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番外編
湯治に行こう! 前編
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5島の力を集結して謎の石柱を倒した後、しばらく寝込んでいたアサヒだが、ようやく身体が回復したので外を出歩けるようになった。
回復してすぐ、アサヒは姉と慕う巫女姫ミツキを訪ねた。
ミツキは王城の一角で暮らしている。
敵の魔術によって一時的に自我を封じられていたミツキだが、今は意識を取り戻して通常の生活を送っていた。
「ミツキ、調子はどう?」
護衛の竜騎士はアサヒの正体について知っているため、王城は顔パスで出入りできる。
質素だが上品な内装の部屋で、たおやかに椅子に座るミツキは、アサヒの記憶にある涼やかな笑みを浮かべた。
「私は大丈夫よ。アサヒこそ熱を出して寝込んでいたそうだけど、大丈夫なの?」
「へーき。もう治った。ところでヒズミと何かあった? あいつ、様子が変だったけど」
向かいあって座る二人の間に、侍女がお茶を運んでくる。
ミツキはティーカップはそのままに、頬をふくらませて唇を尖らせた。
「久しぶりに温泉に行きたいって言ったら、お前一人で行けって……酷くない?」
「……ぶはっ」
アサヒは思わず茶を吹き出しそうになった。
小さな頃は二人で一緒にお風呂に行ったのだろうか……いや、ミツキは巫女姫だしヒズミは良家の坊っちゃんだから、そこまでオープンでは無かったはず。
しかし、いずれにしても成長した男女の二人が一緒にお風呂、という訳にはいかないのは道理である。ヒズミはどんな顔をして断ったのだろう。
「アサヒ、ねえ、一緒に温泉に行きましょうよ。あなたは断ったりしないわよね?」
ミツキにそう言われて、笑いをこらえていたアサヒは顔を上げた。
不敵に微笑んでみせる。
「もちろん。俺がミツキの頼みを断る訳がないじゃないか」
そう宣言しながら。
アサヒは内心、どうしようかと思っていた。
ここピクシスは、火山が中央にある島だ。
火山は地球で言うところの休火山に近く、噴火するかどうかは炎竜王の気分次第だが今のところその予定はない。
温められた地熱により王都アケボノ近郊には、天然の温泉があちこちに涌き出ていた。ピクシス名物、露天風呂である。
ところでアサヒが調べたところによると、現在のピクシスでは男女混浴の習慣は無いらしい。つまりミツキと一緒に入浴する必要はない訳で、ひとまず安心するアサヒだった。
嫌がる兄を引っ張り出すために、アサヒは兄の親友ハヤテの手を借りた。ハヤテは面白いことが大好きなのでアサヒの策略に乗ってくれる。
かくしてミツキと侍女、孤児時代に知り合った妹分のハナビも引っ張りだして、アサヒは温泉ピクニック企画を立てたのである。
「……私は忙しい」
「知ってるよ。だから日頃の疲れを癒したらどうか、って提案だろ」
馴れ馴れしく肩を抱く青い髪の友人を、ヒズミは嫌そうに振り払った。そうは言っても結局ハヤテの言うことは聞いてくれるようなので、謎の友人関係だと思う。
街の外れでお忍びの格好をしたミツキ達と合流した瞬間、ヒズミは一瞬固まった後に首を回してアサヒを睨んだ。
「アサヒ……お前の仕業か……!」
「知らないなー。俺は何も知らないなー」
しらばっくれるアサヒを忌々しそうに見るヒズミの背を、ハヤテは「わお、綺麗なお姉さんがいっぱいで俺は嬉しいね!」と言って強引に押した。
一行は女性陣と男性陣に分かれて、少し距離を置いて隣り合う二つの露天風呂にそれぞれ入ることにした。お風呂が終わった後は合流して、近くの料亭で食事をすることになっている。
「さすがに今回は覗きに行けないな……」
「ハヤテ、覗きに行ったことあるの?」
「ふっ。俺の風竜はこういう時のための相棒なんだよ」
絶対ちがうと思う。
ハヤテは風竜の竜騎士である。風竜の常で、彼の相棒は透明化して近くにいるようだったが、アサヒにもどこにいるかは分からない。
アサヒはお湯に浸かりながら年上の男達の裸を眺めた。
ヒズミもハヤテも、バランスの良い身体に筋肉がしっかり付いていて、上腕部に巻き付くような竜紋が大きく目立っている。
実は竜王のアサヒだが、筋肉が付きにくいのか鍛えてもムキムキにならないし、竜紋は小さいのでちょっぴりジェラシーを感じる。竜王として大気を使う魔術に長けているアサヒだが、竜騎士としては並以下の魔力しか持っていないのだ。
「……もう絶対、ヒズミが竜王で良いと思うんだ」
「何を言っている」
「ミツキとだってお似合いだと思う」
頭の上に乗ったヤモリが欠伸をした。
岩の上に頬杖を付いているアサヒを振り返り、ヒズミが訝しげに言う。
「私に押し付けるな。ミツキはお前の婚約者だろう」
…………は?
どこかでカポーンとししおどしが鳴った音がした。
回復してすぐ、アサヒは姉と慕う巫女姫ミツキを訪ねた。
ミツキは王城の一角で暮らしている。
敵の魔術によって一時的に自我を封じられていたミツキだが、今は意識を取り戻して通常の生活を送っていた。
「ミツキ、調子はどう?」
護衛の竜騎士はアサヒの正体について知っているため、王城は顔パスで出入りできる。
質素だが上品な内装の部屋で、たおやかに椅子に座るミツキは、アサヒの記憶にある涼やかな笑みを浮かべた。
「私は大丈夫よ。アサヒこそ熱を出して寝込んでいたそうだけど、大丈夫なの?」
「へーき。もう治った。ところでヒズミと何かあった? あいつ、様子が変だったけど」
向かいあって座る二人の間に、侍女がお茶を運んでくる。
ミツキはティーカップはそのままに、頬をふくらませて唇を尖らせた。
「久しぶりに温泉に行きたいって言ったら、お前一人で行けって……酷くない?」
「……ぶはっ」
アサヒは思わず茶を吹き出しそうになった。
小さな頃は二人で一緒にお風呂に行ったのだろうか……いや、ミツキは巫女姫だしヒズミは良家の坊っちゃんだから、そこまでオープンでは無かったはず。
しかし、いずれにしても成長した男女の二人が一緒にお風呂、という訳にはいかないのは道理である。ヒズミはどんな顔をして断ったのだろう。
「アサヒ、ねえ、一緒に温泉に行きましょうよ。あなたは断ったりしないわよね?」
ミツキにそう言われて、笑いをこらえていたアサヒは顔を上げた。
不敵に微笑んでみせる。
「もちろん。俺がミツキの頼みを断る訳がないじゃないか」
そう宣言しながら。
アサヒは内心、どうしようかと思っていた。
ここピクシスは、火山が中央にある島だ。
火山は地球で言うところの休火山に近く、噴火するかどうかは炎竜王の気分次第だが今のところその予定はない。
温められた地熱により王都アケボノ近郊には、天然の温泉があちこちに涌き出ていた。ピクシス名物、露天風呂である。
ところでアサヒが調べたところによると、現在のピクシスでは男女混浴の習慣は無いらしい。つまりミツキと一緒に入浴する必要はない訳で、ひとまず安心するアサヒだった。
嫌がる兄を引っ張り出すために、アサヒは兄の親友ハヤテの手を借りた。ハヤテは面白いことが大好きなのでアサヒの策略に乗ってくれる。
かくしてミツキと侍女、孤児時代に知り合った妹分のハナビも引っ張りだして、アサヒは温泉ピクニック企画を立てたのである。
「……私は忙しい」
「知ってるよ。だから日頃の疲れを癒したらどうか、って提案だろ」
馴れ馴れしく肩を抱く青い髪の友人を、ヒズミは嫌そうに振り払った。そうは言っても結局ハヤテの言うことは聞いてくれるようなので、謎の友人関係だと思う。
街の外れでお忍びの格好をしたミツキ達と合流した瞬間、ヒズミは一瞬固まった後に首を回してアサヒを睨んだ。
「アサヒ……お前の仕業か……!」
「知らないなー。俺は何も知らないなー」
しらばっくれるアサヒを忌々しそうに見るヒズミの背を、ハヤテは「わお、綺麗なお姉さんがいっぱいで俺は嬉しいね!」と言って強引に押した。
一行は女性陣と男性陣に分かれて、少し距離を置いて隣り合う二つの露天風呂にそれぞれ入ることにした。お風呂が終わった後は合流して、近くの料亭で食事をすることになっている。
「さすがに今回は覗きに行けないな……」
「ハヤテ、覗きに行ったことあるの?」
「ふっ。俺の風竜はこういう時のための相棒なんだよ」
絶対ちがうと思う。
ハヤテは風竜の竜騎士である。風竜の常で、彼の相棒は透明化して近くにいるようだったが、アサヒにもどこにいるかは分からない。
アサヒはお湯に浸かりながら年上の男達の裸を眺めた。
ヒズミもハヤテも、バランスの良い身体に筋肉がしっかり付いていて、上腕部に巻き付くような竜紋が大きく目立っている。
実は竜王のアサヒだが、筋肉が付きにくいのか鍛えてもムキムキにならないし、竜紋は小さいのでちょっぴりジェラシーを感じる。竜王として大気を使う魔術に長けているアサヒだが、竜騎士としては並以下の魔力しか持っていないのだ。
「……もう絶対、ヒズミが竜王で良いと思うんだ」
「何を言っている」
「ミツキとだってお似合いだと思う」
頭の上に乗ったヤモリが欠伸をした。
岩の上に頬杖を付いているアサヒを振り返り、ヒズミが訝しげに言う。
「私に押し付けるな。ミツキはお前の婚約者だろう」
…………は?
どこかでカポーンとししおどしが鳴った音がした。
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