嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

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The Visit of a Shooting Star(流れ星の来訪)

第20話 正体

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(※レイヴン視点)

 今日は行事があるので学園に来ないでほしい、と言われた時点で嫌な予感がした。
 自分抜きで遺跡探索をしようとする馬鹿は、正直どうなっても構わないが……どうしても気になった。それは、正体不明の敵の星瞳の魔術師のことを考えていたからかもしれない。
 レイヴンは、学園の門番を適当に言い負かして、敷地に足を踏み入れる。騒がしい学生たちの群れを追い払いながら、地下の遺跡に向かった。
 足を踏み入れた瞬間、探査サーチの魔術で、おおよその状況を把握した。例の王太子殿下と学園教師が組んで暴走している。助ける義理はないのだが、放置して死なれると国の協力が得られなくなって遺跡の探索に支障がでる。さっさと助けにいかなければ。
 早足で遺跡の通路を進みながら、高位魔術の詠唱を開始する。

彼方かなたより応えよ。無と有の狭間はざまを飛翔するもの。虚空を燃やし、生死を流転する……」

 最後は駆け足で、大広間に飛び込んだ。

「リトス!」

 王子の悲鳴を聞くのと同時に、あらかじめ用意した呪文を解き放つ。

「吠えろ、竜焔撃ファーブニル!」

 紫光を帯びた炎波で、イガ栗に似たモンスターを一気に消滅させる。
 ついで杖を振るい、逃げようとしていた小さいネズミのような魔物を炎で包んだ。あのイガ栗ではなく、移動可能な小さいネズミの魔物が本体だったのだ。
 ほんの数秒でフロアボスのモンスターを壊滅させたレイヴンは、悲鳴の主に視線を向ける。
 そこには、この大広間で唯一重傷を負っている青年と、その青年を抱えて混乱している王子の姿があった。
 リトス、と呼ばれた青年は気を失っているらしい。背中の複数個所の貫通した傷跡からおびただしい血を流し、真っ青な顔色だ。
 彼を見て、レイヴンは痛ましい気分になった。

 お前をそこまで追い詰める気はなかった。

 かたくなに正体を現さないことに苛立ち、つい悪ノリをしてしまったかもしれない。怪我をさせるつもりはなかったのだと、ちょっとした罪悪感が湧いた。
 もちろん、諸悪の根源はレイヴンとの約束を反故ほごにした学園と王子だ。しかし、この事態に至るまでの道のりに自分が無関係とはいえないことが、地味に罪悪感を刺激する。

「私が彼をます」
「あっ」

 呆然としている王子の腕から、強引にリトスの体を奪った。
 
「レイヴン殿、助かりました。先ほどの防御魔術も、あなたが?」

 学園の教師が寄ってきて訊ねるのに「そうですね」と無表情に回答する。
 リトスが隠したがっているなら、それを明かすつもりはない。
 杖をまじえて戦ってはいたが、基本的に星瞳の魔術師は同胞だ。精霊に関する悩み事も、背負ってきた責務や苦しみ、果てしない魔術の深奥も、語り合えるのは同じ星瞳の魔術師だけ。利害関係で対立することはあっても、根底にある仲間意識は揺るがない。

「彼は一刻を争う傷なので、私は先に地上に戻ります。あなたがたは来た道を戻りなさい。魔物は掃除しておきました」

 言いながら、あらかじめ用意しておいた転移の魔術を発動させる。
 間抜けな顔をした王子や教師を遺跡に置き去りにして、さっさと自分の根城に引き上げた。
 王城の一角に間借りしている部屋に戻ってくる。
 自分の寝台に、そっと青年を降ろした。
 成人前らしい青年の背丈や体格は自分よりも一回り小さく、ぎりぎり腕に抱えられる重さだった。あまり筋肉の付いていない体は牡鹿のように俊敏そうでバランスが良い。苦しそうに息を吐く彼の顔は造作が整っており、気が強そうな眉をしかめた様子も絵になる。

「良かった。やはり自動回復が働いているな」

 青年の傷口から、かすかな光が漏れている。
 高位精霊の加護がある星瞳の魔術師は、致命傷でない限り傷が勝手に治るのだ。それでも今回は傷が深く毒の症状もあるため、念の為レイヴンは治癒と解毒の魔術を重ねがけした。
 レイヴンがリトスを自室に連れてきたのは、彼の秘密を守るためでもある。普通ではない回復を、事情を知らない者に診察されては困るだろう。また、血に汚れた衣服を焼却処分してやる必要がある。星瞳の魔術師の血は、精霊を寄せて異常事態を引き起こすマジックアイテムなのだ。
 傷を負うと面倒なことになる。だから、傷を負わないように立ち回るのが星瞳の魔術師の鉄則だというのに、レイヴンは彼に怪我をさせてしまった。

「謝らないからな」

 そう呟きながら、手を動かして衣服を脱がせ、濡らした布で血を拭いてやった。
 目覚めた彼は、どんな憎まれ口を叩いてくるだろう。
 どう彼の名前を呼ぼうかと考え、二つ名を思う。大広間に残る魔術の残滓から、彼の二つ名は検討が付いていた。かすかに残っていたのは、光と風を司る清涼な天の精霊の力。
 黒竜に楽しそうだと言われるまで、レイヴンは自分が上機嫌で他人の世話を焼いていることに気付かなかった。
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