嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

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After the Rain(虹の架け橋)

第117話 雨月公女の決意

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 雨月公女を追っていた奴らは、まとめて閏都に送り返してやった。帰る時間を短縮してあげたので、今ごろ連中は泣いて喜んでいることだろう。良いことしたな、俺。

「ユーティン様、ご無事ですか……って、セイエイ王子?!」

 ユエリが雨月公女に駆け寄り、彼女が庇っている男を見て仰天した。
 しかし、雨月公女は戸惑っているユエリも、視線を受けていたたまれないセイエイ王子も、綺麗に無視した。

「ユエリ……あなたは逃げなさいと伝えたはずですが。リトス様まで連れてきて、困った子ですね。でも、ありがとう」

 ユーティンは慈愛の表情をユエリに向けた後、リトスに改めて向き直り、両手をそろえて組み、頭を下げた。

「こんな遠方まで足を運んでいただいた上に助けていただき、感謝に言葉もありません。ご迷惑でなければいいのですが」
「気にしないでください、と言っても気にかかるなら、東湖地方で美味い魚料理でもご馳走してくれません? 東湖地方へ行くんですよね?」
「はい。東湖地方の有力者、ガザン伯を頼るつもりです……レイヴン様はご一緒ではないのですか」
「あいつは先に東湖地方に行ってますよ」

 レイヴンは「遺跡が動いた跡地を確認したい」と転移の魔術で【静かな海】へ向かった。今は二人一緒に行動するよりも、個別に動いた方が効率が良い。

「ガザン伯って、反竜王の過激派じゃなかったですっけ」

 リトスは、ファーランに来てから情報収集した内容を思い起こす。
 東湖地方自体は、もともと竜王と対抗する権力者が治める土地で、人間に対する悪感情も強い生粋の獣人たちが住んでいる。
 今の竜王シンエイが宣言した「獣人奴隷を解放する」「反対する国を武力制圧する」は、もともと反竜王の過激派の意見だった。昔の竜王シンエイは水蓮の意思に沿う穏健派として、彼らと敵対していた。
 ファーランの開戦は、東湖地方の過激派が賛成しそうな内容だ。
 ユエリや雨月公女が求める平和とは程遠そうだが……。

「はい。しかし、もともとセイエイ王子を支持する派閥でもあります。ですから彼を連れていけば、ガザン伯も無視できないかと」

 雨月公女の言葉に、黙ったままのセイエイ王子に、皆の視線が自然と集まった。
 そういえば、最初に訪れた東湖地方の都市セリンツォでは、セイエイ王子の命令だからと、人間を締め出そうとする動きを見掛けたな。

「それにガザン伯は、西の国ゴルグと繋がりがあるのです。距離は離れていますが……かの国は正義を尊び、人種差別や奴隷制を禁じています」
「!」

 西の国ゴルグは、星瞳の魔術師のひとり、金剛の二つ名を持つ魔術師が守護する国だ。
 沿岸部から海に向かって突き出した半島部分に位置する小国で、自国の安全と平和を優先するあまり、ほぼ鎖国状態らしい。
 リトスは、一度だけ精霊界で会ったことのある、金剛の魔術師の顔を思い起こした。あいつの堅苦しさ、苦手なんだよなぁ。

「ガザン伯の協力を得て、西の国ゴルグと連絡を取り、列王会議を招集します。わたくしは偽りの竜王シンエイを討ち、セイエイ殿下を正しく王位につけて欲しいと、列王に協力を要請いたします」

 そう言い放った雨月公女ユーティンは、頭に木の葉が付いていたが、その乱れた格好を笑えないくらい、真剣な覇気を放っていた。

「え?! 私が王位?! 廃嫡されたんだが?!」

 当のセイエイ王子が挙動不審だ。
 ユーティンは振り返ると、公女らしからぬ雑な態度で、彼の襟首をひっつかんだ。

「黙りなさい」
「?!」
「あなたが愚かでどうしようもなく根暗なことは、よく理解しています。ですが、獣人たちをまとめるには、竜の御子が必要なのです。何もしなくていいから、突っ立っているくらいできるでしょう! そのくらいしてください!」
「は、はいぃぃぃ」

 ユーティンの剣幕に、セイエイはこくこく首を縦に振った。
 切れた女子はおっかないな……。
 
「横から申し訳ありません。一つお教え下さい。ユーティン様は、他国を侵略せず、他国に侵略されない、平和なファーランを目指しておられますよね?」

 割り込むチャンスをうかがっていたらしいユエリが、ユーティンに向かい必死に問いかける。

「もちろんです、ユエリ。私はセイエイ殿下の提唱しておられた、人間を追い出す政策には賛同しておりません。しかし、今は竜王シンエイを止めることが先決です。このまま突き進めば、世界が敵に回ります。そうなれば、ファーランという国自体が無くなってしまう」

 ユーティンはしっかりした口調で、自分の目的を語った。
 それに、ユエリは感銘を受けたようだ。
 彼女に跪《ひざまづ》き、改めて忠誠を誓った。

「であれば、どうか、この私にもユーティン様を守り、同じ道を行く許可をお与えください」

 途中で雨月公女から離れて行動していたユエリには、合流のきっかけが必要だった。

「許可します。どうかユエリも、私に協力してください」

 ユーティンは快く彼を許し、かくしてめでたく話はまとまった。

「じゃあ、目的地は東湖地方の都市セリンツォで良いですね? 俺が転移魔術でサクッとお送りします」

 リトスは言いながら腕を振ると、とまっていたカササギが飛び立つ。鳥たちは隙あればリトスを止まり木にしようとするから、適宜追い払わないといけない。

「リトス様も協力して下さるのですか?」
「正義のためですので」

 そう答えると、ユエリが胡乱な眼で見てくる。
 なんだよ、俺が嘘付いてると思ってるのか? まあ嘘だけどさ。正義なんぞ糞くらえ。正義で人は救えない。ただ、一つだけ良いことはある。正義の御旗があれば、星瞳の魔術師の力を思う存分振るえる。
 俺の戦場で人は死なせない。次こそは、止めてみせる。
 
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