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留学準備編
11 本当の敵は
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竜王は同じ魂のまま記憶をもって転生を繰り返す。
空に浮かぶ島の人々が忘れてしまった地上のことも、竜王は覚えている。
5人の竜王のひとり、光竜王は地上が忘れられなかったらしい。
彼は密かに地上を復活させる方法について研究を重ねていた。
そして地上を復活させる大魔術の行使に必要な、大量の大気を確保するため、他の竜王の力を奪うことを決断したのだ。
『すべての島の平和と安寧のため。そう聞かされて、汝らは油断した。5つの島が統一され、交流が活発になり、豊かな時代が始まるかに見えた。汝ら5人はそれぞれ別の島で暮らしてきたゆえ、思考の違いに気づかなかったのだ』
光竜王が5つの島を統一した平和で豊かな時代。
人々の平和のためならば国を他の竜王に任せても構わないと考えた、炎竜王をはじめとする竜王達は忍び寄る影に気づかなかった。
光竜王の策略によって、ひそかに土竜王と水竜王は魔術の柱に封じられた。大封柱という、この魔術は契約者と竜のつながりを分断する。大封柱で封じることによって、光竜王は封じた竜王の力を利用することが可能となる。
残った炎竜王はアウリガの風竜王と協力して、光竜王を討つために動いた。
『あとは人の子の伝説が語る通り……』
炎竜王は光竜王と激闘の末に相打ちとなった。
そして炎竜王が戦っている間に、風竜王が上手く立ち回って他の竜王を開放した。
当時の風竜王は青銀の髪を長く伸ばした伊達男であった。
「どうしたんだ、それ?」
「娘にもらったんだよ。器用な子でね、私の無事の帰りを祈って自作してくれた」
風竜王の胸元に踊る、翠玉と白い鳥の飾りが付いたペンダント。
「なあ、炎竜王。何度繰り返しても、人として生きて死ぬというのは、私は悪くないと思う。私の家族はいつでも私を迎えてくれる。アウリガは私の帰る処だ」
その時のアサヒは、彼の言葉に同意したのだったか。
ただこれ以上の追憶は必要ない。
幻の時間が終わってアサヒの意識は現実に戻ってくる。
急に黙り込んだアサヒに戸惑っているユエリの前へと。
……ユエリは風竜王の縁者ってことなのか。
『我に聞かれても分からぬ。我に分かるのは汝の記憶のみ』
アサヒにだけ聞こえる、ヤモリの声。
確証はない。それだけにユエリ本人には話しにくかった。今、風竜王と関係があると話してもユエリを混乱させるだけだろう。
「ありがとう、参考になった」
「もういいの?」
「ああ。その白い竜のやつをよろしく頼む」
「キュー!」
白い竜の子供は不満そうに鳴いたが、アサヒが鼻づらを爪弾くと静かになった。
女性の部屋に夜、長いことお邪魔するのは誤解のもとなので、アサヒは早々に退散することにする。ユエリの部屋から出て廊下を歩きながら、アサヒはヤモリの身体を撫でた。
過去の竜王の記憶から分かったことがある。
「……アウリガが敵なのは、不自然だ」
風竜王は味方だった。
彼が記憶をもって再び転生しているのなら、アサヒの敵に回らないはず。
どうにもきな臭いとアサヒは腕組みして考え込む。階段を降りて一階の裏口から外に出た。空には欠け始めた月がある。
本当の敵は光竜王だ。
奴が再び他の竜王の封柱を狙っているなら、おそらく風竜王は真っ先に封じられてしまっている。そして、次に狙われるのは炎竜王である自分。
やはり、手遅れにならないうちに、他の竜王に会って状況を把握しなければならない。
「ん?」
庭に白い人影を見つけたアサヒは、考え事を中断して、人影に近寄った。月影に白く透き通っている人影は少年の姿をしている。
本当に幽霊も、いたんだな。今更、幽霊ごときで驚かないぞ。
アサヒは幽霊の少年に声を掛けた。
「何をやってるんだ?」
少年は落ち葉の山を前に、小さい石を二つそれぞれ両手に持って石を打ち鳴らしていた。
火打ち石で落ち葉に火を付けようとしているのだと、アサヒは気付いた。だが、幽霊の非力さゆえか、一向に火が付く様子はない。
「……俺が付けてやるよ」
ちょっとズルをして無詠唱の金色の炎を呼び出す。魔術の炎は燃える範囲を操作できるので、火事になる心配はない。
黄金の炎が静かに落ち葉に燃え移る。
炎を見た少年は無邪気な笑顔を浮かべる。
暖を取ろうとしているのか、炎に手をかざした少年の姿が透き通って消えていく。見る間に少年は消えて、後は落ち葉と金色の炎が残るのみ。
「ええと、昇天したってことで良いのかな」
アサヒは腕をひと振りして炎を消した。
最近ようやく炎の使い方や竜王の知識の引き出し方に慣れてきたところだ。
「明日、ヒズミに風竜王の件を話した方がいいのかな。すごく面倒だ……」
厳しい顔つきの赤毛の男を思い浮かべてアサヒは嘆息する。
もともとアサヒは臆病で平和主義な性格だった。竜王の記憶の影響でいくらか前向きになったものの、根本の部分は変わっていない。
「面倒なことをしたくないから、竜王は表舞台に立たないルールにしたんだけどなあ」
一番はじめの竜王はもともと魔術師だったため、引きこもって自分の好きなことをして生活したいがために政治は全て女王に押し付けたのだ。
竜王が引きこもるために、王が表舞台に立たない政治になったなんて、とてもじゃないけど国民には話せない。
空に浮かぶ島の人々が忘れてしまった地上のことも、竜王は覚えている。
5人の竜王のひとり、光竜王は地上が忘れられなかったらしい。
彼は密かに地上を復活させる方法について研究を重ねていた。
そして地上を復活させる大魔術の行使に必要な、大量の大気を確保するため、他の竜王の力を奪うことを決断したのだ。
『すべての島の平和と安寧のため。そう聞かされて、汝らは油断した。5つの島が統一され、交流が活発になり、豊かな時代が始まるかに見えた。汝ら5人はそれぞれ別の島で暮らしてきたゆえ、思考の違いに気づかなかったのだ』
光竜王が5つの島を統一した平和で豊かな時代。
人々の平和のためならば国を他の竜王に任せても構わないと考えた、炎竜王をはじめとする竜王達は忍び寄る影に気づかなかった。
光竜王の策略によって、ひそかに土竜王と水竜王は魔術の柱に封じられた。大封柱という、この魔術は契約者と竜のつながりを分断する。大封柱で封じることによって、光竜王は封じた竜王の力を利用することが可能となる。
残った炎竜王はアウリガの風竜王と協力して、光竜王を討つために動いた。
『あとは人の子の伝説が語る通り……』
炎竜王は光竜王と激闘の末に相打ちとなった。
そして炎竜王が戦っている間に、風竜王が上手く立ち回って他の竜王を開放した。
当時の風竜王は青銀の髪を長く伸ばした伊達男であった。
「どうしたんだ、それ?」
「娘にもらったんだよ。器用な子でね、私の無事の帰りを祈って自作してくれた」
風竜王の胸元に踊る、翠玉と白い鳥の飾りが付いたペンダント。
「なあ、炎竜王。何度繰り返しても、人として生きて死ぬというのは、私は悪くないと思う。私の家族はいつでも私を迎えてくれる。アウリガは私の帰る処だ」
その時のアサヒは、彼の言葉に同意したのだったか。
ただこれ以上の追憶は必要ない。
幻の時間が終わってアサヒの意識は現実に戻ってくる。
急に黙り込んだアサヒに戸惑っているユエリの前へと。
……ユエリは風竜王の縁者ってことなのか。
『我に聞かれても分からぬ。我に分かるのは汝の記憶のみ』
アサヒにだけ聞こえる、ヤモリの声。
確証はない。それだけにユエリ本人には話しにくかった。今、風竜王と関係があると話してもユエリを混乱させるだけだろう。
「ありがとう、参考になった」
「もういいの?」
「ああ。その白い竜のやつをよろしく頼む」
「キュー!」
白い竜の子供は不満そうに鳴いたが、アサヒが鼻づらを爪弾くと静かになった。
女性の部屋に夜、長いことお邪魔するのは誤解のもとなので、アサヒは早々に退散することにする。ユエリの部屋から出て廊下を歩きながら、アサヒはヤモリの身体を撫でた。
過去の竜王の記憶から分かったことがある。
「……アウリガが敵なのは、不自然だ」
風竜王は味方だった。
彼が記憶をもって再び転生しているのなら、アサヒの敵に回らないはず。
どうにもきな臭いとアサヒは腕組みして考え込む。階段を降りて一階の裏口から外に出た。空には欠け始めた月がある。
本当の敵は光竜王だ。
奴が再び他の竜王の封柱を狙っているなら、おそらく風竜王は真っ先に封じられてしまっている。そして、次に狙われるのは炎竜王である自分。
やはり、手遅れにならないうちに、他の竜王に会って状況を把握しなければならない。
「ん?」
庭に白い人影を見つけたアサヒは、考え事を中断して、人影に近寄った。月影に白く透き通っている人影は少年の姿をしている。
本当に幽霊も、いたんだな。今更、幽霊ごときで驚かないぞ。
アサヒは幽霊の少年に声を掛けた。
「何をやってるんだ?」
少年は落ち葉の山を前に、小さい石を二つそれぞれ両手に持って石を打ち鳴らしていた。
火打ち石で落ち葉に火を付けようとしているのだと、アサヒは気付いた。だが、幽霊の非力さゆえか、一向に火が付く様子はない。
「……俺が付けてやるよ」
ちょっとズルをして無詠唱の金色の炎を呼び出す。魔術の炎は燃える範囲を操作できるので、火事になる心配はない。
黄金の炎が静かに落ち葉に燃え移る。
炎を見た少年は無邪気な笑顔を浮かべる。
暖を取ろうとしているのか、炎に手をかざした少年の姿が透き通って消えていく。見る間に少年は消えて、後は落ち葉と金色の炎が残るのみ。
「ええと、昇天したってことで良いのかな」
アサヒは腕をひと振りして炎を消した。
最近ようやく炎の使い方や竜王の知識の引き出し方に慣れてきたところだ。
「明日、ヒズミに風竜王の件を話した方がいいのかな。すごく面倒だ……」
厳しい顔つきの赤毛の男を思い浮かべてアサヒは嘆息する。
もともとアサヒは臆病で平和主義な性格だった。竜王の記憶の影響でいくらか前向きになったものの、根本の部分は変わっていない。
「面倒なことをしたくないから、竜王は表舞台に立たないルールにしたんだけどなあ」
一番はじめの竜王はもともと魔術師だったため、引きこもって自分の好きなことをして生活したいがために政治は全て女王に押し付けたのだ。
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