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願いが叶う島
Side: シエロ
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船上からいなくなったのは、ネーヴェだけだった。
シエロは、それが宝座の天使の仕業だと、すぐに察した。後を追いかけたかったが、女王の側近であるフルヴィアやロドリゴ、ヴィエナの避難民などの巡礼者を放り出して飛んでいく訳にはいかない。
「ネル様?!」
主を見失ったフルヴィアは、混乱している。
「落ち着け。宝座の天使様の奇跡で、ミスタリアに連れて行かれただけだ。何か理由があるのだろう。俺たちも迅速にミスタリアを目指さなければ」
こんな海の真ん中で、立ち往生する訳にはいかない。
一行を島まで連れていくのが、今のシエロの責務だった。
「ミスタリアに行けば、すぐ会える」
自分にも、そう言い聞かせる。
天使は、人間を傷付けることができない。
ネーヴェは無事だ。
「聖下がそう仰るなら」
フルヴィアたちは納得してくれたようだ。
白い梟の来訪を吉兆だと騒ぐヴェルナの避難民と、対照的に不安な顔をしたフルヴィアたちを乗せて、船は航行を再開した。
幸い、予定外の出来事は、白い梟の一件だけだった。一行は順調に航行を続け、ミスタリアの港に到着した。
ミスタリアは、霧に包まれた天山を抱く瓢箪型の島で、入り江には天翼教会の施設が並んでいる。
巡礼者は、入り江近くにある宿泊施設に泊まり、天使への拝謁を願う。そして、願いが叶ったら故郷に送ってもらうか、自分の足で帰るかを選択する。
天使であるシエロは、もちろん巡礼者向けの入り江の施設に行く必要はない。その奥の天山付近に、天使が暮らす村があり、行くとしたらそこだ。
しかし、ネーヴェのことが心配で、知り合いに挨拶する余裕はない。
まっすぐ、天山から行ける宝座の天使の止まり木、生命樹に向かうことを決意する。
「俺は、ネーヴェを迎えに行く。お前たちは、巡礼者の施設で休憩した後、俺たちを待たずフォレスタに戻れ」
と、女王の護衛として付いてきた、フルヴィアとロドリゴに命令した。
「しかし、陛下が」
「ネーヴェは俺がフォレスタに連れ帰る。行き違いになってはまずいから、フォレスタで合流すべきだ」
天使の奇跡で、確実にフォレスタに転送してもらえと念を押す。
「エイルよ。お前も先にフォレスタに行け」
不安そうなエイルにも、そう伝えた。
彼女の肩に乗った、烏の姿のフレースヴェルグは、何も言わない。敗北してのち、彼は沈黙を貫いていて、この事態にどんな感想を抱いているか分からなかった。
「シエロ様、お供します」
テオは、シエロに付いていくと申し出る。
「確かに、神海生まれのお前が同行してくれるなら、心強いが……良いのか?」
天使といえど、ミスタリアにそう詳しい訳ではない。
地元民のテオの助力は、シエロにとって渡りに船だ。
だが、家族であるエイルとフレースヴェルグに付いていてやらなくて良いのだろうか。
部下の事情を知っているシエロは、それとなく気遣う。
「挨拶したい知り合いもいますので」
テオは言葉少なに答えた。
その強ばった表情から、テオが何か不安を抱いていて同行を申し出ているのを察する。フルヴィアたちに余計な情報を与えないように、言葉を選んだのだろう。
「聖下、モップを陛下の元に連れていってあげてください」
フルヴィアが雄鶏を抱えて差し出す。
「天使様との拝謁で、きっと陛下は気疲れしています。癒しが必要です!」
あいつはそんな弱気じゃないだろうとシエロは思ったが、フルヴィアの手の中の雄鶏がぐったり萎びていたので、哀れに思った。
「そうだな。お前の心遣いを、ネーヴェに届けよう」
優しい大司教聖下の顔を作って、厳かに雄鶏を受け取る。フルヴィアは真面目に言っているようなので、大人なシエロは何も指摘しない。
こうして一行は、すぐフォレスタに帰る組と、ネーヴェを迎えに行く組の二手に別れた。
『ぷはぁ~、あの嬢ちゃんに絞め殺されるかと思った。ありがとよ、天使のオス!』
地面に放すと、雄鶏は助かったと礼を言う。
「シエロ様。宝座の天使は気まぐれで、我が儘な方です」
「知っている」
二人だけになると、テオは胸の内を吐き出した。
「私はどうも、嫌な予感がするのですよ」
「……」
テオの生まれ育ちを考えると、彼の直感には信憑性がある。
「生命樹に登るぞ」
シエロは、見ている人間がいないことを確認し、ばさりと白い翼を広げた。
短い距離であれば、シエロも瞬間転移は可能だ。生命樹まで瞬間転移を駆使して、最短距離で移動するつもりだった。
シエロは、それが宝座の天使の仕業だと、すぐに察した。後を追いかけたかったが、女王の側近であるフルヴィアやロドリゴ、ヴィエナの避難民などの巡礼者を放り出して飛んでいく訳にはいかない。
「ネル様?!」
主を見失ったフルヴィアは、混乱している。
「落ち着け。宝座の天使様の奇跡で、ミスタリアに連れて行かれただけだ。何か理由があるのだろう。俺たちも迅速にミスタリアを目指さなければ」
こんな海の真ん中で、立ち往生する訳にはいかない。
一行を島まで連れていくのが、今のシエロの責務だった。
「ミスタリアに行けば、すぐ会える」
自分にも、そう言い聞かせる。
天使は、人間を傷付けることができない。
ネーヴェは無事だ。
「聖下がそう仰るなら」
フルヴィアたちは納得してくれたようだ。
白い梟の来訪を吉兆だと騒ぐヴェルナの避難民と、対照的に不安な顔をしたフルヴィアたちを乗せて、船は航行を再開した。
幸い、予定外の出来事は、白い梟の一件だけだった。一行は順調に航行を続け、ミスタリアの港に到着した。
ミスタリアは、霧に包まれた天山を抱く瓢箪型の島で、入り江には天翼教会の施設が並んでいる。
巡礼者は、入り江近くにある宿泊施設に泊まり、天使への拝謁を願う。そして、願いが叶ったら故郷に送ってもらうか、自分の足で帰るかを選択する。
天使であるシエロは、もちろん巡礼者向けの入り江の施設に行く必要はない。その奥の天山付近に、天使が暮らす村があり、行くとしたらそこだ。
しかし、ネーヴェのことが心配で、知り合いに挨拶する余裕はない。
まっすぐ、天山から行ける宝座の天使の止まり木、生命樹に向かうことを決意する。
「俺は、ネーヴェを迎えに行く。お前たちは、巡礼者の施設で休憩した後、俺たちを待たずフォレスタに戻れ」
と、女王の護衛として付いてきた、フルヴィアとロドリゴに命令した。
「しかし、陛下が」
「ネーヴェは俺がフォレスタに連れ帰る。行き違いになってはまずいから、フォレスタで合流すべきだ」
天使の奇跡で、確実にフォレスタに転送してもらえと念を押す。
「エイルよ。お前も先にフォレスタに行け」
不安そうなエイルにも、そう伝えた。
彼女の肩に乗った、烏の姿のフレースヴェルグは、何も言わない。敗北してのち、彼は沈黙を貫いていて、この事態にどんな感想を抱いているか分からなかった。
「シエロ様、お供します」
テオは、シエロに付いていくと申し出る。
「確かに、神海生まれのお前が同行してくれるなら、心強いが……良いのか?」
天使といえど、ミスタリアにそう詳しい訳ではない。
地元民のテオの助力は、シエロにとって渡りに船だ。
だが、家族であるエイルとフレースヴェルグに付いていてやらなくて良いのだろうか。
部下の事情を知っているシエロは、それとなく気遣う。
「挨拶したい知り合いもいますので」
テオは言葉少なに答えた。
その強ばった表情から、テオが何か不安を抱いていて同行を申し出ているのを察する。フルヴィアたちに余計な情報を与えないように、言葉を選んだのだろう。
「聖下、モップを陛下の元に連れていってあげてください」
フルヴィアが雄鶏を抱えて差し出す。
「天使様との拝謁で、きっと陛下は気疲れしています。癒しが必要です!」
あいつはそんな弱気じゃないだろうとシエロは思ったが、フルヴィアの手の中の雄鶏がぐったり萎びていたので、哀れに思った。
「そうだな。お前の心遣いを、ネーヴェに届けよう」
優しい大司教聖下の顔を作って、厳かに雄鶏を受け取る。フルヴィアは真面目に言っているようなので、大人なシエロは何も指摘しない。
こうして一行は、すぐフォレスタに帰る組と、ネーヴェを迎えに行く組の二手に別れた。
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「私はどうも、嫌な予感がするのですよ」
「……」
テオの生まれ育ちを考えると、彼の直感には信憑性がある。
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