実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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天使様と里帰り

第54話 大変お似合いですわ

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 いよいよ、実家に帰る日になった。
 空飛ぶ巨大鶏に乗って飛んで帰る……訳がなく、普通に馬と徒歩で数日掛けて帰省する。お忍びなので、ネーヴェは高位貴族の令嬢の振りをし、少数の護衛を連れて出掛けることにした。

「で。俺は、お前の護衛騎士の振りか」
 
 聖堂の裏で合流したシエロは、いつもと違う服装に身を包んでいる。
 動きやすいズボンとブーツに、軽装鎧と紺色のマント、帯剣した騎士の装いだ。

「リクエスト通りにしてやったが……」
「大変お似合いですわ」
 
 ネーヴェは、予想通りよく似合うと感激した。
 前からシエロは、司祭にしては体格が良すぎると思っていたのだ。体の線を隠す、ずるずる長い司祭服は彼の良さを損なっている。大司教の服装は特注品らしく、シエロの隠しきれない天使の本性が分かるような神秘的なデザインだったが、こうして騎士服になると一変して戦う男の側面が強調される。

「ちょっと! 私を忘れてない?!」
 
 シエロの後ろから声が上がる。
 白銀の髪を兎耳のようなツインテールにし、濃緑のドレスを着た美しい少女だ。野苺のような真っ赤な瞳が印象的で、感情豊かで気の強い雰囲気がある。
 彼女は、アウラの守護天使セラフィで、今はフォレスタの賓客だ。王城に滞在しているルイと違い、同じ天使のいる聖堂の方が良いとシエロの屋敷の客室に居着いているらしい。

「セラフィ、同行するなら、お前はネーヴェの妹だ」
 
 シエロは振り返り、面倒臭そうに言う。
 先日ルイの同行を許可してしまったので、なし崩しにアウラの天使セラフィも許可せざるをえなくなったネーヴェだった。
 セラフィは地団駄を踏みそうな様子で叫ぶ。

「分かってるわよ! ネーヴェお姉ーさま!」
「お手柔らかにお願いしますわ、セラフィ様」
 
 ネーヴェは平静を装って答えたが、内心どうしようかと思う。
 どうやらセラフィは、シエロが好きなようなのだ。シエロが全然セラフィに興味無さそうなので空振りしているが、同じ天使だからと彼の家に上がり込んだり、今回も旅に付いてきたり、邪魔なこと、この上ない。
 
「皆様、立ち話は目立ちますので、積もる話は馬車の中でなさってはいかがでしょうか」
 
 ネーヴェの護衛として侍女を装って付いてきた、近衛騎士フルヴィアが、長旅用の大型馬車の扉を開きながら言う。
 シエロがさっと前に立ち、先に馬車に入りながら、ネーヴェに手を差し出した。
 
「手を」
 
 騎士らしいエスコートだ。
 意外にさまになっているシエロの行動に、ネーヴェはやはり謎な男だと感じる。彼と手をつないで馬車の段差を登り、座席に腰を下ろした。

「私も!」
「セラフィ様は、私が」
 
 子供のように自分もエスコートして欲しいと言うセラフィを、ネーヴェはシエロを馬車の奥に押し込んで自分で対応した。

「セラフィ様は、私の妹なのですよね?」
「~~~!!」
 
 セラフィは不満そうだが、ネーヴェの手を握って馬車の中に入る。
 真ん中がネーヴェで、左右に天使という席順だ。大変に恐れ多い。
 しばらく郊外に出るまで、馬車旅だ。
 いざ、話をしようと思うと、何を話すか非常に迷う。
 ちらと横を見上げると、シエロは物憂い様子でぼんやり頬杖を付いている。もしかして、眠いのかしら。
 何となく黙って馬車に揺られる。
 しばらくして、妙に静かだと思って横を見たら、セラフィが爆睡していた。ことんと、頭がネーヴェの肩に乗ってくる。

「……これでも、俺より年上だぞ」
 
 シエロが、ボソッと言った。

「まあ」
 
 セラフィの実年齢のことだと察し、ネーヴェは驚愕する。
 シエロとのやり取りでは、年下に見えたが、実際は逆らしい。天使様の年齢は、見た目では分からないものだ。
 すぅすぅと安らかに眠るセラフィを見ていると、なんだか羨ましくなってくる。

「……私も、肩をお借りしても?」
 
 甘えても良いのだろうか。
 見上げると、シエロは一瞬驚いた表情になり、見間違いだろうか、少し嬉しそうな気配を滲ませて、柔らかく笑んだ。

「もちろんだ」
 
 彼は少しネーヴェに寄せて、もたれやすくしてくれる。
 ネーヴェは、その力強い腕に寄りかかり、瞳を閉じた。
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