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Verdant Crown(樹冠都市)
第28話 矜持
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大通りを目指して早足で移動しながら、レイナールは謝意を述べてくる。
「今更になりますが、申し訳ありません。私の先祖が為した悪行―――本物の銀花の魔術師を死に追いやったのは事実です。にも関わらず、助けていただいたこと、深く感謝いたします」
「そこまで感謝される筋合いはないよ。俺も縁があって、この国を訪れたからね。銀花の魔術師の心残りを解消することは、俺の役目でもある」
そう答えると、神妙な面持ちのレイナールは、不思議そうに聞き返してきた。
「縁、と申しますと」
「あなたは、文曲の魔術師が今どうしてるか知ってるか?」
星瞳の魔術師について、その出没の詳細を知る者はほとんどいない。
しかし、魔術王国として知られるハイランドなら、多少の伝承は残っているだろうか。念のため問いかけたリトスに、レイナールは困惑気味だったが、自信なさげに口を開いた。
「人間の世界では、死んだと伝えられておりますが、その実、精霊界に渡って永遠に生きているという説があります。後進の星瞳の魔術師を育てているとか」
「うん。信じられないかもしれないけど、それは真実さ。俺も、銀花の魔術師も、文曲の魔術師から直接教えを受けている。今回、俺がハイランドの大樹イルミンスールに訪れたのは、文曲様に頼まれて、銀花の仕事を引き継いだからだよ」
文曲の依頼の前に、レイヴンの遺跡調査の依頼があったからだが、それを言うとややこしくなるので、はしょって伝える。
ハイランドの魔術師協会を作ったのは、文曲の魔術師だという。
その文曲の依頼だと言えば、リトスがここにいる意味は、十分すぎるほど説明が付く。
「それなら……それなら、失望されたのではないですか」
レイナールの表情が曇り、彼は憂鬱そうに、後悔するように続けた。
「むしろ、恨まれ、憎まれても無理はない。私の先祖は、銀花様を裏切り、殺したのですよ」
魔神に「罪人だ」と言われたことが、堪えているのだろう。
懺悔するレイナールを、リトスは笑い飛ばした。
「恨む? 憎む? 馬鹿いうなよ。あんな魔物の言うことを真に受けてるのか。俺は銀花じゃないけど、同じ星瞳の魔術師として断言できる。たとえ殺されたとしても、銀花はあなたたちを恨んだりしていない」
「な、なぜ?!」
「俺たち星瞳の魔術師は、自分の願いのために命を賭ける。死んだ理由を、他人のせいにしたりしない」
高位精霊と契約して星瞳に開眼するのは、命がけの試練だ。
星瞳の魔術師は、誰もが、強い願いや人に言えない複雑な過去を持っている。何を犠牲にしても、どれだけ時間が掛かっても、自分の力で願いを叶え、運命と戦ってこれを掌握せしめる―――そんな想いを抱く人間しか、星瞳の魔術師になれない。
だから、力及ばず敗れたとしても、言い訳したりしない。
ここまで歩んできた道は、自分が選んだ道だ。
成功も失敗もすべて、自分が負うべき責で、誰にも分かち合うつもりはない。それは一種の矜持と言っても良いだろう。
「だから謝る必要はないんだ。むしろ生き残ったことを誇ってもいい。あなたの一族は、ハイランドを今日まで維持してきたのだから」
「……」
リトスがそう言うと、レイナールは衝撃を受けたようだった。
「……今ようやく、あの銀花が偽物だったと痛感しました。あなたは本物の星瞳―――」
「レイナール様!!」
何やら感動しているレイナールの言葉を、悲鳴がさえぎった。
「昇降台につながる門が、封鎖されています!」
「何?!」
部下らしき魔術師に呼ばれ、レイナールは駆け足になる。
通りに出ると、樹冠の街はざわめく人々でごった返していた。通達を聞いた魔術師たちが、樹下に降りようと、昇降台の前に並んでいる。
「門が開きません!!」
来た時にくぐった黄金の扉は、固く閉ざされており、その前で魔術師たちが右往左往している。
おそらく、魔神が封じたのだろう。樹冠を囲む結界は、魔神の支配下にある。
「モンスターが現れたぞ!」
追い打ちをかけるように、大樹の梢から、例の小型キノコモンスターが雨のように降ってくる。
魔術師たちは攻撃魔術を使って撃退しようとするが、アミュレットの補助が働かないせいか、空振りする呪文だけが響いている。ハイランドのアミュレットは杖と違い手袋や指輪の形をしており、それ自体が高度な魔道具だ。魔術を補助する魔法陣生成も、魔石を核とした魔術で行っているため、菌糸ネットワークが機能停止すると使えなくなるのだ。
「魔術が使えない! そんな馬鹿な!」
「逃げろっ」
「昇降台が使えないんだぞ! いったいどこへ逃げろってんだ!」
怒号と悲鳴がこだまする。
「光炎翼!」
リトスは杖をふるい、モンスターの群れを光炎で吹き飛ばした。
「落ち着け!」
高位貴族の子息時代につちかった人の上に立つ威厳を意識して、声を張り上げる。
派手な炎波を伴っての登場に、衆目の視線が集まる。
「門はこれから開く。落ち着いて、冷静に樹下に避難しろ」
「―――星瞳の魔術師様?」
信じられないものを見るように、彼らはリトスを見た。
その視線を誘導するように、リトスは杖の先を扉に向ける。
ちょうど、その時。外側からレイヴンのフォローが入ったようで、扉と重なるように時空が断裂し、外側への穴が開いた。
「今更になりますが、申し訳ありません。私の先祖が為した悪行―――本物の銀花の魔術師を死に追いやったのは事実です。にも関わらず、助けていただいたこと、深く感謝いたします」
「そこまで感謝される筋合いはないよ。俺も縁があって、この国を訪れたからね。銀花の魔術師の心残りを解消することは、俺の役目でもある」
そう答えると、神妙な面持ちのレイナールは、不思議そうに聞き返してきた。
「縁、と申しますと」
「あなたは、文曲の魔術師が今どうしてるか知ってるか?」
星瞳の魔術師について、その出没の詳細を知る者はほとんどいない。
しかし、魔術王国として知られるハイランドなら、多少の伝承は残っているだろうか。念のため問いかけたリトスに、レイナールは困惑気味だったが、自信なさげに口を開いた。
「人間の世界では、死んだと伝えられておりますが、その実、精霊界に渡って永遠に生きているという説があります。後進の星瞳の魔術師を育てているとか」
「うん。信じられないかもしれないけど、それは真実さ。俺も、銀花の魔術師も、文曲の魔術師から直接教えを受けている。今回、俺がハイランドの大樹イルミンスールに訪れたのは、文曲様に頼まれて、銀花の仕事を引き継いだからだよ」
文曲の依頼の前に、レイヴンの遺跡調査の依頼があったからだが、それを言うとややこしくなるので、はしょって伝える。
ハイランドの魔術師協会を作ったのは、文曲の魔術師だという。
その文曲の依頼だと言えば、リトスがここにいる意味は、十分すぎるほど説明が付く。
「それなら……それなら、失望されたのではないですか」
レイナールの表情が曇り、彼は憂鬱そうに、後悔するように続けた。
「むしろ、恨まれ、憎まれても無理はない。私の先祖は、銀花様を裏切り、殺したのですよ」
魔神に「罪人だ」と言われたことが、堪えているのだろう。
懺悔するレイナールを、リトスは笑い飛ばした。
「恨む? 憎む? 馬鹿いうなよ。あんな魔物の言うことを真に受けてるのか。俺は銀花じゃないけど、同じ星瞳の魔術師として断言できる。たとえ殺されたとしても、銀花はあなたたちを恨んだりしていない」
「な、なぜ?!」
「俺たち星瞳の魔術師は、自分の願いのために命を賭ける。死んだ理由を、他人のせいにしたりしない」
高位精霊と契約して星瞳に開眼するのは、命がけの試練だ。
星瞳の魔術師は、誰もが、強い願いや人に言えない複雑な過去を持っている。何を犠牲にしても、どれだけ時間が掛かっても、自分の力で願いを叶え、運命と戦ってこれを掌握せしめる―――そんな想いを抱く人間しか、星瞳の魔術師になれない。
だから、力及ばず敗れたとしても、言い訳したりしない。
ここまで歩んできた道は、自分が選んだ道だ。
成功も失敗もすべて、自分が負うべき責で、誰にも分かち合うつもりはない。それは一種の矜持と言っても良いだろう。
「だから謝る必要はないんだ。むしろ生き残ったことを誇ってもいい。あなたの一族は、ハイランドを今日まで維持してきたのだから」
「……」
リトスがそう言うと、レイナールは衝撃を受けたようだった。
「……今ようやく、あの銀花が偽物だったと痛感しました。あなたは本物の星瞳―――」
「レイナール様!!」
何やら感動しているレイナールの言葉を、悲鳴がさえぎった。
「昇降台につながる門が、封鎖されています!」
「何?!」
部下らしき魔術師に呼ばれ、レイナールは駆け足になる。
通りに出ると、樹冠の街はざわめく人々でごった返していた。通達を聞いた魔術師たちが、樹下に降りようと、昇降台の前に並んでいる。
「門が開きません!!」
来た時にくぐった黄金の扉は、固く閉ざされており、その前で魔術師たちが右往左往している。
おそらく、魔神が封じたのだろう。樹冠を囲む結界は、魔神の支配下にある。
「モンスターが現れたぞ!」
追い打ちをかけるように、大樹の梢から、例の小型キノコモンスターが雨のように降ってくる。
魔術師たちは攻撃魔術を使って撃退しようとするが、アミュレットの補助が働かないせいか、空振りする呪文だけが響いている。ハイランドのアミュレットは杖と違い手袋や指輪の形をしており、それ自体が高度な魔道具だ。魔術を補助する魔法陣生成も、魔石を核とした魔術で行っているため、菌糸ネットワークが機能停止すると使えなくなるのだ。
「魔術が使えない! そんな馬鹿な!」
「逃げろっ」
「昇降台が使えないんだぞ! いったいどこへ逃げろってんだ!」
怒号と悲鳴がこだまする。
「光炎翼!」
リトスは杖をふるい、モンスターの群れを光炎で吹き飛ばした。
「落ち着け!」
高位貴族の子息時代につちかった人の上に立つ威厳を意識して、声を張り上げる。
派手な炎波を伴っての登場に、衆目の視線が集まる。
「門はこれから開く。落ち着いて、冷静に樹下に避難しろ」
「―――星瞳の魔術師様?」
信じられないものを見るように、彼らはリトスを見た。
その視線を誘導するように、リトスは杖の先を扉に向ける。
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