山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*現在* 天空の城

178 五回目の春

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◇◇◇ 最終章 登場人物紹介 ◇◇◇

◇リュンクス
黒髪に翡翠色の瞳をした細身の青年。やや吊り気味の目付きで、髪は猫っ毛で少しうねっている。髪の手入れが面倒なので、項でひとまとめにしている。あまり髪の毛を伸ばしたがらない。
属性はサーヴァント。活動的で強そうな雰囲気なのでサーヴァントに見えない。魔術は四大元素を一通り使える。これは風と地という、相反する元素に好かれる彼独自の特性のため。
風に好かれる自由気ままな猫のような性格と、地に好かれる真面目で現実的な思考を併せ持つ。この風の部分でノクトと仲良くでき、地の真面目な性質でカノンと共感できる。
得意な魔術は無いが、前述の理由から全ての魔術を高いレベルで扱える。魔道具や薬を作るのが好き。
どちらかというと生産系の仕事につき、一人で黙々と作業したいと密かに思っている。
魔術師の名門ハルツの血を引き、神霊と交信できる最上級のサーヴァントの資質を持つ。

◇カノン・ブリスト
黄金色の髪と瞳を持つ青年。髪の毛を編みたいが強い髪質なので諦めている。まとめないで背中に流している髪は獅子の鬣のよう。貴族出身とすぐ分かる、威厳と威圧感を放つ、王者然とした雰囲気。
属性はマスター。四大元素の、地と火に好かれるが、もっぱら火の魔術を使う。火の元素に好かれる勇猛な性格だが、地の真面目で堅実な性質も持つため、火の魔術師のわりに落ち着いている。余談だが、地は水と相性がいいため(地も水も冷静)、地の元素的にはノクトと相性が良かったりもする。
魔術師だが幼少の頃から剣術に興味があり、修練を積んでいるため、並以上の技量を持つ剣士でもある。火の魔術と剣術を合わせて、退魔や破壊の近接系攻撃魔術が得意。
賢者にも戦士にもなれるが、メインは賢者、剣術は補助。将来は宮廷魔術師で、ばりばり政治をする気満々。
アウレルムの王族の血を引く、竜人の先祖返り。カノンは自身に流れる竜種の血を意識している。竜種と話したり、彼らから力を借りたりもできる。

◇ノクト・クラブス
青みがかった銀髪に氷色の瞳の青年。整った外見で冷たい印象を持たれがちだが、ユーモアを解する愉快な性格をしている。オシャレにも気を使う。意外と面倒見のいいお兄さん。
属性はマスター。四大元素の水と風に好かれ、冒険好きの自由気ままな行動をしながらも、冷静に計算を巡らせる厄介な性格(上司談)。水も風もよどんだらおしまいなため、その性質を強く持つノクトは、一つの土地に定住できない運命。
父親は人間の魔術師、母親は海の神霊セイレーン。母セイレーンは遭難した父親を助け夫婦になったが、父親は遭難時の負傷が原因で死亡。子供のノクトは人間で、海の中で育てられないため孤児院に預けた経緯がある。
苗字のクラブスは、ノクトを孤児院から引き取った恩師セルディールにもらった家名。
神霊とのハーフだというのは秘密で、知っているのはリュンクス以外にはセイエルだけ。母方の親類である海の神霊とはゆるく交流があり、神霊の力も少し使えるが、これも同じ魔術師にさえ明かさない秘密である。


◇◇◇ 


 窓の外に咲いているのは、春を告げるプリムラの花だ。プリムラの薄い五枚の花弁は純白だが、蜂蜜を薄く塗ったように黄色がかっている。親指ほどのサイズの花が密集して咲き誇る。可憐という表現がぴったりの花だった。
 五回目の春が来た。
 外は明るく穏やかな陽気だが、リュンクスは少し憂鬱だった。
 
「そんなに新入生歓迎会が嫌か?」
 
 腕組みしたカノンが、静かに聞く。
 いつの間にか、カノンはリュンクスより頭一つ分背が伸びていた。肩幅もがっしりして、大人の男の風格を漂わせている。漆黒のローブに映える黄金の髪は、結ばれず背中に流れ波打っている。何の装飾も身に着けていないのに、豪奢な金髪が飾りのようだった。
 低い声は落ち着いて冷厳としており、気の弱い者ならば怒られていると勘違いしそうだ。しかしリュンクスは、彼がそう簡単に怒らない事を知っている。
 
「飲み物に薬を混ぜてサーヴァントを選別するのは、千歩譲って我慢するよ。異論は山ほどあるけど、カノンが決めたなら俺は従うだけだ」
 
 リュンクスは、そっぽを向いて答える。
 塔に来た頃は垢抜けない少年だったリュンクスだが、今は蛹から羽化した蝶のように凛とした色気をまとっている。鴉の濡羽のような黒髪に、滑らかな白い肌。強い意志を灯した鮮やかな新緑の瞳。
 軽やかな立ち振舞は、爽やかな風が吹き抜けるようで、すれ違った人々がつい顔を上げて動作を目で追ってしまう。
 そして、漆黒のローブを見て感嘆の吐息を漏らす。
 現時点で貴石級を取得している五年生は、リュンクスとカノンの二人だけだ。
 誰にも負けない魔術師だという自負が、リュンクスの強い姿勢を支えている。

「……だけどカノンが、一年生のサーヴァントを相手にするのが気に入らない」
「ふっ」
「なんで笑うんだよ!」
 
 カノンが肩を揺らして笑いを漏らしたので、リュンクスは憤慨した。
 
「いや。分かりやすい嫉妬だと思ってな」
「……」
「心配しなくても、これは仕事に過ぎない。俺がリュンクス一筋だということは、この五年で証明済だと思うが」
 
 余裕の態度で返されて、リュンクスは唇を尖らせたまま、黙り込む。
 
「リュンクス、俺のために新入生歓迎会に協力するんだ。命令に従え。いいな?」
 
 貴石級を取得した事で、カノンとリュンクスは対等になった。今も同じ目線の高さで話している。
 対等だからこそ、上下関係を演じる事で、二人の絆を再確認することができる。これはじゃれ合いの一種だ。
 カノンに念を押され、リュンクスは渋々を装い「仰せのままに、ご主人様」と答えた。

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