実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉

文字の大きさ
212 / 278
邪竜討伐

Side: フレースヴェルグ

しおりを挟む
 捕虜交換でやって来たエイルに一目会おうと、夜に出掛けたフレースヴェルグだが、出た時と同じく静かに戻ってきた。エイルをさらってくる気満々だったのだが、途中で気が変わったのだ。
 あの女は誰だ?
 エイルと同じように、鳥の言葉を解する女。
 フレースヴェルグがエイルの話を聞いていないと糾弾した。そのエイルを慮《おもんばか》った言葉に、興味が湧いた。あっさり引き上げたのは、そのためだ。
 エイルの振りをした女の正体を知るため、フレースヴェルグは捕虜にした女天使ジブリールの元へ向かう。ジブリールなら、何か知っているかもしれない。
 占領したヴェルナの街の地下牢に、ジブリールを捕らえてある。
 天使を捕らえる一番いい方法は、人質を取ることだ。
 逃げようとすれば、人質にしたヴェルナの住民の首が落ちるよう細工した呪いの鎖で、女天使ジブリールを繋いだ。
 地下牢に降りると、恐怖に歪んだ表情の人質たちと、対照的に静かに瞳を閉じるジブリールの姿があった。女天使は血と泥に汚れていたが、内側からこぼれるような清潔な光を帯びている。それはフレースヴェルグが失ってしまったものだ。

「ジブリール、話があります」
 
 フレースヴェルグが呼びかけると、彼女はゆっくり空色の瞳を開いた。

「何の話だろうか。我にそなたを満足させるような話ができると思えぬが」
 
 若い外見と裏腹に、ジブリールは千年を越す年齢だ。帝国の始まった頃から生きている、天使の中でも古株である。

「鳥の言葉を解する女と会った。あれは、何者だ?」
 
 回りくどい話をせず、フレースヴェルグは直接切り込むような質問をした。

「……それは、おそらくフォレスタの女王だろう」
 
 ジブリールは少し沈黙した後、あっさり答える。
 敵に情報を渡して云々と考えていなさそうだ。俗世の嘘や汚れと全く関係がない、天使らしい性格と言える。

「フォレスタの女王?」
「我は詰まらない話しか出来ぬと考えていたが、間違いだったようだ。ちょうど、そなたに聞かせるべき面白い話を思い出したぞ」

 女天使は、含み笑いをする。
 フレースヴェルグは眉をしかめたが、お優しい天使様が皮肉を言うとも考えられず、聞いても構わないだろうと続きを促す。

「それは実に興味深いですね。聞かせて頂けますか」
「そなたも、我が息子の一人、魔を滅せし天使ラルクシエルの噂は聞いたことがあるだろう。フォレスタの守護天使でもある」
 
 知っている。
 帝国ついでにフォレスタも落とそうかと考えたが、国外でもあれだけの力を振るう天使が守る国を、攻め滅ぼす労力に成果が見合わないと攻略を諦めたのだ。
 
「あの子は、フォレスタの女王に懸想しているらしい」
 
 ジブリールは、おかしそうに笑いながら告げた。
 
「それは……天使と人間の恋愛ですか」
 
 フレースヴェルグは、ジブリールが何故笑っているのか分からず、苛立った。
 ほんの一時、戦場でまみえた若い天使の男の姿を思い出す。
 天使と国王の両方が戦場に出てくるとは珍しいと思ったが、もしや、あの天使は女王を守るために出陣したのか?
 妙に、あの天使の存在が気になった理由が、今分かった。

「そうだ。行く末が気にならぬか、フレースヴェルグよ。あの子が人間との恋に、どのような決着を付けるか」
「高みの見物ですか。天使の癖に、悪趣味なことだ」
 
 ジブリールの言葉に、不快感を覚えた。
 他人の恋の行方など、どうでもいいことだ。
 それでも無意識に自分たちと重ねると、当事者ではない他人の言葉は、不愉快に思う。

「いいや。我は、あの子の幸福を願っているよ」
 
 そう告げたジブリールは、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
 ……反吐へどが出る。

「はっ……なら私は、あの男の不幸でも願うとしましょうか」

 天使と人間の恋……上手くいっても、破局しても、どちらにしてもフレースヴェルグは気に食わない。
 いっそ、あの男も自分と同じように墜ちてしまえば良いのにと、薄暗く考えた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

追放された悪役令嬢ですが、前世の知識で辺境を最強の農業特区にしてみせます!〜毒で人間不信の王子を美味しい野菜で餌付け中〜

黒崎隼人
恋愛
前世で農学部だった記憶を持つ侯爵令嬢ルシアナ。 彼女は王太子からいわれのない罪で婚約破棄され、辺境の地へと追放されてしまいます。 しかし、ドレスを汚すことを禁じられていた彼女にとって、自由に土いじりができる辺境はまさに夢のような天国でした! 前世の知識を活かして荒れ地を開墾し、美味しい野菜を次々と育てていくルシアナ。 ある日、彼女の自慢の畑の前で、一人の美しい青年が行き倒れていました。 彼の名はアルト。隣国の王子でありながら、政争で毒を盛られたトラウマから食事ができなくなっていたのです。 ルシアナが差し出したもぎたての甘酸っぱいトマトが、彼の凍りついた心を優しく溶かしていき……。 王都の食糧難もなんのその、最強の農業特区を作り上げるルシアナと、彼女を溺愛する王子が織りなす、温かくて美味しいスローライフ・ラブストーリー、ここに開幕です!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...