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Power of Salvation(救世の力)
第54話 値切り交渉
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転移先は、アルパイン山脈の尾根だ。目的地である北盾教会は、特殊な結界に覆われているため、直接転移できなかった。
転移の魔術が完了すると、座標を固定していた精霊鳥が役目を終え、白い輝きを放ちながら空を上昇して消える。
「……白い鳥?」
カリンに精霊鳥を目撃され、リトスは密かに冷や汗を流す。
呪文は、詠唱省略や事前待機を駆使して、聞かれないよう誤魔化した。転移の魔術は精霊鳥に使わせたため、魔法陣はリトスの足元ではなく、精霊鳥の方に現れていたはずだ。厳密には、転移ではなく、召喚式。精霊鳥が、リトスと周囲の人々を呼び寄せる形で、魔術を発動させた。
だから、リトスの魔術だとばれないはずなのだが。
「誰が転移魔術を……私たちは、今どこにいるんだ」
「きっと聖光教の御遣いの導きです、殿下。聖剣奉納の旅を、神が見守ってくださっているのでしょう!」
周囲を見回すアッシュに、カリンが弾んだ声を上げた。
リトスの精霊鳥を、聖光教の壁画に描かれた白い鳥と勘違いしたらしい。いや、リトスの精霊鳥は、光の高位精霊セマルグルの分身でもあるから、間違いではないのだが……すっかり神の奇跡か何かだと思われてるな。
「確かに、北盾教会の近くのようだが」
アッシュは釈然としない顔だ。
北盾教会の周辺は、前代の聖剣の力が残っており、魔物を退けている。ここはまだ、一夜城の魔王の領域になっていない。
ふと気配を感じ振り返ると、しれっとレイヴンが立っていた。
クラウンと交戦後、敵の追跡をかわして自力で転移してきたのだろう。
「殿下……」
「私は使命を果たさなければならない」
アッシュは聖剣を丁寧に鞘に戻し、雪原の向こうに見える北盾教会の輪郭を見つめた。
リトスたちは、雪に覆われた斜面を下り始める。
転移先が見晴らしの良い山の尾根だったので、黒い点のようなトナカイの群れと、雪原にそびえる北盾教会の尖塔の両方がはっきり見える。
トナカイの群れの近くを観察すると、山小屋があった。あれはトナカイ飼いの小屋に違いない。挨拶しに行こうと、アッシュは歩き出す。
「うわっとぉ」
「大丈夫か」
柔らかい雪に足を取られて転びそうになったリトスを、無表情のレイヴンが腕を取って支える。
故郷は雪は降っても少ない南の国だったリトスは、雪に慣れていない。一方のレイヴンは、いかにも慣れた風に雪の上をスイスイ歩く。
「もう少し頑張ってリトスくん。たぶん、もうすぐだよ」
先頭を歩いていたアッシュが振り返る。
くっそー、この中で一番体力ないのは分かってるけどさ。気遣われると落ち込むぅ。
背負ってやろうかというレイヴンを脇に押しのけ、リトスは何とか歩き切った。
「すいません、誰かいませんか」
山小屋の扉を叩く。
しばらく待つと、中から老婆が姿を現した。
「まったく、どこのどいつじゃ。こんな山の上まで」
「ご老人、トナカイを売って頂けないだろうか。雪原を越えて、北盾教会まで行きたいのだ」
アッシュが頼むと、老婆はそっけなく答えた。
「一頭百ゴールド」
「高すぎるだろうっ!」
明らかなボッタクリに、カリンが老婆に食って掛かった。
「ご老人、このお方を誰と心得る?! 蒼炎の騎士アッシュ様だ! 蒼炎の騎士様はグレイドリブンを救うため、遠く王都からいらっしゃった。本来ならトナカイを差し出すべきところだぞ!」
「タダにしろって? こっちも生活があるんだよ」
「こちらは世界を救うために旅をしているのだ! お前の生活も、我々の旅の成功に掛かっているのだぞ!」
カリンの熱弁に、老婆が不機嫌になっている。
一方のアッシュは財布を取り出して悩んでいる。真面目に全部払うつもりか? 極端過ぎるんだよ。どいつもこいつも……
リトスは、えいやっと二人を押しのけた。
「あのトナカイ、痩せてたよ。一頭二十ゴールドでどう?」
「話にならないね、坊主。一頭九十ゴールドだ」
「四頭セットで買うから負けてくんない? 一頭三十ゴールド」
「四頭も取られちゃ困るよ。一頭八十ゴールド」
こういうのは、値切るのが前提なんだよ。
ポカンとするアッシュとカリンの前で、リトスは老婆と交渉を続け、何とか一頭五十ゴールドで落着させた。
転移の魔術が完了すると、座標を固定していた精霊鳥が役目を終え、白い輝きを放ちながら空を上昇して消える。
「……白い鳥?」
カリンに精霊鳥を目撃され、リトスは密かに冷や汗を流す。
呪文は、詠唱省略や事前待機を駆使して、聞かれないよう誤魔化した。転移の魔術は精霊鳥に使わせたため、魔法陣はリトスの足元ではなく、精霊鳥の方に現れていたはずだ。厳密には、転移ではなく、召喚式。精霊鳥が、リトスと周囲の人々を呼び寄せる形で、魔術を発動させた。
だから、リトスの魔術だとばれないはずなのだが。
「誰が転移魔術を……私たちは、今どこにいるんだ」
「きっと聖光教の御遣いの導きです、殿下。聖剣奉納の旅を、神が見守ってくださっているのでしょう!」
周囲を見回すアッシュに、カリンが弾んだ声を上げた。
リトスの精霊鳥を、聖光教の壁画に描かれた白い鳥と勘違いしたらしい。いや、リトスの精霊鳥は、光の高位精霊セマルグルの分身でもあるから、間違いではないのだが……すっかり神の奇跡か何かだと思われてるな。
「確かに、北盾教会の近くのようだが」
アッシュは釈然としない顔だ。
北盾教会の周辺は、前代の聖剣の力が残っており、魔物を退けている。ここはまだ、一夜城の魔王の領域になっていない。
ふと気配を感じ振り返ると、しれっとレイヴンが立っていた。
クラウンと交戦後、敵の追跡をかわして自力で転移してきたのだろう。
「殿下……」
「私は使命を果たさなければならない」
アッシュは聖剣を丁寧に鞘に戻し、雪原の向こうに見える北盾教会の輪郭を見つめた。
リトスたちは、雪に覆われた斜面を下り始める。
転移先が見晴らしの良い山の尾根だったので、黒い点のようなトナカイの群れと、雪原にそびえる北盾教会の尖塔の両方がはっきり見える。
トナカイの群れの近くを観察すると、山小屋があった。あれはトナカイ飼いの小屋に違いない。挨拶しに行こうと、アッシュは歩き出す。
「うわっとぉ」
「大丈夫か」
柔らかい雪に足を取られて転びそうになったリトスを、無表情のレイヴンが腕を取って支える。
故郷は雪は降っても少ない南の国だったリトスは、雪に慣れていない。一方のレイヴンは、いかにも慣れた風に雪の上をスイスイ歩く。
「もう少し頑張ってリトスくん。たぶん、もうすぐだよ」
先頭を歩いていたアッシュが振り返る。
くっそー、この中で一番体力ないのは分かってるけどさ。気遣われると落ち込むぅ。
背負ってやろうかというレイヴンを脇に押しのけ、リトスは何とか歩き切った。
「すいません、誰かいませんか」
山小屋の扉を叩く。
しばらく待つと、中から老婆が姿を現した。
「まったく、どこのどいつじゃ。こんな山の上まで」
「ご老人、トナカイを売って頂けないだろうか。雪原を越えて、北盾教会まで行きたいのだ」
アッシュが頼むと、老婆はそっけなく答えた。
「一頭百ゴールド」
「高すぎるだろうっ!」
明らかなボッタクリに、カリンが老婆に食って掛かった。
「ご老人、このお方を誰と心得る?! 蒼炎の騎士アッシュ様だ! 蒼炎の騎士様はグレイドリブンを救うため、遠く王都からいらっしゃった。本来ならトナカイを差し出すべきところだぞ!」
「タダにしろって? こっちも生活があるんだよ」
「こちらは世界を救うために旅をしているのだ! お前の生活も、我々の旅の成功に掛かっているのだぞ!」
カリンの熱弁に、老婆が不機嫌になっている。
一方のアッシュは財布を取り出して悩んでいる。真面目に全部払うつもりか? 極端過ぎるんだよ。どいつもこいつも……
リトスは、えいやっと二人を押しのけた。
「あのトナカイ、痩せてたよ。一頭二十ゴールドでどう?」
「話にならないね、坊主。一頭九十ゴールドだ」
「四頭セットで買うから負けてくんない? 一頭三十ゴールド」
「四頭も取られちゃ困るよ。一頭八十ゴールド」
こういうのは、値切るのが前提なんだよ。
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