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*三年前* その背中を追いかけて
55 じゃじゃ馬のしつけ
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高評価を受けたカノンは、さほど嬉しくなさそうに「どうも」と返す。ノクトから賞賛の言葉を引き出すあたり、カノンもやはり一筋縄ではいかない魔術師だった。
一方、リュンクスは密かに赤面して悶えていた。いつも本心を見せないノクトの口から、リュンクスに好意を持っていると伺わせる言葉が出てきたのだ。
可愛いと言われてもハイハイと流していたリュンクスだが、好きという言葉には弱い。
「リュンクス」
「……ふぁっ」
見透かしたようにカノンが頬をつねった。
「よそ見するな」
「……はい」
痛い、と頬をさする。
二人のマスターの、リュンクスを巡るやり取りは決着が付いたようである。
「ありがとうございます。先輩がそのつもりなら、俺もリュンクスと先輩が連絡を取り合う邪魔はしません」
カノンは、さっさと次の話題に移った。
「聞きたい事がもう一つあります。オルフェ・スターランをご存知ですか?」
『ん? ああ。ワンコ好き過ぎて、色々抜けてる子の事だね。彼がどうかしたかい』
「ワンコ……?」
ノクトの言う「ワンコ好き」のイメージが、あの厳しくて真面目なオルフェと結びつかない。
リュンクスはカノンと顔を見合わせた。
「オルフェ・スターランは魔獣の研究をしていますが、ワンコとはそのことですか?」
『そうだよ。彼は魔獣を大事にし過ぎて、解剖や間引きを行わないんだ。あれでは貴石級を取るのは無理だろうね』
カノンの質問に、ノクトは飄々と答える。
後輩の性格や研究内容などを完璧に把握しているあたり、ノクトがいかに優秀か分かるというものだ。
『カノン・ブリスト、君はもしかしてオルフェとやりあっているのかな?』
「はい。実は……」
シラユキの魔力を奪った犯人がオルフェだと考えていると、カノンは先輩に説明した。
『ふむ。確かに魔獣の中には、魔力を奪うものがいるね』
「シラユキの話では、黒い犬に手を噛まれた翌日から魔力が無くなったと。噛まれた時に、犬に戻ってこいと呼びかけるオルフェの声を聞いたそうです。オルフェの飼っている魔獣の中に、シラユキの魔力を持っている個体を見つければ、塔の先生に訴えて対応してもらえるのですが」
証拠が無くて、今は塔の先生に相談しても取り合ってもらえない、とカノンはほぞを噛んだ。
『オルフェは貴石級六位、真珠のシルフィール先生の教室だったが、もしかしてシラユキは』
「はい。シラユキもシルフィール教室の所属です。おそらくシルフィール先生は、オルフェに貴石級を取って欲しいから、シラユキが自分の生徒なのを良いことに揉み消しているのかと」
リュンクスとカノンは、貴石級三位、青色玉のセイエル先生の教室に属している。
セイエルにも相談しているが、他教室の生徒を助けると越権行為になるので動けないらしい。
『オルフェが塔の裏の森で作っている、魔獣の庭の場所を教えよう。しかし、迂闊に近づけば彼は場所を変えるだろう。切り札として使うといい』
「ありがとうございます」
伝言紙の魔術で、後ほどリュンクスの部屋に森の地図を届けてくれるらしい。
ノクト様さまだ。
『さて、これで面倒な話はおしまいだ。リュンクス、前回、私がした酷い事とやらの詳細を聞かせてくれるかい』
「えぇ?!」
カノンとのセックスについて聞かせろという先輩に、リュンクスは動揺する。あの時ねっちり責められて降参した記憶は、思い起こせば頭を抱えるほど恥ずかしい。
「俺は自分の部屋で勉強する。リュンクス、先輩によろしく」
用が済んだとばかり、カノンは立ち上がった。
「待って待って! カノン、助けてくれよ」
「自分で蒔いた種だろう。自分で刈り取れ」
違う。どう考えても悪いのはノクトだ。
しかしカノンもそれを分かって言っているようだ。いがみ合っている癖に、なぜ二人は仲良くリュンクスで遊ぼうとするのだろう。
その夜は、ノクトに洗いざらい白状した後、戻ってきたカノンに激しく抱かれた。
「俺とノクト先輩、どちらを選ぼうなんて、考えなくていい」
首筋を甘噛みしながら、カノンは耳元でささやく。
「決めるのはマスターだ。サーヴァントである君に決定権は無いのだから」
リュンクスの悩みを見抜いた言葉だった。
同時に、先走ってノクトを選ぶなと、釘を刺す言葉でもある。
「ん、ぁ……!」
「返事は?」
後ろからのしかかったカノンに、敏感な内壁を突かれて、リュンクスは頭が真っ白になった。
セックスに乗じて約束を取り付けるなんて卑怯だ。
だが甘い快感で理性が塗りつぶされて、まともに考えられない。
「あ…ふ…分かったからぁ!」
とりあえず、リュンクスは二人の間で揺れている気持ちを棚上げすることにした。どちらにせよ、ノクトも言っていた通り、塔を卒業するまで何も決められないのだ。
サーヴァントは支配されることに快感を覚えるのだが、二人のマスターによってたかって弄ばれたリュンクスは、頭が馬鹿になるくらいの幸福と悦楽を感じていた。
「気持ちいいか?」
「うん…ん」
子供のように頷くリュンクス。
カノンはその様子に安心する。
リュンクスを御す。そのためにノクトと手を組んだ。最近のリュンクスは、マスターに逆らったり、自分からオルフェと駆け引きを始めたり、積極的過ぎて見ているこちらがハラハラする。これで少しは大人しくなってくれれば良いのだが。
一方、リュンクスは密かに赤面して悶えていた。いつも本心を見せないノクトの口から、リュンクスに好意を持っていると伺わせる言葉が出てきたのだ。
可愛いと言われてもハイハイと流していたリュンクスだが、好きという言葉には弱い。
「リュンクス」
「……ふぁっ」
見透かしたようにカノンが頬をつねった。
「よそ見するな」
「……はい」
痛い、と頬をさする。
二人のマスターの、リュンクスを巡るやり取りは決着が付いたようである。
「ありがとうございます。先輩がそのつもりなら、俺もリュンクスと先輩が連絡を取り合う邪魔はしません」
カノンは、さっさと次の話題に移った。
「聞きたい事がもう一つあります。オルフェ・スターランをご存知ですか?」
『ん? ああ。ワンコ好き過ぎて、色々抜けてる子の事だね。彼がどうかしたかい』
「ワンコ……?」
ノクトの言う「ワンコ好き」のイメージが、あの厳しくて真面目なオルフェと結びつかない。
リュンクスはカノンと顔を見合わせた。
「オルフェ・スターランは魔獣の研究をしていますが、ワンコとはそのことですか?」
『そうだよ。彼は魔獣を大事にし過ぎて、解剖や間引きを行わないんだ。あれでは貴石級を取るのは無理だろうね』
カノンの質問に、ノクトは飄々と答える。
後輩の性格や研究内容などを完璧に把握しているあたり、ノクトがいかに優秀か分かるというものだ。
『カノン・ブリスト、君はもしかしてオルフェとやりあっているのかな?』
「はい。実は……」
シラユキの魔力を奪った犯人がオルフェだと考えていると、カノンは先輩に説明した。
『ふむ。確かに魔獣の中には、魔力を奪うものがいるね』
「シラユキの話では、黒い犬に手を噛まれた翌日から魔力が無くなったと。噛まれた時に、犬に戻ってこいと呼びかけるオルフェの声を聞いたそうです。オルフェの飼っている魔獣の中に、シラユキの魔力を持っている個体を見つければ、塔の先生に訴えて対応してもらえるのですが」
証拠が無くて、今は塔の先生に相談しても取り合ってもらえない、とカノンはほぞを噛んだ。
『オルフェは貴石級六位、真珠のシルフィール先生の教室だったが、もしかしてシラユキは』
「はい。シラユキもシルフィール教室の所属です。おそらくシルフィール先生は、オルフェに貴石級を取って欲しいから、シラユキが自分の生徒なのを良いことに揉み消しているのかと」
リュンクスとカノンは、貴石級三位、青色玉のセイエル先生の教室に属している。
セイエルにも相談しているが、他教室の生徒を助けると越権行為になるので動けないらしい。
『オルフェが塔の裏の森で作っている、魔獣の庭の場所を教えよう。しかし、迂闊に近づけば彼は場所を変えるだろう。切り札として使うといい』
「ありがとうございます」
伝言紙の魔術で、後ほどリュンクスの部屋に森の地図を届けてくれるらしい。
ノクト様さまだ。
『さて、これで面倒な話はおしまいだ。リュンクス、前回、私がした酷い事とやらの詳細を聞かせてくれるかい』
「えぇ?!」
カノンとのセックスについて聞かせろという先輩に、リュンクスは動揺する。あの時ねっちり責められて降参した記憶は、思い起こせば頭を抱えるほど恥ずかしい。
「俺は自分の部屋で勉強する。リュンクス、先輩によろしく」
用が済んだとばかり、カノンは立ち上がった。
「待って待って! カノン、助けてくれよ」
「自分で蒔いた種だろう。自分で刈り取れ」
違う。どう考えても悪いのはノクトだ。
しかしカノンもそれを分かって言っているようだ。いがみ合っている癖に、なぜ二人は仲良くリュンクスで遊ぼうとするのだろう。
その夜は、ノクトに洗いざらい白状した後、戻ってきたカノンに激しく抱かれた。
「俺とノクト先輩、どちらを選ぼうなんて、考えなくていい」
首筋を甘噛みしながら、カノンは耳元でささやく。
「決めるのはマスターだ。サーヴァントである君に決定権は無いのだから」
リュンクスの悩みを見抜いた言葉だった。
同時に、先走ってノクトを選ぶなと、釘を刺す言葉でもある。
「ん、ぁ……!」
「返事は?」
後ろからのしかかったカノンに、敏感な内壁を突かれて、リュンクスは頭が真っ白になった。
セックスに乗じて約束を取り付けるなんて卑怯だ。
だが甘い快感で理性が塗りつぶされて、まともに考えられない。
「あ…ふ…分かったからぁ!」
とりあえず、リュンクスは二人の間で揺れている気持ちを棚上げすることにした。どちらにせよ、ノクトも言っていた通り、塔を卒業するまで何も決められないのだ。
サーヴァントは支配されることに快感を覚えるのだが、二人のマスターによってたかって弄ばれたリュンクスは、頭が馬鹿になるくらいの幸福と悦楽を感じていた。
「気持ちいいか?」
「うん…ん」
子供のように頷くリュンクス。
カノンはその様子に安心する。
リュンクスを御す。そのためにノクトと手を組んだ。最近のリュンクスは、マスターに逆らったり、自分からオルフェと駆け引きを始めたり、積極的過ぎて見ているこちらがハラハラする。これで少しは大人しくなってくれれば良いのだが。
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