嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

文字の大きさ
30 / 180
Secrets Beneath the Ruins(古代遺跡の秘密)

第29話 血の匂い

しおりを挟む
「せんぱ~い、リトス先輩~!」

 図書室を出ると、後輩の女学生が駆け寄ってきた。
 彼女は、表向き軟派なリトスが付き合っている女性の一人だ。

「どうしたの、仔猫ちゃん。俺と遊びたくなった?」
「ぜひ明日にでも! あ、じゃなくて先輩、私の友達のアンナを知りませんか。昨日から連絡が取れなくって」
「学校に来てないの?」
「そうなんですよ~。連絡無しなんで、気になって」
 
 口調は茶化しているが、必死さが端々に滲み出ている。
 リトスは、少し低い位置にある彼女の頭を、ぽんぽんと撫でてやった。

「そっか。俺の方で調べてみるよ」
「さすが先輩! 侯爵家令息様! 頼りになるぅ~」
「褒められてる気がしないな」

 行方不明のアンナという少女の情報を聞き出し、リトスは魔術を使うため学園を出た。
 探索の精霊鳥を飛ばすと、少女の所在はすぐに分かる。
 しかし、判明した居場所は、想定外だった。

「リリアーナと一緒にいる……?」

 嫌な予感がする。
 リトスは、急いで妹のいる本宅を訪ねた。
 そこで、予想外の光景を目にする。

「リリアーナ、お前」
「なんですか、お兄様。私、お風呂に入っているところですのよ」

 妹の裸身をのぞきに来るなんて破廉恥な、と怒られたが、そんなのんきなことを言っている場合ではない。
 リリアーナが浸かっている湯水は、深紅の色に染まっている。
 湯舟の傍らに倒れているのは、行方不明の女子生徒アンナだ。
 アンナは手首から鮮血を流し意識を失っている。
 その鮮血が湯舟にしたたり、水を深紅に染め上げている。
 むせかえるような血の匂いと、リリアーナが手配した薔薇の香が混ざって、周囲は独特の臭気が漂っていた。

「ああ、これは、アルベルト先生に教わった美容法なんですの。強い魔力を持つ人間の血を浴びると、お肌の瑞々しさを保てるそうですわ」
「そんな出鱈目でたらめを信じたのか」
「お兄様はご存知ないのですか。アルシャウカト家が誇る研究所、白葉館で何を作っているのか」

 嫌悪を隠しきれないリトスに、リリアーナは微笑んで血に染まった片手を伸ばす。

「平民の中で強い魔力を持つ子供を育て、その魔力を貴族に移し替える研究です。血を使った美容法も出鱈目とは思いませんわ」
「アンナちゃんを殺すつもりか」
「殺すだなんて大げさな……彼女は母親が下賤の民だそうですよ。単なる処分ですわ」

 リリアーナの手が触れた頬に、紅い水滴がつく。

「優しいお兄様。そんなに悲しまないで。お兄様が傷つくなら、この娘は治して生きたまま返します」
「……そうしてくれ」

 妹の無邪気さに、道徳を語る気も失せて、リトスはただ可哀想なアンナの無事だけを願った。
 リリアーナが合図すると、無表情な侍女がアンナを持ち上げて、どこかに連れ去っていく。妹が生きたまま返すと言っているので、最低限治療をして記憶を奪う程度で済ませるだろうが、どうにも不安になる光景だ。

「あ、そうだ、お兄様」

 湯からあがって、侍女に体を拭いてもらっているリリアーナが振り返った。

「アルベルト先生が、お兄様をデートに誘いたいと仰ってましたわ」
「でぇと?!」
「食事をご馳走したいと殿方がおっしゃるのは、デートですよね。やはりお兄様は、おもてになりますのね」

 リトスは顔をひきつらせた。
 何がデートだ、くそ野郎! 俺の妹に変なことを教えやがって。
 心の中で千回くらい口汚くののしりながら、決意する。
 上等だ。アルベルト教師、その誘い、受けてやろうじゃないか。
 死ぬほど後悔させてやる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

世界最弱と呼ばれた少年、気づけば伝説級勇者でした ~追放されたので気ままに旅してたら、全種族の姫たちに囲まれていました~

fuwamofu
ファンタジー
魔力量ゼロの落ちこぼれとして勇者パーティを追放された少年リアン。 絶望の果てに始めた自由な旅の中で、偶然助けた少女たちが次々と彼に惹かれていく。 だが誰も知らない。彼こそが古代勇者の血を継ぎ、世界を滅ぼす運命の「真なる勇者」だということを──。 無自覚最強の少年が、世界を変える奇跡を紡ぐ異世界ファンタジー!

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

処理中です...