実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

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邪竜討伐

第29話 あなた間違ってますわよ

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 フレースヴェルグが捕虜交換を要求した際、彼にエイルの手紙を渡していた。「あなたと会いたくありませんが、捕虜交換であれば仕方ありません。お願いだから改心して元のあなたに戻って下さい。これ以上、人を殺さないで」というような内容を、テオがエイルの筆跡で書き連ねたものである。
 手紙を踏まえて、どう対応すれば信じてもらえるか……ネーヴェが誤魔化す方法を思い付く前に、フレースヴェルグは言った。

「帝国は偽物を送ってきたかと疑いましたが、本物で良かった。鳥の言葉が分かるのは、あなたくらいですからね」
「!!」
 
 どうやらフレースヴェルグは、雄鶏の言葉を問い返したネーヴェの反応を見て、本物と確信したらしい。
 エイルは、鳥の言葉が分かる女性だったのだろうか。
 咄嗟にネーヴェは、雄鶏を抱きしめた。

「私の通訳をしてください」

 小声で、雄鶏のモップにお願いする。

『りょ、了解っす』
 
 真正面から話せば、さすがに偽物だとばれるだろう。
 通訳してくれるモップが賢い雄鶏であることを、ネーヴェは切に願った。
 指名を受けた雄鶏は、胸の羽を膨らませて、コケコッコーと鳴き声を響かせる。

『姫さんは、直接お前と話さない! 俺っちが相手だ!』
 
 雄鶏のまるで挑発するような物言いに、はらはらする。

「相変わらず、天翼教会の司祭たちを信じているのですか」
 
 対するフレースヴェルグの声音が低くなった。直接話そうとしない恋人に、不機嫌になったようだ。

「育ての親である私よりも、なぜ司祭たちを気にするのか。あなたの理想の天使像は、教会が作り上げた架空のものだ。あれから何百年も経つのに、まだ浅はかな考えに囚われているのですね」

 フレースヴェルグが、育ての親?
 新しい情報に、ネーヴェは瞠目する。
 ねっとりした声音で、フレースヴェルグは続けた。

「かくなる上は、ここにいる者たちを皆殺しにし、あなたを連れ帰って再教育して差し上げましょうか」

 その台詞に、ネーヴェはカチンときて、エイルの振りを忘れそうになった。
 誰が誰に再教育するですって。
 ネーヴェは、雄鶏に小声で回答を指示した。

『姫さんは、ちがうと言っている!』
「何?」
『お前こそ、理想の天使像にこだわってる! 姫さんは、教会のことは一言も口にしていないのに、勝手に教会の指示だと思い込んでいる!』

 雄鶏の回答に、フレースヴェルグは不意に真顔になった。

『お前はエイルの話を聞こうとしていない。姫さんは、捕虜交換の場で決着を付けようと言ってる! お前を成敗するってよ!』
「ちょっと、モップ……」
 
 ネーヴェの言葉は、雄鶏によって曲解されてしまった。
 焦って訂正しようとするが、その前にフレースヴェルグは黒い翼を広げて言った。

「……なるほど。私は焦っていたようだ。改めて、しかるべき場所で、あなたの言葉を聞きましょう」

 黒翼の天使は、くるりと背を向けて、三日月に溶け込むように消えた。
 途端に、冷たかった空気がゆるむ。
 凍結されていた時間が動きだしたように感じた。焚火の音や、遠くで話している帝国の兵士たちのざわめきが、戻ってきたようだ。

「こちらの正体が見破られてしまったかもしれませんね」
 
 テオが短剣を鞘に戻しながら言う。

「そんなっ! ネル様、どうします?」
 
 フルヴィアは、あたふたしながらネーヴェの様子をうかがった。

「どうも、こうも、ありませんわ」
 
 ネーヴェは、雄鶏を地面に離してやった。

「私は、支配的な男が嫌いです。フレースヴェルグも嫌いだと、分かりました」

 フレースヴェルグは自分が長生きだからといって、強引にエイルの寿命を引き伸ばしたのだろう。ネーヴェは、運命に翻弄される、か弱い女性のエイルに同情を感じる。
 どうして無力だからといって、他人に蹂躙されなければならないのだろう。
 その辺きっちりエイルの代わりに、物申したい。
 他人に偉そうに言えた義理はないけれど、エイル様、あなた男選びを間違っていますわよ。
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