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Verdant Crown(樹冠都市)
第29話 流星の魔術師
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脱出の道ができたことに気付いた魔術師たちは、我さきに外へ飛び出していく。
「アンズちゃんも、ほら」
樹冠に住む人の数は少ないので、すでに大半が昇降台に駆けこんでいる。
乗り遅れないようにと、リトスはアンズの背を押した。
「でも! 兄さんが!」
アンズの兄は寝たきりの病人だ。
自分だけ逃げて兄を見殺しにしたくないと、アンズは踏ん張っている。
その気持ちは痛いほど分かる。
リトスは彼女を避難させるため、ある提案をした。
「俺が残って、お兄さんを助けるよ」
「え?!」
「だから、アンズちゃんは、バシディオさんとプリンちゃんを守って脱出して。頼むよ」
バシディオには、大陸魔術師連合に情報を持って帰ってもらわなければならない。そして、ハイランドの王女であるプリンちゃんには、この国の未来がかかっている。
迷っているアンズの腕を、フェリオがつかんで引っ張った。
「リトスさんの言う通りだ! 行くぞ、アンズ!」
フェリオにずるずる引きずられ、アンズは扉の外で待っているプリンちゃんとバシディオと合流する。
「―――リトス」
いつの間にか扉の外側に、黒い影のように、レイヴンが佇んでいる。
彼は不機嫌そうに唸った。
「残るだと?」
「ちょっと中でやることがあってね。適当にタイミング見計らって脱出するから、準備できたら、遠慮なく大樹に攻撃魔術を打ち込んでくれ。俺は気にしなくていいから」
つとめて、なんでもないように言うと、レイヴンは眉をひそめる。
「馬鹿が。人助けもいいかげんにしろ」
「ははっ、怒られちゃったよ」
「誤魔化すな、リトス」
茶化して笑うと、レイヴンは本気で怒るような表情を見せた。
親身になって心配してくれている。
こちらの力量を正確に把握していてなお、無理をしている部分があると察知し、声をかけてくれているのだ。そんな相手に出会ったのは、人生で初めてで……なんだか柄にもなく嬉しい気がする。
「大丈夫だよ。ちょっと逃げ遅れてる人を助けるだけだから。用が終わったら、すぐ脱出するよ」
へらへら笑って保証したが、やっぱり彼は騙されてくれなかった。
「嘘をつくなよ、聖鳥」
レイヴンの夕紫の瞳の中で、すべてを見透かすように星座が輝いている。
彼も星瞳の魔術師だ。自分の行動を自分で決め、他人に責を委《ゆだ》ねない。
「たとえ呼ばれずとも、俺は俺の判断で介入する」
「期待してるよ、流星」
リトスはひらひら手を振って別れを告げた。
時空の穴がじわじわ閉じていく。
どうやら、樹冠に対する、魔神の支配力が増しているようだ。穴が狭まって、苦々しい表情のレイヴンが見えなくなる。まばたきの間に、扉は元通り固く閉まった状態に戻ってしまった。
「よーし。んじゃ、アンズのお兄さんを救出して―――ついでに魔神の本体を倒しに行くか」
腕を空に上げて、うーんと伸びをする。
こちらを恐れてか襲ってこないモンスターを無視し、リトスは悠々と人気のない市街地を歩き始めた。
(※アンズ視点)
昇降台、魔術によって上下する円い石板は、樹冠から避難する全員を載せられるほど広くない。先に外に出た人々が乗り込んだため、アンズたちは最後尾で待つことになった。
待っている間、残ると言ったリトスが気になって振り返ると、彼は穴越しになにやら黒衣の魔術師と会話している。相手は、以前に甘味をご馳走してくれたレイヴンだ。
「期待してるよ、流星」
その言葉を最後に、扉と重なるように開いていた空間の穴が閉じる。
険しい表情のレイヴンをよく見て、アンズは彼の瞳の中に星座を見つけてしまった。
「まさか―――レイヴン殿?!」
最後尾で避難する人々と話していたレイナールが戻ってきて、レイヴンに声を掛ける。
レイヴンがゆっくり振り返った。
「久しいな、レイナール殿。先般は、訪問を断られたが……少々、気になることがあってな。あなたには声を掛けず、ハイランドに入国させていただいた」
夜明け前のような、金星が輝く藍紫の瞳を目撃して、アンズの後ろにいたフェリオも驚愕している。
レイナールは姿勢をただした。
「いいえ……いいえ! とんでもありません、流星の魔術師殿! こちらこそ、歓迎できず大変申し訳ありません。そうか……あなたが、聖鳥の魔術師様を連れてきてくださったのですね」
どうして気付かなかったのだろう。
レイヴン―――流星の魔術師。
名前に聞き覚えがあるのも当然だ。彼は、各国を旅する星瞳の魔術師として有名な人物である。訪れる国に勝利と希望をもたらし、人々の願いを叶える流星の魔術師。人前に出ない星瞳の魔術師が多い中で、彼は旅をしているため民間人でも出会う可能性が高く、彼に救われたという人々が広めた逸話は、アンズたちの耳にも入ってくる。
「流星の魔術師殿―――勝手なお願いだと承知しております。ですがどうか、ハイランドの苦境にお力添えください」
「……」
レイナールがうやうやしく頭を下げる。
対するレイヴンは、苦い表情をしていた。
「ハイランドを救うために、星瞳の魔術師の力を、どうか―――」
「さて。お前たちの考えている救いとなるかは、知らんがな」
レイヴンは、重い口を開いて言った。
その言葉を受けたレイナールは、不思議そうにする。
「流星の魔術師殿、それはどういう―――」
「詳しい話は、樹下の都に戻ってからにしよう。聖鳥の魔術師に言われなかったか。アミュレットの廃棄が先だ」
レイヴンの口からも「聖鳥の魔術師」という言葉が出て、アンズはじわじわリトスが星瞳の魔術師だと実感しはじめた。
嘘、わたし、星瞳の魔術師様に抱き着いて泣いちゃったの?! 兄の失踪をはじめ不幸な出来事の多い人生だったが、まさか星瞳の魔術師に助けられるなんて、ものすごい幸運だ。諦めずに頑張ってきて、良かったかもしれない。
胸を押さえるアンズは、隣のフェリオが複雑そうにこちらを見ていることに気付かなかった。
「アンズちゃんも、ほら」
樹冠に住む人の数は少ないので、すでに大半が昇降台に駆けこんでいる。
乗り遅れないようにと、リトスはアンズの背を押した。
「でも! 兄さんが!」
アンズの兄は寝たきりの病人だ。
自分だけ逃げて兄を見殺しにしたくないと、アンズは踏ん張っている。
その気持ちは痛いほど分かる。
リトスは彼女を避難させるため、ある提案をした。
「俺が残って、お兄さんを助けるよ」
「え?!」
「だから、アンズちゃんは、バシディオさんとプリンちゃんを守って脱出して。頼むよ」
バシディオには、大陸魔術師連合に情報を持って帰ってもらわなければならない。そして、ハイランドの王女であるプリンちゃんには、この国の未来がかかっている。
迷っているアンズの腕を、フェリオがつかんで引っ張った。
「リトスさんの言う通りだ! 行くぞ、アンズ!」
フェリオにずるずる引きずられ、アンズは扉の外で待っているプリンちゃんとバシディオと合流する。
「―――リトス」
いつの間にか扉の外側に、黒い影のように、レイヴンが佇んでいる。
彼は不機嫌そうに唸った。
「残るだと?」
「ちょっと中でやることがあってね。適当にタイミング見計らって脱出するから、準備できたら、遠慮なく大樹に攻撃魔術を打ち込んでくれ。俺は気にしなくていいから」
つとめて、なんでもないように言うと、レイヴンは眉をひそめる。
「馬鹿が。人助けもいいかげんにしろ」
「ははっ、怒られちゃったよ」
「誤魔化すな、リトス」
茶化して笑うと、レイヴンは本気で怒るような表情を見せた。
親身になって心配してくれている。
こちらの力量を正確に把握していてなお、無理をしている部分があると察知し、声をかけてくれているのだ。そんな相手に出会ったのは、人生で初めてで……なんだか柄にもなく嬉しい気がする。
「大丈夫だよ。ちょっと逃げ遅れてる人を助けるだけだから。用が終わったら、すぐ脱出するよ」
へらへら笑って保証したが、やっぱり彼は騙されてくれなかった。
「嘘をつくなよ、聖鳥」
レイヴンの夕紫の瞳の中で、すべてを見透かすように星座が輝いている。
彼も星瞳の魔術師だ。自分の行動を自分で決め、他人に責を委《ゆだ》ねない。
「たとえ呼ばれずとも、俺は俺の判断で介入する」
「期待してるよ、流星」
リトスはひらひら手を振って別れを告げた。
時空の穴がじわじわ閉じていく。
どうやら、樹冠に対する、魔神の支配力が増しているようだ。穴が狭まって、苦々しい表情のレイヴンが見えなくなる。まばたきの間に、扉は元通り固く閉まった状態に戻ってしまった。
「よーし。んじゃ、アンズのお兄さんを救出して―――ついでに魔神の本体を倒しに行くか」
腕を空に上げて、うーんと伸びをする。
こちらを恐れてか襲ってこないモンスターを無視し、リトスは悠々と人気のない市街地を歩き始めた。
(※アンズ視点)
昇降台、魔術によって上下する円い石板は、樹冠から避難する全員を載せられるほど広くない。先に外に出た人々が乗り込んだため、アンズたちは最後尾で待つことになった。
待っている間、残ると言ったリトスが気になって振り返ると、彼は穴越しになにやら黒衣の魔術師と会話している。相手は、以前に甘味をご馳走してくれたレイヴンだ。
「期待してるよ、流星」
その言葉を最後に、扉と重なるように開いていた空間の穴が閉じる。
険しい表情のレイヴンをよく見て、アンズは彼の瞳の中に星座を見つけてしまった。
「まさか―――レイヴン殿?!」
最後尾で避難する人々と話していたレイナールが戻ってきて、レイヴンに声を掛ける。
レイヴンがゆっくり振り返った。
「久しいな、レイナール殿。先般は、訪問を断られたが……少々、気になることがあってな。あなたには声を掛けず、ハイランドに入国させていただいた」
夜明け前のような、金星が輝く藍紫の瞳を目撃して、アンズの後ろにいたフェリオも驚愕している。
レイナールは姿勢をただした。
「いいえ……いいえ! とんでもありません、流星の魔術師殿! こちらこそ、歓迎できず大変申し訳ありません。そうか……あなたが、聖鳥の魔術師様を連れてきてくださったのですね」
どうして気付かなかったのだろう。
レイヴン―――流星の魔術師。
名前に聞き覚えがあるのも当然だ。彼は、各国を旅する星瞳の魔術師として有名な人物である。訪れる国に勝利と希望をもたらし、人々の願いを叶える流星の魔術師。人前に出ない星瞳の魔術師が多い中で、彼は旅をしているため民間人でも出会う可能性が高く、彼に救われたという人々が広めた逸話は、アンズたちの耳にも入ってくる。
「流星の魔術師殿―――勝手なお願いだと承知しております。ですがどうか、ハイランドの苦境にお力添えください」
「……」
レイナールがうやうやしく頭を下げる。
対するレイヴンは、苦い表情をしていた。
「ハイランドを救うために、星瞳の魔術師の力を、どうか―――」
「さて。お前たちの考えている救いとなるかは、知らんがな」
レイヴンは、重い口を開いて言った。
その言葉を受けたレイナールは、不思議そうにする。
「流星の魔術師殿、それはどういう―――」
「詳しい話は、樹下の都に戻ってからにしよう。聖鳥の魔術師に言われなかったか。アミュレットの廃棄が先だ」
レイヴンの口からも「聖鳥の魔術師」という言葉が出て、アンズはじわじわリトスが星瞳の魔術師だと実感しはじめた。
嘘、わたし、星瞳の魔術師様に抱き着いて泣いちゃったの?! 兄の失踪をはじめ不幸な出来事の多い人生だったが、まさか星瞳の魔術師に助けられるなんて、ものすごい幸運だ。諦めずに頑張ってきて、良かったかもしれない。
胸を押さえるアンズは、隣のフェリオが複雑そうにこちらを見ていることに気付かなかった。
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