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思春期アゲイン【ゼン】
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トナミの様子が最近おかしい。
具体的に言うと、トナミが元客とトラブルになった日から徐々によそよそしくなりはじめた気がする。
あの時は無我夢中で強引にトナミを引き止めてしまった。トナミのためという表向きの大義名分を掲げていたが、内心では単純にトナミがいなくなってしまうのが寂しかった。
家と仕事を提供すれば、もう少し一緒にいられるのではないか、と最低な考えが頭の中を支配していて、愚かにもその支配から逃れられなかった。
今になって冷静に考えれば考えるほど自分が恥ずかしくなってくる。
そのせいで、トナミは罪悪感を感じて、せめて俺のEDを治そうと躍起になっていた。自分がしたいから、などと嘘までついて、俺に気を使わせないようにしていた。
もうトナミにはそういったしがらみに囚われては欲しくないのに、触れてもらうと嬉しく感じてしまう自分を殴りたくなる。トナミに触られる度に年甲斐もなくドキドキしてしまう。
今までは、相手の気持ちが伴っていない行為にはなんの感情も湧かないと思っていた。しかし、トナミに触れられれば触れられるほど、トナミの顔が頭の中から離れなくなっていく。
自分で拒否しておいて、僅かでも距離を取られると寂しくなる。
自分でも何がしたいのか、どうされたいのか分からない。
思春期かよ……
もしかしたら思春期よりタチが悪いかもしれないと思う。下手に歳だけ重ねてしまった俺は言葉にすることが苦手になった。そして逃げることも覚えてしまった。
そうして問題から目を逸らして逃げているうちに、気づいた時には全てを失っているのだ。
芽依の時のように。
「ゼン!」
「う、わぁ!」
耳元で名前を呼ばれ、椅子から転がり落ちそうになる。大袈裟に驚いてしまい、少しだけ恥ずかしくなる。
一方、声の主は困ったような顔で俺のことを見ていた。
「何回呼んでも返事がないからどうしたのかなって思った」
「悪い……ちょっと考え事してた……」
「仕事のこと? オレ何か手伝える?」
「いや……大丈夫」
まさかトナミのことで悩んでいたなんて口が裂けても言えず、適当に誤魔化す。
「それで、なんで俺のこと呼んでたんだ?」
「あ、そうそう! さっき沢山郵便届いたんだけど、どうすればいいかなって思って」
「あー、DMとかは捨てちゃって。手紙は机の上に置いておいてくれれば後で確認する」
「はーい、了解」
言いながら、トナミは工房の奥へと消えていった。
俺は深呼吸をして心臓を落ち着ける。
表面上、トナミの態度は変わっていない。ただ、いつもならもっと絡んできたのにとか、いつもなら軽口で返ってきたのにとか、そういった些細な部分でよそよそしさを感じてしまう。
もしかしたら自分の勘違いかもしれない。
そう思うと踏み込むことも出来ず、表面上いつも通りなトナミに合わせて、こちらもいつも通りに返す。
そうして、卑怯な俺は時間が解決してくれることを祈っていた。
仕事するか。
あんなに夢中になっていた仕事に身が入らなくなったのも、トナミの異変を感じ取った時からだった。同じ場所で働いているのにトナミが気になって仕方がない。仕事を教えるという名目で隣をついて回って、安心する。完全に職権濫用だ。
俺は僅かに残っている職人としてのプライドを呼び起こし、なんとか仕事に集中しようとした。
色々な人の大切な想いが詰まったジュエリーを浮ついた気分のまま扱っていいはずがない。そう思うと自然と集中出来た。
具体的に言うと、トナミが元客とトラブルになった日から徐々によそよそしくなりはじめた気がする。
あの時は無我夢中で強引にトナミを引き止めてしまった。トナミのためという表向きの大義名分を掲げていたが、内心では単純にトナミがいなくなってしまうのが寂しかった。
家と仕事を提供すれば、もう少し一緒にいられるのではないか、と最低な考えが頭の中を支配していて、愚かにもその支配から逃れられなかった。
今になって冷静に考えれば考えるほど自分が恥ずかしくなってくる。
そのせいで、トナミは罪悪感を感じて、せめて俺のEDを治そうと躍起になっていた。自分がしたいから、などと嘘までついて、俺に気を使わせないようにしていた。
もうトナミにはそういったしがらみに囚われては欲しくないのに、触れてもらうと嬉しく感じてしまう自分を殴りたくなる。トナミに触られる度に年甲斐もなくドキドキしてしまう。
今までは、相手の気持ちが伴っていない行為にはなんの感情も湧かないと思っていた。しかし、トナミに触れられれば触れられるほど、トナミの顔が頭の中から離れなくなっていく。
自分で拒否しておいて、僅かでも距離を取られると寂しくなる。
自分でも何がしたいのか、どうされたいのか分からない。
思春期かよ……
もしかしたら思春期よりタチが悪いかもしれないと思う。下手に歳だけ重ねてしまった俺は言葉にすることが苦手になった。そして逃げることも覚えてしまった。
そうして問題から目を逸らして逃げているうちに、気づいた時には全てを失っているのだ。
芽依の時のように。
「ゼン!」
「う、わぁ!」
耳元で名前を呼ばれ、椅子から転がり落ちそうになる。大袈裟に驚いてしまい、少しだけ恥ずかしくなる。
一方、声の主は困ったような顔で俺のことを見ていた。
「何回呼んでも返事がないからどうしたのかなって思った」
「悪い……ちょっと考え事してた……」
「仕事のこと? オレ何か手伝える?」
「いや……大丈夫」
まさかトナミのことで悩んでいたなんて口が裂けても言えず、適当に誤魔化す。
「それで、なんで俺のこと呼んでたんだ?」
「あ、そうそう! さっき沢山郵便届いたんだけど、どうすればいいかなって思って」
「あー、DMとかは捨てちゃって。手紙は机の上に置いておいてくれれば後で確認する」
「はーい、了解」
言いながら、トナミは工房の奥へと消えていった。
俺は深呼吸をして心臓を落ち着ける。
表面上、トナミの態度は変わっていない。ただ、いつもならもっと絡んできたのにとか、いつもなら軽口で返ってきたのにとか、そういった些細な部分でよそよそしさを感じてしまう。
もしかしたら自分の勘違いかもしれない。
そう思うと踏み込むことも出来ず、表面上いつも通りなトナミに合わせて、こちらもいつも通りに返す。
そうして、卑怯な俺は時間が解決してくれることを祈っていた。
仕事するか。
あんなに夢中になっていた仕事に身が入らなくなったのも、トナミの異変を感じ取った時からだった。同じ場所で働いているのにトナミが気になって仕方がない。仕事を教えるという名目で隣をついて回って、安心する。完全に職権濫用だ。
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