嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

文字の大きさ
22 / 180
The Visit of a Shooting Star(流れ星の来訪)

第21話 歌い鳥と流れ星

しおりを挟む
 背中が痛くて体が重い。
 意識は暗闇に沈んでいる。重苦しさが反響する中、寝返りを打って、思ったほど痛くないと気付いた。幻痛だ。星瞳の魔術師は、重傷でも精霊の加護による自動回復が入るが、人間の体は本来そんな急激な回復に対応していないので、傷が治っても痛みだけが残る場合がある。今回もそれだと思われた。
 こんな傷を負うのは何年ぶりだろう。
 危険な精霊界で重傷を負うことはあるけれど、人間界で傷を負ったことはなかったはずだ。人間界で血を流すと、精霊が寄ってきて面倒なことになる。
 どうして怪我をした?
 遺跡探索を強行する王太子殿下を陰から護衛していたが、予想外に強力なモンスターが現れた。リトスは王子をかばって傷を負ったのだ。
 思考と共に意識がはっきりしてくる。
 リトスは目を開け、ゆっくり上体を起こす。枕もとに精霊鳥が寄ってきて、心配そうにチュンチュン鳴いている。
 ぼんやり見た外の景色は、王城の裏庭だった。

「……意識が戻ったなら、魔力を抑えろ。精霊が寄ってくる」

 聞きたくない声を聞いてしまった。
 嫌々ながら振り返ると、冷たい表情のレイヴンが椅子に座って頬杖を付きながらこちらを見ていた。魔術師のローブを脱いだラフな格好で、長い黒髪が素肌の見える胸元にこぼれ落ちている。長い足をこれ見よがしに組んでいる姿は、傲慢で威厳に満ちていた。
 偉そうに。なんで、てめえに指図されなきゃいけないんだよ。
 リトスは侯爵令息らしくない悪態を吐き散らしたくなったが、ぐっとこらえて深呼吸した。
 意識を集中して自分の体調を把握する。
 回復のため本能的な対処だろう、無意識に魔力を垂れ流してしまっていた。通常の魔術師以下のレベルまで、意識して魔力を落とす。
 ついでに、手を振って精霊鳥を追い払った。
 精霊鳥は抗議の鳴き声を上げたが、おとなしく精霊界に帰還してくれる。
 一連の対応をしながら、リトスは状況を把握した。
 どうやらレイヴンが助けてくれたらしい。
 ついでに着ぐるみ剥がされたのだろう、真っ裸だ。血の付いた服を処分してくれたのだろうが、余計なお世話過ぎる。ああ、腹が立つ。

「服を寄越せよ。そうすれば助けてくれてありがとう、と言ってやる」

 リトスは猫被りしない事にして、ぶっきらぼうに言った。
 どうせ正体がばれているのに、白々しく貴族らしい社交なんて、やってられるか。星瞳の魔術師が、貴族の礼儀などに興味ないことも十分知っている。

「はっ。いちいち交渉が必要か? 面倒だから、謝礼は不要だ。代わりに、服を着たらおとなしく俺の話を聞け。それで手打ちだ」
「……」

 悔しいことに、相手が一枚上手だった。
 嘲笑するように言うレイヴンに、リトスは腹が立つと再度思ったが、状況は圧倒的にこちらが不利なので、おとなしく渡された服に着替え、場所を移動した。
 天気が良いからか、レイヴンは部屋を出て裏庭のガゼボまで歩いた。屋内は気が詰まるのは分かるから、その選択には賛成だ。ちょうど、ここも薔薇が満開で、あたりは花の香りに満ちている。
 
「腹が空いているかもしれんが、食い物はそれしかない。まったく、この国のパンは固くて食えたものじゃないな」

 レイヴンが白亜の円卓の上を指して言った。
 そこには、黒焦げに見えるビスケットの山が、皿に盛られて置いてある。

「馬鹿か?! 食い方があるんだよ!」

 リトスは机を叩いて抗議すると同時に、簡易魔法陣を発動させ、自分の屋敷からティーセット一式を転送する。
 続けて、水の魔術と火の魔術でティーポット内に熱湯を作り、茶葉を召喚してティーカップに茶漉しをセット。熱湯をだばだば注ぎ、紅茶を入れる。茶漉しを引き上げると、砂糖壺から豪快に三つほど角砂糖をティーカップに放り込んだ。

「紅茶に浸して食べると美味い」
「本当か?」

 レイヴンが嫌そうにティーカップと黒いビスケットを引き寄せる。
 焼き過ぎて炭になったように見える、木材のような形の固いビスケットは、この国メレフでは普通に食されている菓子だ。紅茶に浸すことで柔らかくなり、ほろ苦い独特の風味が生まれる。
 ちなみに紅茶を変えることで味変できる。先ほどリトスが砂糖を沢山入れたのは、この黒ビスケットを美味しく食べる定番コースのひとつ、甘苦風味にするためだ。

「……なるほど」

 ビスケットを口にしたレイヴンは、納得したようだ。
 リトスは自分も椅子に座ると、自分用のティーカップを召喚して、ビスケットを食べ始めた。
 なんだかんだで腹が減っていたのだ。
 向かい合って座る二人の間に、しばし沈黙が降りた。
 レイヴンは、リトスの食欲が一段落した合間を見計らい、声を掛けてくる。
 
「なかなか面白い風味だ。菓子好きな文曲に教えてやったらどうだ、歌い鳥」

 リトスは茶を吹き出しそうになった。
 人間界で二つ名を呼ばれると、なんだか気恥ずかしい。こちらでそう呼ばれることが無かったから、なおさらだ。
 だが、気を取り直してティーカップを机に置き、レイヴンを見返した。

「そちらこそ、精霊界に長いこと帰ってないって? 師匠たちが心配してたぜ。流れ星」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

世界最弱と呼ばれた少年、気づけば伝説級勇者でした ~追放されたので気ままに旅してたら、全種族の姫たちに囲まれていました~

fuwamofu
ファンタジー
魔力量ゼロの落ちこぼれとして勇者パーティを追放された少年リアン。 絶望の果てに始めた自由な旅の中で、偶然助けた少女たちが次々と彼に惹かれていく。 だが誰も知らない。彼こそが古代勇者の血を継ぎ、世界を滅ぼす運命の「真なる勇者」だということを──。 無自覚最強の少年が、世界を変える奇跡を紡ぐ異世界ファンタジー!

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

処理中です...