実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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天使様と里帰り

Side: シエロ

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 先遣隊が旅立った晩、シエロはこっそり自分も城を出て、敵の拠点を探りに行こうとしていた。
 何のことはない、ネーヴェが自分の目で敵を見たいと言っていた時、シエロ自身も同じことを考えていたのである。ネーヴェの予想は当たっていた。
 城の住民が寝静まった頃合いを見計らい、外に出ようとする。

「ネーヴェ……」
 
 念のため、彼女の位置を無意識に探り、シエロは脱走に気付いた。

「まさか……セラフィが連れ出したのか?!」
 
 ついでに、セラフィの気配もないことを察知し、彼は頭を抱えた。
 数刻前、セラフィはシエロの意図を見抜き自分も連れて行けとせがんでいた。それを断った腹いせなのだと、ピンとくる。

「シエロ様、どこへ行かれるのでしょうか」
 
 予想外の展開に出かけることをためらっていると、置いていくつもりだった護衛兼従者のテオに、追い付かれた。

「駄目ですよ。絶対、駄目です。人間を傷付けると禁に触れる天使様が、危険な前線に赴くなど」
 
 従者に行くなと引き留められる。
 シエロは嘆息した。

「それは、セラフィにも言ってやってくれ」
「? セラフィ様も出られたのですか」
「ああ。しかも、ネーヴェを連れていったようだ。いったい、何を考えているのやら」
 
 あのアウラの天使は、行動が突飛すぎて読めない。
 テオも不可解そうに眉をしかめたが、すぐに現実的な思考に立ち返ったらしく、痛い指摘をしてくる。
  
「女王陛下が、出られたのですか。それなら、シエロ様は国内に留まる必要があります。国王と天使が同時に国外で落命すれば、冗談抜きでフォレスタが滅びますよ」
「分かっている……!」
 
 シエロは喉で唸って呻いた。
 追いかけたくても出来ないとは、なんともどかしいことか。ネーヴェを好ましく想っているとはいえ、数百年かけて育んだフォレスタという国と、そこに生きる民たちも大事だった。自らの責務を放り出すことはできない。
 やはり、今の天使の身分は不自由だ。
 本来、シエロは規則や他人の要望を気にせず、自由に動きたい性格だった。天使として守るべき規範に縛られることに不満を感じていたから、豊穣神の復活を企てている。
 苦悩しながら、ネーヴェと国民をはかりに掛けていることに、改めて気付いた。
 少し前までは、ためらいなく、天使の責務を選べていたはずだ。
 勝手なことをする女王にいきどおる気持ちはない。むしろ、本名で呼ばれたからだろうか。昔の自分が、翼を広げて飛んで行ってしまえとそそのかす。
 だが、重いくびきを解き放つには、まだ早い。

「セラフィが一緒なら、すぐに危険ということも無いはずだ」
 
 と、自分に言い聞かせる。
 保険は掛けている。王との契約により、いつでもどこでも窮地に駆けつけることができる。
 自分の出番無しに、セラフィとネーヴェの二人で片を付けるなら、それも悪くない。王が部隊を指揮して国外に遠征し、天使が国内を守ること自体は、戦時中ならよくある話だった。
 シエロは、女王の留守中にやるべきことについて、冷静に思考を巡らせた。

「ラニエリの奴に、政治面を見させないといけないな。それから……」
 
 ネーヴェの父親を診察しなければならない。
 天使の力は万能ではないが、普通の人間よりも医療には精通している。
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