたままの謎の時間を悶々と過ごし、これからの二人の関係を思い描くことで、なんとか正気を保ち続けた。
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