200 / 266
*一年前* 冬至祭
176 意気投合
しおりを挟む
喧嘩しながらも、いつも通り風呂でじゃれ合い、寮に帰って二人で二度寝した。
午後、リュンクスは、餌を欲しがる竜の子に起こされた。
林檎を切って与えながら、窓の外を眺める。
「セドリックどうしてるかな……」
気になるのは、置いてきてしまった幽霊の友人のこと。
冬至祭の翌日も、塔は締め切られ、授業は無い。
だからセドリックの様子を見に、塔に登ることはできなかった。
「……」
「リュンクス!」
「わっ?!」
窓際に立って考え込んでいると、突然、窓の外にセドリックの顔が現れた。
彼は逆さになって、リュンクスを覗き込んでいる。
「びっくりした?」
「……びっくりした」
そういえば、セドリックは研究室の外に出られると判明したのだった。出歩けるのであれば、人のいない陰気な塔にこもっている必要は全くない。
「心臓に悪いから、逆さは止めてくれ」
「えへへ」
リュンクスは窓を開け、セドリックを迎え入れた。
連結したもう一つの部屋の机では、勉強中のカノンが眉間にシワを寄せている。リュンクスは、部屋に友人を入れるなと厳命されていた。通常なら怒るカノンだが、相手は幽霊セドリックだけに、どうしたものか悩んでいるらしい。
「聞いて。僕は、塔の先生達と話し合って、きちんと部屋をもらうことにしたよ。明日にでも、話に行くつもりだ」
「え? 大丈夫なの?」
セドリックは、昨夜とは打って変わって、生気に満ち溢れていた。新しい事を始める時は、わくわくするものだが、セドリックも今そのような気分らしい。
「僕ね、リュンクスが言ってた、僕の事を教えてくれた知り合い、分かった気がする。先生でしょ?」
どうやらセイエルがそうだと、セドリックは気付いたようだ。
「僕は生きていると考えたら、やりたい事がたくさん出てきた。せっかくだから勉強を再開して、リュンクスと一緒に塔を卒業したい!」
「わぉ、いいな、それ!」
セドリックは、人生をここからもう一度始めるつもりなのだ。
幽霊が学生になるなんて前代未聞だが、実現すれば面白い。
リュンクスは、目を輝かせた。
「石から薬を作る研究、二人でやりとげとうよ!」
「ああ!」
誓いも新たに、リュンクスはセドリックと意気投合した。
休み明けに、セドリックは、セイエルと話したらしい。
リュンクスは立ち会わなかったので、どういう話だったのか詳しくは知らない。だが和解し、互いの過去を共有したのだろうと思う。
セドリックの扱いについて、教師達は集まって話し合った。
議論には時間が掛かった。
その間に、カノンは貴石級の資格を取った。
カノンの研究課題は、魔力の少ない一般人向けの生活魔術の開発だったが、実は塔に来る前から、元になるアイデアがあったらしい。
アウレルムの王子リーアンと剣術勝負をし、剣術について学ぶ中で、カノンは「霊気」に注目していた。
剣術の達人は、気合で大木を切り倒したり、一瞬で加速して切り込んだりする。それは、魔術に代わる別の力の作用ではないか。
これを「霊気」と呼ぶ剣士もいることから、カノンもその呼称を使い、研究することにした。
そもそも魔術とは、魔力を精霊に捧げ、精霊の力を借りて超常現象を起こす技だ。カノンは、魔力の代わりに霊気を使えないかと考えた。
検証の結果、魔力よりも効率は下がるが、霊気で擬似的な魔術を再現できると分かった。
剣術を元にしているので、カノンの確立した術は、身体強化や、剣に元素をまとわせるなどしかできないが、いずれは生活に利用できる術も開発する予定だ。
カノンの提出した術式を見た、塔の上層部は悩んだ。
霊気に関する術は、既存の魔術とは別の新しい技術と定義すべきではないか。
また、本当に一般人にこの技術を公開してもいいのか。魔術に対抗する技術を、一般人に与えるのは、自分の首を締めるようなものだ。
ただ、霊気を使った術は、有効範囲が狭い。使い手の人間の周囲にしか、影響を及ぼす事はできない。霊気で精霊を大きく動かす事はできないのだ。
広範囲に渡り、離れた場所にも効果を出せる魔術には、やはり一日の長がある。霊気による術が普及したからといって、魔術が不要ということにはならないだろうと、塔は結論を出す。
新年のはじめ。まだ雪が降る冬のさなか、貴石級の授与が行われた。カノンは宣言通り、先輩と同時期に貴石級を取得したのだ。
午後、リュンクスは、餌を欲しがる竜の子に起こされた。
林檎を切って与えながら、窓の外を眺める。
「セドリックどうしてるかな……」
気になるのは、置いてきてしまった幽霊の友人のこと。
冬至祭の翌日も、塔は締め切られ、授業は無い。
だからセドリックの様子を見に、塔に登ることはできなかった。
「……」
「リュンクス!」
「わっ?!」
窓際に立って考え込んでいると、突然、窓の外にセドリックの顔が現れた。
彼は逆さになって、リュンクスを覗き込んでいる。
「びっくりした?」
「……びっくりした」
そういえば、セドリックは研究室の外に出られると判明したのだった。出歩けるのであれば、人のいない陰気な塔にこもっている必要は全くない。
「心臓に悪いから、逆さは止めてくれ」
「えへへ」
リュンクスは窓を開け、セドリックを迎え入れた。
連結したもう一つの部屋の机では、勉強中のカノンが眉間にシワを寄せている。リュンクスは、部屋に友人を入れるなと厳命されていた。通常なら怒るカノンだが、相手は幽霊セドリックだけに、どうしたものか悩んでいるらしい。
「聞いて。僕は、塔の先生達と話し合って、きちんと部屋をもらうことにしたよ。明日にでも、話に行くつもりだ」
「え? 大丈夫なの?」
セドリックは、昨夜とは打って変わって、生気に満ち溢れていた。新しい事を始める時は、わくわくするものだが、セドリックも今そのような気分らしい。
「僕ね、リュンクスが言ってた、僕の事を教えてくれた知り合い、分かった気がする。先生でしょ?」
どうやらセイエルがそうだと、セドリックは気付いたようだ。
「僕は生きていると考えたら、やりたい事がたくさん出てきた。せっかくだから勉強を再開して、リュンクスと一緒に塔を卒業したい!」
「わぉ、いいな、それ!」
セドリックは、人生をここからもう一度始めるつもりなのだ。
幽霊が学生になるなんて前代未聞だが、実現すれば面白い。
リュンクスは、目を輝かせた。
「石から薬を作る研究、二人でやりとげとうよ!」
「ああ!」
誓いも新たに、リュンクスはセドリックと意気投合した。
休み明けに、セドリックは、セイエルと話したらしい。
リュンクスは立ち会わなかったので、どういう話だったのか詳しくは知らない。だが和解し、互いの過去を共有したのだろうと思う。
セドリックの扱いについて、教師達は集まって話し合った。
議論には時間が掛かった。
その間に、カノンは貴石級の資格を取った。
カノンの研究課題は、魔力の少ない一般人向けの生活魔術の開発だったが、実は塔に来る前から、元になるアイデアがあったらしい。
アウレルムの王子リーアンと剣術勝負をし、剣術について学ぶ中で、カノンは「霊気」に注目していた。
剣術の達人は、気合で大木を切り倒したり、一瞬で加速して切り込んだりする。それは、魔術に代わる別の力の作用ではないか。
これを「霊気」と呼ぶ剣士もいることから、カノンもその呼称を使い、研究することにした。
そもそも魔術とは、魔力を精霊に捧げ、精霊の力を借りて超常現象を起こす技だ。カノンは、魔力の代わりに霊気を使えないかと考えた。
検証の結果、魔力よりも効率は下がるが、霊気で擬似的な魔術を再現できると分かった。
剣術を元にしているので、カノンの確立した術は、身体強化や、剣に元素をまとわせるなどしかできないが、いずれは生活に利用できる術も開発する予定だ。
カノンの提出した術式を見た、塔の上層部は悩んだ。
霊気に関する術は、既存の魔術とは別の新しい技術と定義すべきではないか。
また、本当に一般人にこの技術を公開してもいいのか。魔術に対抗する技術を、一般人に与えるのは、自分の首を締めるようなものだ。
ただ、霊気を使った術は、有効範囲が狭い。使い手の人間の周囲にしか、影響を及ぼす事はできない。霊気で精霊を大きく動かす事はできないのだ。
広範囲に渡り、離れた場所にも効果を出せる魔術には、やはり一日の長がある。霊気による術が普及したからといって、魔術が不要ということにはならないだろうと、塔は結論を出す。
新年のはじめ。まだ雪が降る冬のさなか、貴石級の授与が行われた。カノンは宣言通り、先輩と同時期に貴石級を取得したのだ。
22
あなたにおすすめの小説
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜
ひなた翠
BL
一年ぶりの再会。
成長した年下αは、もう"子ども"じゃなかった――。
「海ちゃんから距離を置きたかったのに――」
23歳のΩ・遥は、幼馴染のα・海斗への片思いを諦めるため、一人暮らしを始めた。
モテる海斗が自分なんかを選ぶはずがない。
そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。
「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」
「十八歳になるまで我慢してた」
「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」
年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。
夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。
年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。
これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる