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学院編
23 神代竜の巫女(2017/12/6 新規追加)
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焼け落ちた廃墟を見たアサヒは、自分の出生について疑問に思った。これまで孤児時代は生きるのに必死だったし、アケボノに来た当初は新しい環境に慣れるので精一杯だったから、自分の過去を考えることは無かった。
しかし今は多少の余裕がある。
廃墟を見たことをきっかけに、忌まわしい記憶と向き合ってでも、自分のルーツについて知りたくなったのだ。
アサヒが覚えている家族は、姉としたっていた少女ミツキだけ。
記憶が正しければ彼女はアウリガの兵士に連れていかれた。
アウリガに連れていかれた人の消息はどうしたら分かるだろうか。
次の日の早朝、アサヒは火山の麓の街フォーシスへ帰るハナビとトウマを見送る。日中は普通に授業を受け、放課後すぐにカズオミと共同生活している学院の寮に帰った。
一年先輩のカズオミは先に学ぶ科目が違うので、授業を終えて先に帰ってきている。カズオミは例によって工具を部屋中に散らかし、金具を組み合わせて、床に座り込んでああでもないこうでもないと試行錯誤していた。
部屋に入った途端、ポトンと音がしてアサヒの肩からヤモリが落ちる。ヤモリは床に散らばる金属の破片をつつくと、例によって丸のみにした。
「こら!」
「……あ、アサヒおかえり」
工作に夢中になっていたカズオミがやっと気付いて顔を上げる。
アサヒは床をかさこそしているヤモリをつまみ上げた。
「悪い。またこいつ、なんか食ったみたいで」
「また? お腹壊さないかなあ。必要な部品はそろってるから気にしないで」
カズオミは床に散らばった部品をかき集め始める。
「……カズオミ、ちょっといいか」
アサヒは肩でじたばたするヤモリの尻尾を人差し指で押さえながら、昨日から気になっていることをカズオミに聞いてみることにした。
「6年前の、あの戦争の時にアウリガの連れていかれたピクシスの人って、どうやって調べればいいか知ってるか」
「アウリガに連れていかれた……?」
カズオミが眼鏡のふちを触りながら答える。
「そんな人がいるの?」
「え?」
「考えてみてよ、アサヒ。敵は限られた竜と飛行船で攻めてきたんだよ。余分な人を連れて帰る余裕はない。ましてやあの時、アケボノが占領されたのは三日間程度だった。アントリアの竜騎士が応援に来てくれて、アウリガは撤退するだけで精一杯だったはず」
ではミツキはどこにいるのだろう。
最後に聞いたやり取りだけで、ミツキがアウリガに連れていかれたと判断したのは早計だっただろうか。
「アウリガに連れていかれたのは、ピクシスの巫女姫だけだよ。いくら野蛮なアウリガでも、王族を手荒に扱ったりしないと信じてるけど……」
アサヒは他に手掛かりがないか、記憶を必死にさらった。
「神代竜……」
敵の兵士が言っていた単語を口にする。
「神代竜ってなんなんだ?」
「あれ、アサヒは知らないの。この世界の始まりから生きているという、特別な8体の竜のことだよ」
島が空に浮かぶずっと前の、神代の時代から生きる、特別な力を持つ8体の竜を神代竜と呼ぶ。
基本、人と関わらずに生きる3体の神代竜。
天竜王テュポーン。
海竜王リヴァイアサン。
霧竜王ラードーン。
そして人と共存することを選んだ、5体の竜はそれぞれ空に浮かぶ島の守護竜となった。
それが、光竜王、風竜王、土竜王、水竜王、炎竜王。
「神代竜と話ができるのは、選ばれし契約者である5人の竜騎士だけ。神代竜と竜騎士をセットで竜王と呼んでいるんだ。あと例外で、特別な才能ある巫女も神代竜と会話できるから、彼女達が島の女王の座につく。女王は神代竜の巫女がなるんだよ」
ミツキは神代竜の巫女と呼ばれていた。
アウリガに連れ去られたという巫女姫はひょっとして、ミツキのことなのだろうか。
彼女がもし、巫女姫なのだとしたら……アサヒはいったいどこの誰なのだろう。巫女姫に仕える使用人の子供か何かで、たまたま巫女姫に気に入られていたのだろうか。
「アサヒ?」
「何でもない」
考えても答えは出ない。
実はアサヒの近辺にいるという身内が名乗り出てくれない限り、謎は解決しなさそうだ。
アサヒは溜め息をついた。
自分探しは暗礁に乗り上げてしまった。
アサヒが悩んでいた頃、その悩みのきっかけを作ったハヤテは、空き部屋で資料の整理をしているヒズミ・コノエのもとを訪ねていた。
「よっ」
「……」
いつも不機嫌そうな顔をしている幼馴染みは無言だ。
しかし、まったくハヤテを無視するつもりもないらしい。
かさばりやすい羊皮紙の束を脇に避けると、彼はハヤテの向かいの机に寄りかかって休憩する姿勢になった。
「代理で花を供えておいたぜ」
「感謝する」
献花の主はヒズミ・コノエだった。
廃墟の前でアサヒと会った件について、ハヤテは話してみようかと思ったが止めた。幼馴染みは自分からアサヒと話すつもりは無いのだ。
代わりに別の話題を提供する。
「今朝、アウリガ方面の空で巡回していた兵士が消息を絶ったらしい。アントリアの竜騎士も撤退しちまったし、これは本気でヤバイかもな」
復興の目処が立ったと判断して、同盟国の協力部隊はピクシスを去ってしまった。しかし依然としてピクシスの竜王と女王が不在の状況は続いている。国力は戦前より弱くなってしまったかもしれない。
「なあ、竜王を目覚めさせないでいいのか」
「……まだ時期ではない」
ヒズミの声音はわずかに揺らいでいる。
迷っているのだ。
彼は唯一血のつながった弟の平穏と、ピクシスの島の平和との間で苦しんでいる。
苦悩する親友を余所に、ハヤテは口の端を吊り上げる。
幼馴染みには悪いがハヤテが欲しているのはそのどちらでもなく、アウリガへの復讐だった。そのために今は動く時なのかもしれない。
しかし今は多少の余裕がある。
廃墟を見たことをきっかけに、忌まわしい記憶と向き合ってでも、自分のルーツについて知りたくなったのだ。
アサヒが覚えている家族は、姉としたっていた少女ミツキだけ。
記憶が正しければ彼女はアウリガの兵士に連れていかれた。
アウリガに連れていかれた人の消息はどうしたら分かるだろうか。
次の日の早朝、アサヒは火山の麓の街フォーシスへ帰るハナビとトウマを見送る。日中は普通に授業を受け、放課後すぐにカズオミと共同生活している学院の寮に帰った。
一年先輩のカズオミは先に学ぶ科目が違うので、授業を終えて先に帰ってきている。カズオミは例によって工具を部屋中に散らかし、金具を組み合わせて、床に座り込んでああでもないこうでもないと試行錯誤していた。
部屋に入った途端、ポトンと音がしてアサヒの肩からヤモリが落ちる。ヤモリは床に散らばる金属の破片をつつくと、例によって丸のみにした。
「こら!」
「……あ、アサヒおかえり」
工作に夢中になっていたカズオミがやっと気付いて顔を上げる。
アサヒは床をかさこそしているヤモリをつまみ上げた。
「悪い。またこいつ、なんか食ったみたいで」
「また? お腹壊さないかなあ。必要な部品はそろってるから気にしないで」
カズオミは床に散らばった部品をかき集め始める。
「……カズオミ、ちょっといいか」
アサヒは肩でじたばたするヤモリの尻尾を人差し指で押さえながら、昨日から気になっていることをカズオミに聞いてみることにした。
「6年前の、あの戦争の時にアウリガの連れていかれたピクシスの人って、どうやって調べればいいか知ってるか」
「アウリガに連れていかれた……?」
カズオミが眼鏡のふちを触りながら答える。
「そんな人がいるの?」
「え?」
「考えてみてよ、アサヒ。敵は限られた竜と飛行船で攻めてきたんだよ。余分な人を連れて帰る余裕はない。ましてやあの時、アケボノが占領されたのは三日間程度だった。アントリアの竜騎士が応援に来てくれて、アウリガは撤退するだけで精一杯だったはず」
ではミツキはどこにいるのだろう。
最後に聞いたやり取りだけで、ミツキがアウリガに連れていかれたと判断したのは早計だっただろうか。
「アウリガに連れていかれたのは、ピクシスの巫女姫だけだよ。いくら野蛮なアウリガでも、王族を手荒に扱ったりしないと信じてるけど……」
アサヒは他に手掛かりがないか、記憶を必死にさらった。
「神代竜……」
敵の兵士が言っていた単語を口にする。
「神代竜ってなんなんだ?」
「あれ、アサヒは知らないの。この世界の始まりから生きているという、特別な8体の竜のことだよ」
島が空に浮かぶずっと前の、神代の時代から生きる、特別な力を持つ8体の竜を神代竜と呼ぶ。
基本、人と関わらずに生きる3体の神代竜。
天竜王テュポーン。
海竜王リヴァイアサン。
霧竜王ラードーン。
そして人と共存することを選んだ、5体の竜はそれぞれ空に浮かぶ島の守護竜となった。
それが、光竜王、風竜王、土竜王、水竜王、炎竜王。
「神代竜と話ができるのは、選ばれし契約者である5人の竜騎士だけ。神代竜と竜騎士をセットで竜王と呼んでいるんだ。あと例外で、特別な才能ある巫女も神代竜と会話できるから、彼女達が島の女王の座につく。女王は神代竜の巫女がなるんだよ」
ミツキは神代竜の巫女と呼ばれていた。
アウリガに連れ去られたという巫女姫はひょっとして、ミツキのことなのだろうか。
彼女がもし、巫女姫なのだとしたら……アサヒはいったいどこの誰なのだろう。巫女姫に仕える使用人の子供か何かで、たまたま巫女姫に気に入られていたのだろうか。
「アサヒ?」
「何でもない」
考えても答えは出ない。
実はアサヒの近辺にいるという身内が名乗り出てくれない限り、謎は解決しなさそうだ。
アサヒは溜め息をついた。
自分探しは暗礁に乗り上げてしまった。
アサヒが悩んでいた頃、その悩みのきっかけを作ったハヤテは、空き部屋で資料の整理をしているヒズミ・コノエのもとを訪ねていた。
「よっ」
「……」
いつも不機嫌そうな顔をしている幼馴染みは無言だ。
しかし、まったくハヤテを無視するつもりもないらしい。
かさばりやすい羊皮紙の束を脇に避けると、彼はハヤテの向かいの机に寄りかかって休憩する姿勢になった。
「代理で花を供えておいたぜ」
「感謝する」
献花の主はヒズミ・コノエだった。
廃墟の前でアサヒと会った件について、ハヤテは話してみようかと思ったが止めた。幼馴染みは自分からアサヒと話すつもりは無いのだ。
代わりに別の話題を提供する。
「今朝、アウリガ方面の空で巡回していた兵士が消息を絶ったらしい。アントリアの竜騎士も撤退しちまったし、これは本気でヤバイかもな」
復興の目処が立ったと判断して、同盟国の協力部隊はピクシスを去ってしまった。しかし依然としてピクシスの竜王と女王が不在の状況は続いている。国力は戦前より弱くなってしまったかもしれない。
「なあ、竜王を目覚めさせないでいいのか」
「……まだ時期ではない」
ヒズミの声音はわずかに揺らいでいる。
迷っているのだ。
彼は唯一血のつながった弟の平穏と、ピクシスの島の平和との間で苦しんでいる。
苦悩する親友を余所に、ハヤテは口の端を吊り上げる。
幼馴染みには悪いがハヤテが欲しているのはそのどちらでもなく、アウリガへの復讐だった。そのために今は動く時なのかもしれない。
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