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Secrets Beneath the Ruins(古代遺跡の秘密)
第29話 血の匂い
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「せんぱ~い、リトス先輩~!」
図書室を出ると、後輩の女学生が駆け寄ってきた。
彼女は、表向き軟派なリトスが付き合っている女性の一人だ。
「どうしたの、仔猫ちゃん。俺と遊びたくなった?」
「ぜひ明日にでも! あ、じゃなくて先輩、私の友達のアンナを知りませんか。昨日から連絡が取れなくって」
「学校に来てないの?」
「そうなんですよ~。連絡無しなんで、気になって」
口調は茶化しているが、必死さが端々に滲み出ている。
リトスは、少し低い位置にある彼女の頭を、ぽんぽんと撫でてやった。
「そっか。俺の方で調べてみるよ」
「さすが先輩! 侯爵家令息様! 頼りになるぅ~」
「褒められてる気がしないな」
行方不明のアンナという少女の情報を聞き出し、リトスは魔術を使うため学園を出た。
探索の精霊鳥を飛ばすと、少女の所在はすぐに分かる。
しかし、判明した居場所は、想定外だった。
「リリアーナと一緒にいる……?」
嫌な予感がする。
リトスは、急いで妹のいる本宅を訪ねた。
そこで、予想外の光景を目にする。
「リリアーナ、お前」
「なんですか、お兄様。私、お風呂に入っているところですのよ」
妹の裸身をのぞきに来るなんて破廉恥な、と怒られたが、そんなのんきなことを言っている場合ではない。
リリアーナが浸かっている湯水は、深紅の色に染まっている。
湯舟の傍らに倒れているのは、行方不明の女子生徒アンナだ。
アンナは手首から鮮血を流し意識を失っている。
その鮮血が湯舟にしたたり、水を深紅に染め上げている。
むせかえるような血の匂いと、リリアーナが手配した薔薇の香が混ざって、周囲は独特の臭気が漂っていた。
「ああ、これは、アルベルト先生に教わった美容法なんですの。強い魔力を持つ人間の血を浴びると、お肌の瑞々しさを保てるそうですわ」
「そんな出鱈目を信じたのか」
「お兄様はご存知ないのですか。アルシャウカト家が誇る研究所、白葉館で何を作っているのか」
嫌悪を隠しきれないリトスに、リリアーナは微笑んで血に染まった片手を伸ばす。
「平民の中で強い魔力を持つ子供を育て、その魔力を貴族に移し替える研究です。血を使った美容法も出鱈目とは思いませんわ」
「アンナちゃんを殺すつもりか」
「殺すだなんて大げさな……彼女は母親が下賤の民だそうですよ。単なる処分ですわ」
リリアーナの手が触れた頬に、紅い水滴がつく。
「優しいお兄様。そんなに悲しまないで。お兄様が傷つくなら、この娘は治して生きたまま返します」
「……そうしてくれ」
妹の無邪気さに、道徳を語る気も失せて、リトスはただ可哀想なアンナの無事だけを願った。
リリアーナが合図すると、無表情な侍女がアンナを持ち上げて、どこかに連れ去っていく。妹が生きたまま返すと言っているので、最低限治療をして記憶を奪う程度で済ませるだろうが、どうにも不安になる光景だ。
「あ、そうだ、お兄様」
湯からあがって、侍女に体を拭いてもらっているリリアーナが振り返った。
「アルベルト先生が、お兄様をデートに誘いたいと仰ってましたわ」
「でぇと?!」
「食事をご馳走したいと殿方がおっしゃるのは、デートですよね。やはりお兄様は、おもてになりますのね」
リトスは顔をひきつらせた。
何がデートだ、くそ野郎! 俺の妹に変なことを教えやがって。
心の中で千回くらい口汚くののしりながら、決意する。
上等だ。アルベルト教師、その誘い、受けてやろうじゃないか。
死ぬほど後悔させてやる。
図書室を出ると、後輩の女学生が駆け寄ってきた。
彼女は、表向き軟派なリトスが付き合っている女性の一人だ。
「どうしたの、仔猫ちゃん。俺と遊びたくなった?」
「ぜひ明日にでも! あ、じゃなくて先輩、私の友達のアンナを知りませんか。昨日から連絡が取れなくって」
「学校に来てないの?」
「そうなんですよ~。連絡無しなんで、気になって」
口調は茶化しているが、必死さが端々に滲み出ている。
リトスは、少し低い位置にある彼女の頭を、ぽんぽんと撫でてやった。
「そっか。俺の方で調べてみるよ」
「さすが先輩! 侯爵家令息様! 頼りになるぅ~」
「褒められてる気がしないな」
行方不明のアンナという少女の情報を聞き出し、リトスは魔術を使うため学園を出た。
探索の精霊鳥を飛ばすと、少女の所在はすぐに分かる。
しかし、判明した居場所は、想定外だった。
「リリアーナと一緒にいる……?」
嫌な予感がする。
リトスは、急いで妹のいる本宅を訪ねた。
そこで、予想外の光景を目にする。
「リリアーナ、お前」
「なんですか、お兄様。私、お風呂に入っているところですのよ」
妹の裸身をのぞきに来るなんて破廉恥な、と怒られたが、そんなのんきなことを言っている場合ではない。
リリアーナが浸かっている湯水は、深紅の色に染まっている。
湯舟の傍らに倒れているのは、行方不明の女子生徒アンナだ。
アンナは手首から鮮血を流し意識を失っている。
その鮮血が湯舟にしたたり、水を深紅に染め上げている。
むせかえるような血の匂いと、リリアーナが手配した薔薇の香が混ざって、周囲は独特の臭気が漂っていた。
「ああ、これは、アルベルト先生に教わった美容法なんですの。強い魔力を持つ人間の血を浴びると、お肌の瑞々しさを保てるそうですわ」
「そんな出鱈目を信じたのか」
「お兄様はご存知ないのですか。アルシャウカト家が誇る研究所、白葉館で何を作っているのか」
嫌悪を隠しきれないリトスに、リリアーナは微笑んで血に染まった片手を伸ばす。
「平民の中で強い魔力を持つ子供を育て、その魔力を貴族に移し替える研究です。血を使った美容法も出鱈目とは思いませんわ」
「アンナちゃんを殺すつもりか」
「殺すだなんて大げさな……彼女は母親が下賤の民だそうですよ。単なる処分ですわ」
リリアーナの手が触れた頬に、紅い水滴がつく。
「優しいお兄様。そんなに悲しまないで。お兄様が傷つくなら、この娘は治して生きたまま返します」
「……そうしてくれ」
妹の無邪気さに、道徳を語る気も失せて、リトスはただ可哀想なアンナの無事だけを願った。
リリアーナが合図すると、無表情な侍女がアンナを持ち上げて、どこかに連れ去っていく。妹が生きたまま返すと言っているので、最低限治療をして記憶を奪う程度で済ませるだろうが、どうにも不安になる光景だ。
「あ、そうだ、お兄様」
湯からあがって、侍女に体を拭いてもらっているリリアーナが振り返った。
「アルベルト先生が、お兄様をデートに誘いたいと仰ってましたわ」
「でぇと?!」
「食事をご馳走したいと殿方がおっしゃるのは、デートですよね。やはりお兄様は、おもてになりますのね」
リトスは顔をひきつらせた。
何がデートだ、くそ野郎! 俺の妹に変なことを教えやがって。
心の中で千回くらい口汚くののしりながら、決意する。
上等だ。アルベルト教師、その誘い、受けてやろうじゃないか。
死ぬほど後悔させてやる。
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