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空を知る旅
第23話 諦めないで
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酒場を出た後、シエロは「先に戻れ」と言って、どこかへ消えた。
「どうするんだよ、姫。もし体を要求されたら」
「そんな欲望があるなら、とっくに襲われています」
カルメラは心配そうだが、ネーヴェは一笑に付す。
結局シエロは、何を払ってもらうか考えると言って、要求を保留にした。
ここ数日、寝起きを共にして、シエロの人柄は分かった。彼はいつも部屋をネーヴェに譲り、自分は井戸端で水浴びがてら着替えている。食事はがっつかず、さりげなくネーヴェの分を取り分けてくれる。必要以上に干渉して来ないが、ネーヴェが一人にならないよう気を配っているようだ。ふとした瞬間に、彼の眼差しを感じることがある。
シエロに見守られていることに、ネーヴェはくすぐったいような、不思議な気持ちを抱いていた。
「シエロ様は、優しい方ですわ」
「姫、大丈夫? 王子が酷すぎて、男のハードルが低くなってない?」
「それは否めませんわね……」
カルメラの言う通り、あまりにも頼りなくてフォローしなければならないエミリオ王子に慣れて、普通の男性が分からなくなっているのかもしれない。
先に宿に戻った二人は、シエロを待たずに就寝する。シエロの方は、夜遅く戻ったようだった。
翌日。
ネーヴェは朝早くに起床し、準備を整えて、教会を訪れた。
「ネーヴェさん!」
フローラは教会の前で待っていた。
いつもの修道女の格好ではなく、淡いあさぎ色のワンピースを着ている。
彼女の表情は硬く、リナルドのとんぼ帰りを知っているようだった。
「私、彼を見送りに行こうと思います。素顔を見せても大丈夫なように、化粧を教えて頂けますか」
「喜んで」
ネーヴェは持参した化粧用具を広げる。
旅に際して必要最低限の用具だったが、この場合はちょうど良かった。
「目を閉じて」
彼女の顔を、精油水で丁寧にぬぐい、白粉をはたいていく。
目を閉じたまま、フローラは口を開く。
「彼、今でこそ痩せてますが、小さい頃はまるまると太っていて……私、彼を苛めていたんです」
「まあ」
「あの頃は自分が一番偉いと、根拠のない自信を抱いていました。しかし私の家は没落し、彼は出世して、私達は遠く離れてしまったのです」
子供の頃と違い、無邪気に声を掛けられないのだと、フローラは苦し気だった。
「ネーヴェさんほど美しければ、踏み出す勇気が持てるのでしょうか」
「とんでもありません。失敗ばかりですわ」
例えば、王子との婚約など。
恋というものに夢を見て、ちょっと気の合わない王子とも、いずれ仲良くやっていけると考えていた時期もあった。
人生は失敗が多いけれど、挑戦したこと自体を後悔するつもりは無い。何事もやってみないと分からないからだ。
だからこそ、フローラにも、一歩踏み出す勇気を持って欲しい。
そしてそれは、ネーヴェ自身も同じだ。
王子の婚約者なんて、普通の令嬢がいくら夢見ても叶わないものを体験させてもらったのだから、もう良しとしよう。
切り替えて、涙をぬぐって明日を目指すのだ。
「どうするんだよ、姫。もし体を要求されたら」
「そんな欲望があるなら、とっくに襲われています」
カルメラは心配そうだが、ネーヴェは一笑に付す。
結局シエロは、何を払ってもらうか考えると言って、要求を保留にした。
ここ数日、寝起きを共にして、シエロの人柄は分かった。彼はいつも部屋をネーヴェに譲り、自分は井戸端で水浴びがてら着替えている。食事はがっつかず、さりげなくネーヴェの分を取り分けてくれる。必要以上に干渉して来ないが、ネーヴェが一人にならないよう気を配っているようだ。ふとした瞬間に、彼の眼差しを感じることがある。
シエロに見守られていることに、ネーヴェはくすぐったいような、不思議な気持ちを抱いていた。
「シエロ様は、優しい方ですわ」
「姫、大丈夫? 王子が酷すぎて、男のハードルが低くなってない?」
「それは否めませんわね……」
カルメラの言う通り、あまりにも頼りなくてフォローしなければならないエミリオ王子に慣れて、普通の男性が分からなくなっているのかもしれない。
先に宿に戻った二人は、シエロを待たずに就寝する。シエロの方は、夜遅く戻ったようだった。
翌日。
ネーヴェは朝早くに起床し、準備を整えて、教会を訪れた。
「ネーヴェさん!」
フローラは教会の前で待っていた。
いつもの修道女の格好ではなく、淡いあさぎ色のワンピースを着ている。
彼女の表情は硬く、リナルドのとんぼ帰りを知っているようだった。
「私、彼を見送りに行こうと思います。素顔を見せても大丈夫なように、化粧を教えて頂けますか」
「喜んで」
ネーヴェは持参した化粧用具を広げる。
旅に際して必要最低限の用具だったが、この場合はちょうど良かった。
「目を閉じて」
彼女の顔を、精油水で丁寧にぬぐい、白粉をはたいていく。
目を閉じたまま、フローラは口を開く。
「彼、今でこそ痩せてますが、小さい頃はまるまると太っていて……私、彼を苛めていたんです」
「まあ」
「あの頃は自分が一番偉いと、根拠のない自信を抱いていました。しかし私の家は没落し、彼は出世して、私達は遠く離れてしまったのです」
子供の頃と違い、無邪気に声を掛けられないのだと、フローラは苦し気だった。
「ネーヴェさんほど美しければ、踏み出す勇気が持てるのでしょうか」
「とんでもありません。失敗ばかりですわ」
例えば、王子との婚約など。
恋というものに夢を見て、ちょっと気の合わない王子とも、いずれ仲良くやっていけると考えていた時期もあった。
人生は失敗が多いけれど、挑戦したこと自体を後悔するつもりは無い。何事もやってみないと分からないからだ。
だからこそ、フローラにも、一歩踏み出す勇気を持って欲しい。
そしてそれは、ネーヴェ自身も同じだ。
王子の婚約者なんて、普通の令嬢がいくら夢見ても叶わないものを体験させてもらったのだから、もう良しとしよう。
切り替えて、涙をぬぐって明日を目指すのだ。
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