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不意打ちの再会
しおりを挟むあの後ろ姿は絶対にアキだった、と気もそぞろに考えながら俺は校庭でサッカーをしていた。
昨日、走り出した俺はすぐに人影を見失い、呆気なく教室に戻る羽目になった。俺の机のそばにはまだ瑠璃華が居て、なんとなく2人で帰った。気まずくなりたくなくて一方的に俺が入院中にあった出来事を面白おかしく話し続け、もうそろそろ話題が限界を迎えそうな時に丁度良く別れた。瑠璃華は表面上は楽しそうにうん、うん、と相槌を打ってくれていたが、どこが元気はなかった。振られた相手と一緒にいるのだから当たり前だろう。もしかしたら、付き合う前の友達だった時みたいになれるかもしれないと思ってしまった俺の我儘に付き合わせてしまい、後悔が尽きない。
そう言えば、前にもこんなやりとりをしたな、とぼんやり思う。あの時、アキには激しく拒否されたことを思い出す。
学習しない自分が嫌になる。関係が終わったらそこまでなのだ。自分の都合のいいように関係を続けるなんて酷な事をアキにも瑠璃華にもしようとしていた。
「リュージ、ぼーっとしてんなー!」
俺の前を走る良平が声を掛けてくる。俺は無理矢理思考を現実に戻すと小走りで良平について行った。
「もっと速くー」
いつも授業はやる気がない癖に、体育の授業だけは張り切る。どちらかと言うと運動が苦手な俺には理解出来ない。
「分かってるって」
「んじゃ、ほれ」
急に良平は俺にボールを回してきた。何度も言うが運動があまり得意ではない俺は、ボールをとり損ねた挙句、足がもつれて盛大に転んだ。いくらなんでも恥ずかしい。
「ちょ、リュージ」
笑いが堪えきれないのか歪んだ顔で良平が駆け寄って来る。俺の手を引いて起こしてくれたが、転ける姿がよほどツボに入ったのか、肩を小刻みに震わせている。
「あー、擦りむいちゃってるじゃん」
「ほんとだ」
「入院した方が良いんじゃね?」
俺は良平に軽く蹴りを入れると、水で洗ってくるとその場を離れた。
「ちゃんと保健室行って消毒してもらえよー」
遠くから良平の声が聞こえたが、俺は無視して水道がある方に足を向けた。
***
「痛……」
傷口をよく見ると手首から肘にかけて盛大に皮膚が捲れていた。水で流してみるが、血が流れ出てくる。傷自体は大した事は無さそうだが、範囲が広いため止血した方が良さそうだと思った。
ポタポタと水に混ざって血が落ちる。そんな光景を眺めていると何だか落ち込んできた。
力なくしゃがみ込む。こうなると何をやっても上手くいかないような気がしてくる。ここ最近の感情の波に負けているのは分かっていても自分ではどうすることもできない。
なんだか泣き無くなるような気持ちを堪えて立ち上がった。一息つくと保健室へ歩みを進めた。
うちの学校の保健室は校庭からも行けるようになっていて、野外体育の授業中に怪我をした時は大体その入り口から入る。先生が不在の場合も多いので、勝手に入って勝手に治療している生徒も多い。それってどうなのよ、と思ったりもしていたが、正直、今の落ち込んだ顔を見られないで済むので助かる。
どうせ先生は居ないだろうと、ドアを開けて大股で保健室へ入る。薬剤が置いてある棚は奥の方に設置されていて、カーテンで区切られてる。
俺は遠慮なくカーテンを思い切り開けた。
「え」
俺の視線の先には大きく目を見開いたアキの顔があった。アキは棚の横に備え付けられたテーブルに座っていて、頬杖をついていた。
「は、え?」
アキは俺の顔を見るなり、乱暴に立ち上がった。ガタン、と大きな音を立てて椅子が傾く。
アキはそんな状況を構いもしないで、俺に背を向けて逃げ出そうとした。俺は反射的にアキの腕を掴んでしまった。
「痛」
「あ、ごめん」
無意識に力を込めてしまった手を離してアキと距離をとる。
自由になったアキは逃げ出すかと思ったが、その場に立ち止まり俯いている。思わず引き留めてしまった手前、沈黙に耐えられず声を出す。
「あ…………元、気?」
我ながら情けない声が出た。普通を取り繕うように力み過ぎて喉が震える。
アキは俯いたまま微かに首を上下に揺らした。一応、元気ということなのだろう。
「そっか……よかった」
少しだけ気掛かりが和らいだ。あんな逃げるように別れておいて今更だが。
と、アキの視線が俺の腕に注がれていることに気がついた。
「あー、これ、サッカーやってて転んじゃって」
沈黙が怖かった俺は、アキの視線に話を合わせることにした。
「俺、そこまで運動神経良くないのに、友達が急にパス回してきてさー」
聞かれてもいないのに口が滑る。今にも崩れそうな間を保たせるのにいっぱいいっぱいでアキの顔すらまともに見れない。
「アキ、薬の場所、分かる?」
俺が名前を呼んだ瞬間、アキの肩は大きく揺れ、俺から一歩遠ざかった。
「え、あー、ごめん、なんか……」
また今まで通り接しようとしてしまった。アキにとっては名前を呼ばれる事自体不快だったかもしれないと気が付いてしまい心が冷えてくる。
「やっぱ自分で探すわ」
「…………ここ」
アキは不意に小さい声でアキが座っていた椅子を指を差した。
「ここに座って待ってて。僕が準備するから……」
「あ、ありがとう」
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