山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*一年前* 冬至祭

177 未来へ

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 実は、リュンクスは魔石を砕いた後のことを考えていなかった。いや、砕いた後にどんな効果を持つ薬にしようか、夢は膨らませていた。
 砕いた石の破片から魔力を抽出する手法が確立したのは、春を目前にした日。
 
「そもそも、君なんで魔石から魔力だけ取り出そうとしていた訳? もともと薬になるような石を見つけて煎じる方が楽じゃないか」
「や、純粋な魔力を取り出せば、色をつけ放題かと思って」
 
 リュンクスは、セドリックに目標の再設定を迫られていた。
 
「魔力は取り出せたよ? だけど、ここに薬の効果を付けるとして、どんな効果にする? それを決めて、付加の魔術を開発してたら、あと数年は掛かるよ」
「……」
 
 リュンクスは、机の上に並んだ、成果物を眺めた。
 魔石を砕き、粉にしたり液体にしたり、いろいろ試してみた。
 白い粉末の山や、青みがかった透明なキューブなどの試作品が、机に無造作に置かれている。
 これらに薬剤としての効果を付与する予定だったが、セドリックの指摘通り、それを実現するには時間が掛かりそうだった。
 
「いっそ、このまま出しちゃおうか」
「は?」
「これ、水溶性だよね。魔力補給できる薬ですって」
 
 やけくそ気味に呟くと、セドリックは目を見開いた。
 
「リュンクス……」
「やっぱ駄目かな」
「いや、その案はむしろイケるよ。魔術師は、魔力補給が絶対必要だ。駄目どころか、ナイスアイデアだよ!」
 
 五年生に進級するまで、あと二ヶ月ほどしかない。
 リュンクスとセドリックは大急ぎで論文を書き、術式や成果物を揃えて、塔に提出した。友人に声を掛け臨床試験を手伝ってもらい、何とか検証も間に合った。
 ぎりぎりのタイミングだった。
 ミモザの黄色い綿毛のような花が満開になる頃、リュンクスは貴石級を取得した。
 







 五回目の春がやってくる。
 リュンクスとカノンが、ノクトと約束した答え合わせの時は、近付いていた。
 そして、物語は巡る。






 《 過去編 完結 ~現在*天空の城 に続く 》

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