一途な猫は夢に溺れる

ことわ子

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一途な猫は夢に溺れる

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「いいのよ。可愛い甥っ子のためだもの」

 穏やかに笑う様子はお師匠さんにそっくりで安心する。

「あ、そうそう、話が途中になってしまったのだけれど、さっきフェリシーを見かけたのよ」
「はぁ? なんでフェリシーが?」
「だからちゃんと話が伝わっていないんじゃないかと思って」

 お師匠さんは顎に手を当てたまま考え込んでしまい、俯いてしまった。こうなってしまうといくら声を掛けても上の空なので待つしかない。
 俺はこっそりとマリエナ様に声を掛けた。

「あの、フェリシー……様って……?」
「あー、のね、フェリシーは……」
「僕の幼馴染で婚約者」

 会話に割って入ったお師匠さんがはっきりと言った。

「え、……」
「でも断ったし、もう何年も会ってない」

 あまりの衝撃に頭の中が真っ白になった。

「聞いてる? もう何年も会ってないんだよ? それなのに勝手に婚約者にされていい迷惑だよ」

 心の底から迷惑そうなお師匠さんの顔に、何故だか胸が痛くなる。

「フェリシーがいたって関係ないよ。僕の恋人はマオだけなんだから」

 突然お師匠さんが力強く肩を抱き寄せてくるから心臓がうるさくなる。

「そうは言っても向こうにも都合があるだろうし……」

 マリエナ様は困ったような声を出した。

「こっちだって都合がある。誰が呼んだのか知らないけど、フェリシーとは会わないよ」

 きっぱりと断言するお師匠さんに罪悪感を抱きながらもほっとする。婚約者と顔を合わせるお師匠さんをとてもじゃないが平穏な気持ちで見ていられない。
 しかし、マリエナ様の難しそうな表情を見る限り、そう簡単に片付く問題ではないようだ。

「アーネスト、ちゃんと会って話した方がいいと思います」

 お師匠さんは瞳を見開き、マリエナ様は意外そうな顔で俺を見た。

「でも」
「やっぱり大切なことですし、ちゃんと言葉で伝えた方がいいです」

 俺の説得に、お師匠さんは苦虫を噛み潰したような顔をして分かったと答えた。

「どう転ぶかは小僧次第だねぇ」

 若干不機嫌になったお師匠さんの肩をニニが馬鹿にするかのように叩いた。

「こらニニ! ごめんねアーネスト」

 マリエナ様は軽くニニの頭を小突くとニニを床へと放してやった。これ幸いとニニは小走りで走り去った。

「今更だけどこんなところで立ち話もなんよね。中に入りましょうか」

 そう言うと、マリエナ様は大きな扉の前で短く呪文を唱えた。すると触ってもいないのに扉が勝手に開いた。

「今日は魔法使いのパーティーだからね。ちょっと入るのにコツがいるのよ」

 お師匠さんが僕の手を引いて歩き出した。釣られて俺も歩き出す。扉の前まで来ると、お師匠さんは俺の手を強めに握った。

「いい? 絶対に僕から離れちゃ駄目だからね」

 久しぶりに交わしたお師匠さんとの約束に懐かしさを感じながら頷いた。
 扉の中にはには暗闇が広がっている。目を瞑って促されるまま足を踏み出すと、あたりは一瞬にして陽気な空気に変わった。
 広い室内には沢山の人がいた。大人や子ども、更にはニニと同じ猫やカラスも沢山いて、頻繁に小競り合いが起きていた。飼い主だろうか、止めに入る魔法使いやそれを見て泣き出す子どもがいたりと、中々に騒がしい。高貴な貴族のパーティーを想像していた俺は面食らった。これが魔法使い流なんだろうか。
 よく見れば奥には楽団がいて音楽を奏でている。こういう部分はいかにも、という感じがする。壁際を覆っている大きな窓からは明らかにお屋敷の外から見た景色とは違う、深い森が見えた。

「私たちの故郷の森に繋がっているの。後で案内するわね」

 マリエナ様は疑問に答えてくれると、ぱん、と手を叩いた。するとどこからともなくニニが姿を現した。口には魚の挟まったピンチョスを銜えていて、一口で平らげて串を投げ捨てた。

「こら、行儀悪いでしょ!」
「カラス共なんて散らかし放題だったぞ」
「あなたは私の可愛い娘なんだから、お行儀良くして欲しいのよ」
「親の勝手なエゴだな」

 はん、と鼻で笑いながら吐き捨てたニニだったが、おもむろに投げ捨てた串を拾い上げると、ふ、と息を吹きかけ消してしまった。

「どの家も色々あるんだねぇ」

 お師匠さんはニニと俺を見比べ笑った。俺はムッとしてお師匠さんを目を細めながら見た。

「ちょっと私は用があるから外すわね」

 ニニの態度に満足したのか、マリエナ様はニニの頭を撫でるとそう言った。

「今日こそあのすかしたカラスを負かしてやるんだからな」

 ニニがなにやら物騒なことを言い出す。マリエナ様はすかさずニニの口を塞ぐと、誤魔化すように笑った。

「マオが楽しめることを祈ってるわ」

 マリエナ様は優しく声を掛けてくれた後、ニニと共に喧騒の中に消えていった。
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