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相槌を打たなかったキミへ【3‐1】
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「ここ……?」
苗加が戸惑うのも当然だろう。
俺たちが足を止め、見上げた先には大きな朱色の鳥居が堂々と鎮座している。神社仏閣特有の厳かな雰囲気に少しだけ背筋が伸びる。
とは言いつつも、毎年夏祭りの会場になっている神社だけあって、大人から子供までみんな躊躇なく鳥居をくぐっていく。地元の人にとっては馴染みのある場所だ。
「でも、勝手にロケしたらマズいんじゃ……」
「ああ、大丈夫。ここの神社、よくお宮参りでロケに使わせて貰ってて顔馴染みだから、すぐに許可貰えると思う」
「そうなの……?」
一応は納得したようだが、苗加の気が進まなさそうな顔に首を傾げる。
「やっぱりイメージ違った? 場所変えようか」
俺としては良いアイデアだと思ったが、苗加が気乗りしないならしょうがない。他の候補を思い浮かべながらそう言うと、苗加が小さく声を出した。
「だっておれ、ホストだし……」
苗加の意図が掴めず、思わず眉間に皺が寄る。
「なんとなく、こういう場所に来たらマズいかなって」
「? いや、全く意味が分からん」
「神社ってさあ、神聖な場所って感じがするじゃん……!」
「するけど、それと苗加がホストなことと何か関係あるか? ってか、他のホストだって普通に初詣とかするだろ」
「それはそうなんだけど……」
煮え切らない苗加に焦れた俺は少し言葉が強くなる。
俺に任せてくれると言ったのはそっちなのに。
「苗加が何を気にしてるのか知らないけど、俺は別に問題無いと思ってる」
言い切ってから、あ、と口を噤む。そして周囲を確認する。
幸い、ホストに行きそうな女の人は見当たらなかったが、人は見た目で判断出来ない。もし今ので苗加の本名がバレてしまったらと思うと、自分の失言を猛烈に反省する。
「ごめん……!」
苗加が何かを言う前に手を合わせて謝る。
「名前、呼んじゃった……」
一人でスタジオを運営するようになってから、顧客の個人情報の取り扱いには細心の注意を払っていたつもりだったが、迂闊だった。
「大丈夫だから顔上げて。おれもグズグズ言ってごめん。ホストやってると色々感覚が麻痺してくるから、せめて善良な一般人とは線引きしないとって思いが強くなっちゃって」
「なんだそれ。じゃあ俺は"善良な一般人"じゃないわけ?」
「心広くんは善良な一般人でしょ」
俺の質問の意図が分からないのか、苗加は不思議そうな顔をする。
「じゃあ、ヒロムは俺と一線引いて接してた訳だ? サミシイナァー」
当てつけのように片言でそう付け加えると想像以上に苗加は慌てた。
「い、や、そんなつもりじゃなくて! だから、その、おれが言いたいのは……!」
「ヒロムがそうしたいなら俺は止めないけど、俺は気にしない、とだけはっきり言っとくから」
さっきまで、苗加を"違う世界の人間"だと決めつけていたのも忘れて、意識するよりも前に言葉がするすると流れ出た。
しかし、今の俺の感情に偽りはない。苗加と接すれば接するほど、数少ない俺の中にある昔の苗加の面影が蘇ってくる気がする。
「………………どうする? やめる?」
俺は静かに聞いた。
「……ここにする」
そう答える苗加の顔が少し赤い。
その意味を探るように自分の発言を思い返し、少し熱血過ぎたかと思うと、途端に恥ずかしくなってきた。
高校生の時ならまだしも、大人になってこのやり取りは気恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ、とりあえず許可貰ってくるわ……」
大の大人の男が二人、神社の鳥居の前でモジモジしている絵面に耐えられなくなり、俺は早口にそう言うと、ひと足先に鳥居をくぐった。
苗加が戸惑うのも当然だろう。
俺たちが足を止め、見上げた先には大きな朱色の鳥居が堂々と鎮座している。神社仏閣特有の厳かな雰囲気に少しだけ背筋が伸びる。
とは言いつつも、毎年夏祭りの会場になっている神社だけあって、大人から子供までみんな躊躇なく鳥居をくぐっていく。地元の人にとっては馴染みのある場所だ。
「でも、勝手にロケしたらマズいんじゃ……」
「ああ、大丈夫。ここの神社、よくお宮参りでロケに使わせて貰ってて顔馴染みだから、すぐに許可貰えると思う」
「そうなの……?」
一応は納得したようだが、苗加の気が進まなさそうな顔に首を傾げる。
「やっぱりイメージ違った? 場所変えようか」
俺としては良いアイデアだと思ったが、苗加が気乗りしないならしょうがない。他の候補を思い浮かべながらそう言うと、苗加が小さく声を出した。
「だっておれ、ホストだし……」
苗加の意図が掴めず、思わず眉間に皺が寄る。
「なんとなく、こういう場所に来たらマズいかなって」
「? いや、全く意味が分からん」
「神社ってさあ、神聖な場所って感じがするじゃん……!」
「するけど、それと苗加がホストなことと何か関係あるか? ってか、他のホストだって普通に初詣とかするだろ」
「それはそうなんだけど……」
煮え切らない苗加に焦れた俺は少し言葉が強くなる。
俺に任せてくれると言ったのはそっちなのに。
「苗加が何を気にしてるのか知らないけど、俺は別に問題無いと思ってる」
言い切ってから、あ、と口を噤む。そして周囲を確認する。
幸い、ホストに行きそうな女の人は見当たらなかったが、人は見た目で判断出来ない。もし今ので苗加の本名がバレてしまったらと思うと、自分の失言を猛烈に反省する。
「ごめん……!」
苗加が何かを言う前に手を合わせて謝る。
「名前、呼んじゃった……」
一人でスタジオを運営するようになってから、顧客の個人情報の取り扱いには細心の注意を払っていたつもりだったが、迂闊だった。
「大丈夫だから顔上げて。おれもグズグズ言ってごめん。ホストやってると色々感覚が麻痺してくるから、せめて善良な一般人とは線引きしないとって思いが強くなっちゃって」
「なんだそれ。じゃあ俺は"善良な一般人"じゃないわけ?」
「心広くんは善良な一般人でしょ」
俺の質問の意図が分からないのか、苗加は不思議そうな顔をする。
「じゃあ、ヒロムは俺と一線引いて接してた訳だ? サミシイナァー」
当てつけのように片言でそう付け加えると想像以上に苗加は慌てた。
「い、や、そんなつもりじゃなくて! だから、その、おれが言いたいのは……!」
「ヒロムがそうしたいなら俺は止めないけど、俺は気にしない、とだけはっきり言っとくから」
さっきまで、苗加を"違う世界の人間"だと決めつけていたのも忘れて、意識するよりも前に言葉がするすると流れ出た。
しかし、今の俺の感情に偽りはない。苗加と接すれば接するほど、数少ない俺の中にある昔の苗加の面影が蘇ってくる気がする。
「………………どうする? やめる?」
俺は静かに聞いた。
「……ここにする」
そう答える苗加の顔が少し赤い。
その意味を探るように自分の発言を思い返し、少し熱血過ぎたかと思うと、途端に恥ずかしくなってきた。
高校生の時ならまだしも、大人になってこのやり取りは気恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ、とりあえず許可貰ってくるわ……」
大の大人の男が二人、神社の鳥居の前でモジモジしている絵面に耐えられなくなり、俺は早口にそう言うと、ひと足先に鳥居をくぐった。
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