山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*一年前* 冬至祭

176 意気投合

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 喧嘩しながらも、いつも通り風呂でじゃれ合い、寮に帰って二人で二度寝した。
 午後、リュンクスは、餌を欲しがる竜の子に起こされた。
 林檎を切って与えながら、窓の外を眺める。
 
「セドリックどうしてるかな……」
 
 気になるのは、置いてきてしまった幽霊の友人のこと。
 冬至祭の翌日も、塔は締め切られ、授業は無い。
 だからセドリックの様子を見に、塔に登ることはできなかった。
 
「……」
「リュンクス!」
「わっ?!」
 
 窓際に立って考え込んでいると、突然、窓の外にセドリックの顔が現れた。
 彼は逆さになって、リュンクスを覗き込んでいる。
 
「びっくりした?」
「……びっくりした」
 
 そういえば、セドリックは研究室の外に出られると判明したのだった。出歩けるのであれば、人のいない陰気な塔にこもっている必要は全くない。
 
「心臓に悪いから、逆さは止めてくれ」
「えへへ」
 
 リュンクスは窓を開け、セドリックを迎え入れた。
 連結したもう一つの部屋の机では、勉強中のカノンが眉間にシワを寄せている。リュンクスは、部屋に友人を入れるなと厳命されていた。通常なら怒るカノンだが、相手は幽霊セドリックだけに、どうしたものか悩んでいるらしい。
 
「聞いて。僕は、塔の先生達と話し合って、きちんと部屋をもらうことにしたよ。明日にでも、話に行くつもりだ」
「え? 大丈夫なの?」
 
 セドリックは、昨夜とは打って変わって、生気に満ち溢れていた。新しい事を始める時は、わくわくするものだが、セドリックも今そのような気分らしい。
 
「僕ね、リュンクスが言ってた、僕の事を教えてくれた知り合い、分かった気がする。先生でしょ?」
 
 どうやらセイエルがそうだと、セドリックは気付いたようだ。
 
「僕は生きていると考えたら、やりたい事がたくさん出てきた。せっかくだから勉強を再開して、リュンクスと一緒に塔を卒業したい!」
「わぉ、いいな、それ!」
 
 セドリックは、人生をここからもう一度始めるつもりなのだ。
 幽霊が学生になるなんて前代未聞だが、実現すれば面白い。
 リュンクスは、目を輝かせた。
 
「石から薬を作る研究、二人でやりとげとうよ!」
「ああ!」
 
 誓いも新たに、リュンクスはセドリックと意気投合した。
 



 休み明けに、セドリックは、セイエルと話したらしい。
 リュンクスは立ち会わなかったので、どういう話だったのか詳しくは知らない。だが和解し、互いの過去を共有したのだろうと思う。
 セドリックの扱いについて、教師達は集まって話し合った。
 議論には時間が掛かった。
 その間に、カノンは貴石級の資格を取った。
 
 カノンの研究課題は、魔力の少ない一般人向けの生活魔術の開発だったが、実は塔に来る前から、元になるアイデアがあったらしい。
 アウレルムの王子リーアンと剣術勝負をし、剣術について学ぶ中で、カノンは「霊気オーラ」に注目していた。
 剣術の達人は、気合で大木を切り倒したり、一瞬で加速して切り込んだりする。それは、魔術に代わる別の力の作用ではないか。
 これを「霊気オーラ」と呼ぶ剣士もいることから、カノンもその呼称を使い、研究することにした。
 
 そもそも魔術とは、魔力を精霊に捧げ、精霊の力を借りて超常現象を起こす技だ。カノンは、魔力の代わりに霊気を使えないかと考えた。
 検証の結果、魔力よりも効率は下がるが、霊気で擬似的な魔術を再現できると分かった。
 剣術を元にしているので、カノンの確立した術は、身体強化や、剣に元素をまとわせるなどしかできないが、いずれは生活に利用できる術も開発する予定だ。
 
 カノンの提出した術式を見た、塔の上層部は悩んだ。
 霊気に関する術は、既存の魔術とは別の新しい技術と定義すべきではないか。
 また、本当に一般人にこの技術を公開してもいいのか。魔術に対抗する技術を、一般人に与えるのは、自分の首を締めるようなものだ。
 ただ、霊気を使った術は、有効範囲が狭い。使い手の人間の周囲にしか、影響を及ぼす事はできない。霊気で精霊を大きく動かす事はできないのだ。
 広範囲に渡り、離れた場所にも効果を出せる魔術には、やはり一日の長がある。霊気による術が普及したからといって、魔術が不要ということにはならないだろうと、塔は結論を出す。
 
 新年のはじめ。まだ雪が降る冬のさなか、貴石級の授与が行われた。カノンは宣言通り、先輩と同時期に貴石級を取得したのだ。
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