ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
56 / 120
留学準備編

11 本当の敵は

しおりを挟む
 竜王は同じ魂のまま記憶をもって転生を繰り返す。
 空に浮かぶ島の人々が忘れてしまった地上のことも、竜王は覚えている。

 5人の竜王のひとり、光竜王は地上が忘れられなかったらしい。
 彼は密かに地上を復活させる方法について研究を重ねていた。
 そして地上を復活させる大魔術の行使に必要な、大量の大気エアを確保するため、他の竜王の力を奪うことを決断したのだ。


『すべての島の平和と安寧のため。そう聞かされて、汝らは油断した。5つの島が統一され、交流が活発になり、豊かな時代が始まるかに見えた。汝ら5人はそれぞれ別の島で暮らしてきたゆえ、思考の違いに気づかなかったのだ』


 光竜王が5つの島を統一した平和で豊かな時代。
 人々の平和のためならば国を他の竜王に任せても構わないと考えた、炎竜王をはじめとする竜王達は忍び寄る影に気づかなかった。
 光竜王の策略によって、ひそかに土竜王と水竜王は魔術の柱に封じられた。大封柱グランドシールという、この魔術は契約者と竜のつながりを分断する。大封柱グランドシールで封じることによって、光竜王は封じた竜王の力を利用することが可能となる。
 残った炎竜王はアウリガの風竜王と協力して、光竜王を討つために動いた。


『あとは人の子の伝説が語る通り……』


 炎竜王は光竜王と激闘の末に相打ちとなった。
 そして炎竜王が戦っている間に、風竜王が上手く立ち回って他の竜王を開放した。
 当時の風竜王は青銀の髪を長く伸ばした伊達男であった。

「どうしたんだ、それ?」
「娘にもらったんだよ。器用な子でね、私の無事の帰りを祈って自作してくれた」

 風竜王の胸元に踊る、翠玉と白い鳥の飾りが付いたペンダント。

「なあ、炎竜王。何度繰り返しても、人として生きて死ぬというのは、私は悪くないと思う。私の家族はいつでも私を迎えてくれる。アウリガは私の帰る処だ」

 その時のアサヒは、彼の言葉に同意したのだったか。
 ただこれ以上の追憶は必要ない。
 幻の時間が終わってアサヒの意識は現実に戻ってくる。
 急に黙り込んだアサヒに戸惑っているユエリの前へと。

 ……ユエリは風竜王の縁者ってことなのか。


『我に聞かれても分からぬ。我に分かるのは汝の記憶のみ』


 アサヒにだけ聞こえる、ヤモリの声。
 確証はない。それだけにユエリ本人には話しにくかった。今、風竜王と関係があると話してもユエリを混乱させるだけだろう。

「ありがとう、参考になった」
「もういいの?」
「ああ。その白い竜のやつをよろしく頼む」
「キュー!」

 白い竜の子供は不満そうに鳴いたが、アサヒが鼻づらを爪弾くと静かになった。
 女性の部屋に夜、長いことお邪魔するのは誤解のもとなので、アサヒは早々に退散することにする。ユエリの部屋から出て廊下を歩きながら、アサヒはヤモリの身体を撫でた。
 過去の竜王の記憶から分かったことがある。

「……アウリガが敵なのは、不自然だ」

 風竜王は味方だった。
 彼が記憶をもって再び転生しているのなら、アサヒの敵に回らないはず。
 どうにもきな臭いとアサヒは腕組みして考え込む。階段を降りて一階の裏口から外に出た。空には欠け始めた月がある。

 本当の敵は光竜王だ。

 奴が再び他の竜王の封柱を狙っているなら、おそらく風竜王は真っ先に封じられてしまっている。そして、次に狙われるのは炎竜王である自分。
 やはり、手遅れにならないうちに、他の竜王に会って状況を把握しなければならない。

「ん?」

 庭に白い人影を見つけたアサヒは、考え事を中断して、人影に近寄った。月影に白く透き通っている人影は少年の姿をしている。
 本当に幽霊も、いたんだな。今更、幽霊ごときで驚かないぞ。
 アサヒは幽霊の少年に声を掛けた。

「何をやってるんだ?」

 少年は落ち葉の山を前に、小さい石を二つそれぞれ両手に持って石を打ち鳴らしていた。
 火打ち石で落ち葉に火を付けようとしているのだと、アサヒは気付いた。だが、幽霊の非力さゆえか、一向に火が付く様子はない。

「……俺が付けてやるよ」

 ちょっとズルをして無詠唱の金色の炎を呼び出す。魔術の炎は燃える範囲を操作できるので、火事になる心配はない。
 黄金の炎が静かに落ち葉に燃え移る。
 炎を見た少年は無邪気な笑顔を浮かべる。
 暖を取ろうとしているのか、炎に手をかざした少年の姿が透き通って消えていく。見る間に少年は消えて、後は落ち葉と金色の炎が残るのみ。

「ええと、昇天したってことで良いのかな」

 アサヒは腕をひと振りして炎を消した。
 最近ようやく炎の使い方や竜王の知識の引き出し方に慣れてきたところだ。

「明日、ヒズミに風竜王の件を話した方がいいのかな。すごく面倒だ……」

 厳しい顔つきの赤毛の男を思い浮かべてアサヒは嘆息する。
 もともとアサヒは臆病で平和主義な性格だった。竜王の記憶の影響でいくらか前向きになったものの、根本の部分は変わっていない。

「面倒なことをしたくないから、竜王は表舞台に立たないルールにしたんだけどなあ」

 一番はじめの竜王はもともと魔術師だったため、引きこもって自分の好きなことをして生活したいがために政治は全て女王に押し付けたのだ。
 竜王が引きこもるために、王が表舞台に立たない政治になったなんて、とてもじゃないけど国民には話せない。


しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...