山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*三年前* その背中を追いかけて

48 リュンクスの反撃

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 塔に戻ってきて最初の授業は、魔導具学だった。
 二年生は午前中、他の教室の生徒と合同で専門学科の講義を受け、午後は自分が所属する教室に行って個別に修行する。オナーと共に授業を受けられるのは、午前中だけだ。
 
「お昼ご飯は一緒に食べるよね、リュンクス!」
 
 オナーに誘われて、リュンクスは食堂に向かった。
 
「ほら、あそこを見て」
 
 食堂の端に座ると、オナーが指先だけで中央のテーブルを示した。
 そこには、カノンと取り巻きの生徒達が集まっている。
 
「この一ヶ月の間に、カノンは王様になっちゃったんだよ」
「何だよ王様って」
「上級生も下級生も、子分みたいに引き連れてさ。王様って呼ばれてる」
 
 確かに異常なほどの求心力だった。
 その中心のカノンは、落ち着き払って威厳すら漂わせている。
 しかし、リュンクスは昨夜を思い出して「猫を被ってるなカノンの奴」と思った。徹夜で夢中になって魔術に取り組む、子供のようなカノンの顔は、たぶんリュンクスしか知らない。

「探したぞ、後輩」
「タリス先輩」
 
 肥満気味の男子生徒が、リュンクスのテーブルにやってくる。
 昨夜、出会ったタリスという三年生だ。
 
「今日の放課後は空いているか? オルフェ様のところへ案内しよう」
 
 さっそくリュンクスを取り込みに来たようだ。
 危険は覚悟の上で、返事をする。
 
「はい。よろしくお願いします」
 
 隣でオナーが「オルフェ様って、あの?!」と慌てている。
 
「では放課後にまた」
 
 タリスは満足そうに頷いて、去っていった。
 
「オルフェってカノンと敵対してる……リュンクス、本当にカノンと別れるつもりなの?!」
「オナー、俺は長いものに巻かれる事にしたんだ」
「リュンクスはサーヴァントだもんね。サーヴァントは強いマスターと組んだ方が有利だって聞くけど、大変だね……」
 
 僕はノーマルで良かったよ、とオナーは同情してくれた。
 リュンクスは何も言えずに苦笑いした。




 放課後、リュンクスは迎えに来たタリスと共に、塔を登っていた。
 
「二年生なら、塔の上層に入ったことはないだろう。オルフェ様がおられるのは、塔七階の審問室だ」
 
 タリスは、ひいふう汗をかきながら階段を登っている。
 十二階建ての塔は、年次が上がるごとに上層階への道が開かれる仕組みだ。今回リュンクス達は上級生に呼ばれて入るので、限られた部屋にしか入れない。
 
「リュンクスを連れて来ました」
「……入れ」
 
 鋼のような響きの声。
 扉が勝手に内側から開き、コの字型のテーブルと、数人の上級生の姿が見える。
 一番奥の席には、アッシュブラウンの髪を長く伸ばした、秀麗な面差しの男子生徒が座っていた。濃い藍色の瞳は冷たくリュンクスを見据えていた。
 笑顔はない。厳しそうな先輩だ。
 
「オルフェ・スターランだ。リュンクス、私は無駄なやり取りが嫌いだ。さっさと帰って魔術の研究がしたい」
 
 リュンクスの反応を待たずに、立ち上がって手招きする。
 
「来い。手短に契約を終わらせよう」

 まだサーヴァントになると一言も言っていないのに、オルフェの中では確定事項らしい。
 リュンクスは呆れた。
 オルフェは強力なマスター属性の魔術師らしい重厚な威圧感を漂わせているが、入学当時ならともかく今のリュンクスなら撥ね退けられる。
 いつまでも、狩られるだけの兎ではない。
 
「オルフェ先輩。俺のマスターのノクト先輩は、貴石級の魔術師です。ご存知ですよね?」
 
 勝ち気な光を瞳に宿し、リュンクスは好戦的に言い返した。
 オルフェがまとう灰色・・のローブを見ながら続ける。
 
「最低でも貴石級の魔術師じゃないと、契約する気になれません」
 
 部屋にいる他の上級生達がどよめいた。
 リュンクスは、オルフェに喧嘩を売ったのだ。
 
「生意気な奴だ。おい、縛れ」
 
 オルフェは、近くにいるサーヴァントらしい上級生に顎をしゃくる。大人しそうな上級生は頷き、魔術を使った。
 床に魔法陣が現れ、円の中から植物が生える。
 生い茂ったつたが、リュンクス目掛けて殺到した。
 
「止まれ」
 
 リュンクスは慌てなかった。
 つい先日まで一緒に旅をしていたティファの植物攻撃に比べれば、それは大した事のない魔術だった。
 
「!!」
 
 床を這って伸びた蔦は、リュンクスの前でUターン。
 力なくしなびて折れた。
 
「そんな馬鹿なっ! 二年生に魔術を破られるなんて」
「……なるほど。あのノクト・クラブスが気に入るだけの事はある」
 
 オルフェは興味を引かれたように、まじまじとリュンクスを見つめた。
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