嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

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The Visit of a Shooting Star(流れ星の来訪)

第22話 治癒の奇跡

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 レイヴン相手にタメ口を叩きながら、頭のどこかで第三者から見ればレイヴンの方が年上に見えるだろうと思った。
 普通は年長を敬うものだ。
 しかし、星瞳の魔術師同士では、当てはまらない。精霊界と人間界は時間の流れが違う。さらに精霊界の中でも時間の流れが違う場所もあるため、お互いに見た目通りの年齢か分からないのだ。星瞳の魔術師の間では、生きてきた年数を数えること自体無意味という考え方もある。
 リトスも精霊界の奥地で何年も修行していた事があるため、もはや自分の年齢が分からなくなっている。
 不敬とも取れる口調で混ぜ返したが、レイヴンは気を悪くした様子はない。彼も最初から、こちらを年下扱いしていなかった。

「ふん、生存連絡しているのだから十分だろう。七星は親気分が過ぎる……本題に入ろう」

 今後の話だと察し、リトスは気を引き締める。
 秘密を握られてしまったので、こちらは不利な立場だ。いったい何を要求されるのやら。

「お前の正体を黙っていてやる。その代わりに、遺跡探索に協力しろ」

 レイヴンは単刀直入に言ってきた。
 やっぱりそうなるか。
 リトスは素早く思考を巡らせ、自分にとって必要な交渉は何か考えた。

「良いぜ。だけど、こちらも条件がある。俺の学生生活の邪魔をするな。俺のしようとしていることの詮索せんさくも無しだ」

 先回りして釘を刺す。
 レイヴンは片眉を上げた。

「条件が多いな。それなら、こちらも追加だ。その要求を飲んでやるから、お前の魔力を寄越せ」
「? あんた」

 体にどこか不具合あるのか。
 リトスは、そう言いかけて言葉を飲み込んだ。
 それは、補助系の魔術師としての直感だった。
 同時に、今は指摘してはならないとも感じた。
 レイヴンは何か隠したがっている。こちらも触れられたくない事情があるのだから、向こうの事情も深く突っ込まない方が良いだろう。

「分かった。交渉成立だな」

 もう話すことはないと、リトスは早々に腰を上げる。自分の不在が周囲にどのように伝わっているか、気になった。
 背を向けたリトスに、レイヴンの方は座ったまま見送る体で言う。

「星瞳の魔術師である俺が、重傷のお前を治療すると言ってあるから安心しろ。ときに、あの王太子殿下は、女神の涙なる宝物を手に入れるために遺跡に降りたらしいな。入れ知恵をしたのは、お前か?」
「詮索無用と言ったはずだ」

 正規ルートで王城を出ようとすると、手間がかかる。
 手っ取り早く転移の魔術で帰ろうと、リトスは自分の長杖を召喚した。
 背後から、レイヴンの溜め息が聞こえる。

「大怪我をしたというのに、自分よりも他人の治療をしに行くつもりか……無理するな」

 リトスは無視して、転移の魔術を発動させた。
 隠れ家にしている自分の屋敷に戻ってくる。
 
「余計なお世話なんだよ、ばぁか」

 一人になった途端、ぽろりと漏れる愚痴。それは去り際に聞こえたレイヴンの指摘に対してのものだった。
 愚痴ったリトスは気分を切り替えると、自分の屋敷で改めて着替えをし、仮眠を取った。
 屋敷を出たのは、月光る深夜。
 転移の魔術を駆使して、学園の学生寮へ飛ぶ。
 気配を殺してベランダを移動し、顔に怪我をして失明したというテレサの部屋にやってきた。
 開いた窓から、少女の部屋をのぞきこむ。

「良かった。女神の涙を持ってるな」

 王太子殿下は、さっそく女神の涙を愛しい少女に渡したらしい。
 眠るテレサの枕もとに置かれた宝石を見て、リトスは安堵した。
 念の為、人払いの結界を張り、テレサに眠りの呪文を掛けたあと、魔術の準備に取り掛かる。

「―――夜のとばりを越えて羽ばたけ、雪光のおおとりよ」

 失明の回復をするためには、普通の治癒魔術では足りない。
 リトスは、契約している高位精霊に助力を呼び掛けた。
 呼び掛けに応じ強大な力を持つ聖鳥の、力の一部が人間界に顕現し、リトスの背後に白い光の翼となって広がる。
 鳥使いの異名を持つ長杖をかざし、高位精霊の力をまとわせたリトスの瞳は、氷枝に向こうに広がる蒼天のように輝いている。
 治癒の魔術が発動した。
 あまねく命に慈悲をもたらす天の精霊の力によって、テレサの顔の傷跡が時を巻き戻すように治っていく。
 失明したという眼も、完全に元通りになったのを確かめ、リトスは杖を降ろした。

「妹がごめんな、テレサちゃん。これで綺麗な顔に戻ったはずだよ……良い夢を」

 きっと朝、目が覚めた彼女は、奇跡が起きたことに気付くだろう。
 そして、危険を冒して遺跡に降りたカナン王子に感謝する。
 慈愛の微笑みを浮かべた星瞳の魔術師は、結界を解いて静かに去る。彼がそこにいたことを示す白い羽根の欠片は、朝が来る前に光の粒子になって蒸発し、後には何も残らなかった。
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