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なんでもない日常
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***
何事もなく1日が終わった。
既に下校の時間になり、教室内に人はまばらで俺も帰り支度を始める。あまりにも拍子抜けするくらい何事もなかった。
学校にアキを思い出すものは何も無く、ただアキに出会う前のいつもの日常に戻っただけだった。友達とふざけて騒いで怒られて、授業中に寝てまた怒られて、すいませんでしたーと形だけの謝罪をして、また寝る。そんなくだらなくて心地良い時間に安心した反面、言いようの無い虚無感を覚えた。理由は分かってる。いつも頭の片隅にアキがいる。
いくら振り払っても消えてくれない。
「あ~~~~~~しんど」
「お疲れさん」
良平がそう言って俺の背中を叩いてきた。この男は容赦という言葉を知らないのか、力も強めで俺は思わず仰け反った。
「俺、怪我人」
「あ、そうだった。わりぃ」
そう言って過剰に痛がるふりをしてみせるが、大した事は無いと見透かされたのか笑って流された。
「にしても、入院明けで一日中授業はしんどいよな~」
「ほんとそれ」
「夏休み延長しても良かったんじゃね?」
「流石に授業ついていけなくなるし」
「真面目~」
良平は茶化すように口笛を吹くと、何かに気が付いたように俺の背後に目を向けた。
「あ、平川さん」
「え」
振り向くとそこには気まずそうな顔をした瑠璃華が立っていた。若干挙動不審気味に俺の顔盗み見ると、少しホッとしたように緊張から上がっていた肩が下がった。心配して俺の様子を見にきてくれたんだろうか。
「瑠璃華……?」
俺は微動だにしない瑠璃華に声を掛けた。
「あ! 俺もう部活行かないと! じゃあまた明日な!」
良平は慌てたように声を上げた。雑に鞄を持ち上げると、大袈裟に手を振って教室から出て行く。気を遣っているのがバレバレでやるせない気持ちになる。正直、今ここで2人きりにして欲しく無かった。
足早に良平が去って、教室には俺と瑠璃華だけが取り残された。
「どうかした?」
2人きりになっても口を開こうとしない瑠璃華に俺は尋ねる。今まで見たことがないような瑠璃華の挙動に違和感を感じる。瑠璃華はどちらかと言えば気が強い方で、こんなに何かに怯える様な気配を見せる子ではなかった。そもそもお見舞いに来てくれた時から何かがおかしいと思っていた。
「あ、あの……」
「ん?」
瑠璃華は少しづつ、絞り出すように声を出した。いつもハキハキとものを喋る瑠璃華らしくない。
「怪我、大丈夫……?」
瑠璃華は俯きがちにそう聞いてきた。病室でも同じことを聞かれたが、よほど怪我のことを気に掛けてくれているんだろうと思った。
「うん、もう平気。だから心配すんな」
俺はなるべく心配掛けないように穏やかに声を出した。と、瑠璃華は堰を切ったように泣き出した。両手で自身の顔面を覆い、声を殺して息を吐く。
「え、ちょっと──」
「良かった……良かったぁ…………」
子どもみたいに泣きじゃくる瑠璃華。どうして良いか分からず混乱した俺は、思わず瑠璃華の頭を撫でた。香奈を落ち着かせる時はいつもこうしていた。流石に同級生相手にこれはまずかったかもしれないと考えてももう遅い。
瑠璃華は俺の背中に腕を回すと思いっきり抱きついてきた。頭をぐりぐりと俺の胸に押し付けしゃくり上げるように泣き続ける。
どれだけそうしていたんだろうか。瑠璃華が落ち着く頃には教室内がオレンジ色に染まっていた。その間俺は直立不動で瑠璃華の頭を撫で続け、たまに廊下を通る生徒の不思議そうな視線を無視しようと努力していた。
「ごめん」
ぽつん、と瑠璃華はこぼした。
お見舞いに来た時も瑠璃華は俺に謝っていた。何に対しての謝罪なのか、見当もつかない。
「あの、さ、前に会った時も謝ってたけど、なんで?」
俺は瑠璃華の顔が見えるように両手で少し距離を開けると、聞いた。
「リュージが事故に遭ったの、わたしのせいだから……」
「え」
「リュージはわたしを庇ってくれて、それで……」
なるほど、と思った。どうにも自分が事故に遭う状況が想像つかなかったが、瑠璃華を助けたとなれば何となく納得出来る。車にぶつかりそうになった瑠璃華を見つけて、無我夢中で駆け出したんだろうなと我ながら簡単に想像出来る。
「あ~なるほど」
「……怒ってない?」
「なんで? 瑠璃華に怪我なくて良かったじゃん」
そうか、瑠璃華は俺が怒っていると思ってこんなにビクビクしていたのか。そんなことで怒るはずなんか無いのに。ちょっと見くびられていたような気分になってへこむ。
瑠璃華は俺の言葉に瞳を大きく見開くと、途端に顔を真っ赤にして俯いた。
「リュージ、あのね、」
「うん?」
「わたし、リュージとやり直したい」
「え、」
思ってもみない言葉だった。
「リュージはわたしの事なんてもう嫌いかもしれないけど」
「嫌いってことは……」
「じゃあ!」
「でもごめん」
考えるよりも先に言葉が出ていた。自分でも驚くほどにきっぱりと。
「俺、好きなやついるから」
「そう、なんだ……」
「うん。だから──」
言いかけて声が詰まる。廊下に見慣れた背中が見えた気がした。見間違うはずがない。アキだ。そう思った瞬間、俺は瑠璃華を更に遠ざけると走り出していた。
何事もなく1日が終わった。
既に下校の時間になり、教室内に人はまばらで俺も帰り支度を始める。あまりにも拍子抜けするくらい何事もなかった。
学校にアキを思い出すものは何も無く、ただアキに出会う前のいつもの日常に戻っただけだった。友達とふざけて騒いで怒られて、授業中に寝てまた怒られて、すいませんでしたーと形だけの謝罪をして、また寝る。そんなくだらなくて心地良い時間に安心した反面、言いようの無い虚無感を覚えた。理由は分かってる。いつも頭の片隅にアキがいる。
いくら振り払っても消えてくれない。
「あ~~~~~~しんど」
「お疲れさん」
良平がそう言って俺の背中を叩いてきた。この男は容赦という言葉を知らないのか、力も強めで俺は思わず仰け反った。
「俺、怪我人」
「あ、そうだった。わりぃ」
そう言って過剰に痛がるふりをしてみせるが、大した事は無いと見透かされたのか笑って流された。
「にしても、入院明けで一日中授業はしんどいよな~」
「ほんとそれ」
「夏休み延長しても良かったんじゃね?」
「流石に授業ついていけなくなるし」
「真面目~」
良平は茶化すように口笛を吹くと、何かに気が付いたように俺の背後に目を向けた。
「あ、平川さん」
「え」
振り向くとそこには気まずそうな顔をした瑠璃華が立っていた。若干挙動不審気味に俺の顔盗み見ると、少しホッとしたように緊張から上がっていた肩が下がった。心配して俺の様子を見にきてくれたんだろうか。
「瑠璃華……?」
俺は微動だにしない瑠璃華に声を掛けた。
「あ! 俺もう部活行かないと! じゃあまた明日な!」
良平は慌てたように声を上げた。雑に鞄を持ち上げると、大袈裟に手を振って教室から出て行く。気を遣っているのがバレバレでやるせない気持ちになる。正直、今ここで2人きりにして欲しく無かった。
足早に良平が去って、教室には俺と瑠璃華だけが取り残された。
「どうかした?」
2人きりになっても口を開こうとしない瑠璃華に俺は尋ねる。今まで見たことがないような瑠璃華の挙動に違和感を感じる。瑠璃華はどちらかと言えば気が強い方で、こんなに何かに怯える様な気配を見せる子ではなかった。そもそもお見舞いに来てくれた時から何かがおかしいと思っていた。
「あ、あの……」
「ん?」
瑠璃華は少しづつ、絞り出すように声を出した。いつもハキハキとものを喋る瑠璃華らしくない。
「怪我、大丈夫……?」
瑠璃華は俯きがちにそう聞いてきた。病室でも同じことを聞かれたが、よほど怪我のことを気に掛けてくれているんだろうと思った。
「うん、もう平気。だから心配すんな」
俺はなるべく心配掛けないように穏やかに声を出した。と、瑠璃華は堰を切ったように泣き出した。両手で自身の顔面を覆い、声を殺して息を吐く。
「え、ちょっと──」
「良かった……良かったぁ…………」
子どもみたいに泣きじゃくる瑠璃華。どうして良いか分からず混乱した俺は、思わず瑠璃華の頭を撫でた。香奈を落ち着かせる時はいつもこうしていた。流石に同級生相手にこれはまずかったかもしれないと考えてももう遅い。
瑠璃華は俺の背中に腕を回すと思いっきり抱きついてきた。頭をぐりぐりと俺の胸に押し付けしゃくり上げるように泣き続ける。
どれだけそうしていたんだろうか。瑠璃華が落ち着く頃には教室内がオレンジ色に染まっていた。その間俺は直立不動で瑠璃華の頭を撫で続け、たまに廊下を通る生徒の不思議そうな視線を無視しようと努力していた。
「ごめん」
ぽつん、と瑠璃華はこぼした。
お見舞いに来た時も瑠璃華は俺に謝っていた。何に対しての謝罪なのか、見当もつかない。
「あの、さ、前に会った時も謝ってたけど、なんで?」
俺は瑠璃華の顔が見えるように両手で少し距離を開けると、聞いた。
「リュージが事故に遭ったの、わたしのせいだから……」
「え」
「リュージはわたしを庇ってくれて、それで……」
なるほど、と思った。どうにも自分が事故に遭う状況が想像つかなかったが、瑠璃華を助けたとなれば何となく納得出来る。車にぶつかりそうになった瑠璃華を見つけて、無我夢中で駆け出したんだろうなと我ながら簡単に想像出来る。
「あ~なるほど」
「……怒ってない?」
「なんで? 瑠璃華に怪我なくて良かったじゃん」
そうか、瑠璃華は俺が怒っていると思ってこんなにビクビクしていたのか。そんなことで怒るはずなんか無いのに。ちょっと見くびられていたような気分になってへこむ。
瑠璃華は俺の言葉に瞳を大きく見開くと、途端に顔を真っ赤にして俯いた。
「リュージ、あのね、」
「うん?」
「わたし、リュージとやり直したい」
「え、」
思ってもみない言葉だった。
「リュージはわたしの事なんてもう嫌いかもしれないけど」
「嫌いってことは……」
「じゃあ!」
「でもごめん」
考えるよりも先に言葉が出ていた。自分でも驚くほどにきっぱりと。
「俺、好きなやついるから」
「そう、なんだ……」
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