8 / 126
真白山脈のフェンリル一家
08 久しぶりに戦いました
しおりを挟む
俺は、少し離れた場所にある愛剣との距離をはかる。
爪も牙もない今の俺には、敵を倒すために剣が必要だ。
どうやってあそこに行こうか思案していると、天の助けが吹いてきた。
真白山脈から降りてきた突風だ。パウダースノーを巻き上げて、俺とマンティコアの間を横断する。
「ムッ?!」
雪の幕が束の間、視界をさえぎった。
マンティコアは俺を見失った。
今だ。
俺は全速力で剣の元に走る。
「バカメ、ムダナアガキヲ!」
マンティコアの、サソリの毒針を持つ長い尻尾が、俺に向かってくる。
当たれば毒で死ぬだろう。
当たれば、な!
間一髪で剣をつかみ、鞘から抜刀するのと同時に、サソリの尻尾を切り落としてやった。
手元でシャリンと心地よい鞘走りの音がする。
何十年ぶりに日の目を見た刃が、陽光を弾いて銀色に輝いた。
次の瞬間、ドサッと音を立て、切り落としたマンティコアの尻尾の先が雪の上に落ちる。
「ワレノカラダガーッ」
マンティコアは半狂乱になって叫び声を上げた。
「丸焼きか、燻製か。生だったらお刺身? どの部分のお肉が一番美味しいんだろ」
俺はマンティコアの美味しい食べ方について考える。フェンリル的に基本は生肉だろうけど、人間の食べ方を試しても良い。
後で兄たんに詳しく聞いてみようっと。
「どっちにしても頭を切り落とさないと」
舌なめずりしながら愛剣を肩の上で背負うように構えた。
マンティコアがぎょっとする。
「マ、マテ。ハナセバワカル……」
「もう今日の夕御飯に決定したから」
「……ッ!」
後ろに飛ぼうとするマンティコアを追って、俺は踏み込む。
剣の切っ先をくるりと回すと、マンティコアは剣先に見とれて立ち止まった。ぼんやりしたモンスターの頭部へと剣を走らせる。
昔、知り合いに言われたことがある。
お前の剣は、剣術ではなく、見る者を魅了する剣舞だと。
舞うような剣閃が、マンティコアの頭と胴体をさっくり分断する。
勝利を確信した俺は剣を鞘に戻した。
久しぶりの戦いですっかり油断していたのだ。
「……後ろ!」
「え?」
ティオの声で気付いた。いつの間にか復活したサソリの尻尾が、背後に忍び寄っている。
剣を再び抜きかけるが、それより前に上空から白い獣が降ってきた。
「大丈夫かっ、ゼフィ!」
「兄たん!」
凄い勢いで飛び込んできたクロス兄が、サソリの尻尾を押さえる。
ウォルト兄がマンティコアの胴体をひっくり返して牙を入れた。
「こういうモンスターは、胴体を残すと動き続けるんだ!」
うげえ、頭を取っても動く昆虫みたいなものか。
兄たんたちはマンティコアが動かなくなるまで押さえつけると、俺を振り返って目を丸くした。
「ゼ、ゼフィ。その姿は……?!」
「っつ」
俺は人間の姿になっていることを思い出して青ざめた。
兄たんたちは人間が嫌いだ。
人間の姿をしてる俺をどう思うだろう。
こんなの弟のゼフィリアじゃない、と家族から追い出されたりしないだろうか。
急にとてつもなく不安になった。
この姿になって、思考や言語能力が大人に近付いたと思ったのに……おかしいな。感情がコントロールできない。
とめどない不安が涙になって、目にあふれた。
「ゼフィ! どうしたんだ、具合が悪いのか?!」
涙を隠すため咄嗟にうつむいた俺に、柔らかくてふさふさした白い毛並みがぶつかってきた。
驚いて顔を上げると、兄たんがおろおろと心配そうに覗きこんでいる。いつの間にか、俺はクロス兄とウォルト兄のサンドイッチになっていた。
「兄たん……?」
いつも通り、暑苦しいほどの愛情をそそいでくれる兄たちの姿がそこにあった。クロス兄は、俺の頬を舐めて涙をぬぐってくれる。
普段は無言のウォルト兄が、静かに言った。
「ゼフィ……元がなんであろうと、お前は俺たちの弟だ。たとえ人間の姿をしていたとしても」
ああ、それは俺がずっと欲しかった言葉だ。
フェンリルに生まれて、人間の記憶が戻ってから、密かに引け目を感じていた。本当の家族ではないかもしれない、と。
ウォルト兄の言葉は、俺の抱えていたわだかまりを、春の雪解け水のようにさらさらと洗い流した。
俺は歓喜の衝動に突き動かされて、兄狼の首根っこに抱きついた。
「兄たん……ありがとう。俺も、兄たんが大好きだよ!」
後から思えばめっちゃ恥ずかしい台詞だが、この時はつい心のままに行動してしまったのだ。
兄たんと感動の再会をした後、俺はティオに剣を返した。
昔は俺のものだったとしても今の所有者はティオだからな。それにフェンリルの俺に剣は必要ないのだ。
ティオが無事に村に戻ったのを見届けてから、俺は兄たんと母上の待つ洞窟に帰ってきた。
「やっぱりゼフィは、その姿が一番かわいいな!」
「ううう」
俺の姿は、人間から元の子狼に戻っていた。
人間に変身する魔法は時間切れらしい。
悔しくて洞窟の床に生えた氷柱を蹴飛ばす。
兄たんたちは、白いコロコロした毛玉の俺が、可愛くて仕方がないようだ。
人間になりたい訳じゃない。
目指すのはウォルト兄みたいな、恰好いい野生の狼だ。
肉食獣らしい尖ったフォルムに強靭な四肢、鋭い眼差し、太くて威厳のある遠吠え。
ああ、俺も早く大きくなって兄たんたちみたいな狼になりたいな!
「おかえりなさい、ゼフィ」
兄狼に挟まれて洞窟に入ると先客がいた。
優雅に寝そべる母上の前に、見たことのない青い生き物が座っている。
そいつは竜に似ていた。
「……クロスとウォルトは前に会ったな。おや、初めて見る子だ。可愛いな」
青い竜は興味深そうに俺をのぞきこむ。
ええと、あなた誰ですか?
爪も牙もない今の俺には、敵を倒すために剣が必要だ。
どうやってあそこに行こうか思案していると、天の助けが吹いてきた。
真白山脈から降りてきた突風だ。パウダースノーを巻き上げて、俺とマンティコアの間を横断する。
「ムッ?!」
雪の幕が束の間、視界をさえぎった。
マンティコアは俺を見失った。
今だ。
俺は全速力で剣の元に走る。
「バカメ、ムダナアガキヲ!」
マンティコアの、サソリの毒針を持つ長い尻尾が、俺に向かってくる。
当たれば毒で死ぬだろう。
当たれば、な!
間一髪で剣をつかみ、鞘から抜刀するのと同時に、サソリの尻尾を切り落としてやった。
手元でシャリンと心地よい鞘走りの音がする。
何十年ぶりに日の目を見た刃が、陽光を弾いて銀色に輝いた。
次の瞬間、ドサッと音を立て、切り落としたマンティコアの尻尾の先が雪の上に落ちる。
「ワレノカラダガーッ」
マンティコアは半狂乱になって叫び声を上げた。
「丸焼きか、燻製か。生だったらお刺身? どの部分のお肉が一番美味しいんだろ」
俺はマンティコアの美味しい食べ方について考える。フェンリル的に基本は生肉だろうけど、人間の食べ方を試しても良い。
後で兄たんに詳しく聞いてみようっと。
「どっちにしても頭を切り落とさないと」
舌なめずりしながら愛剣を肩の上で背負うように構えた。
マンティコアがぎょっとする。
「マ、マテ。ハナセバワカル……」
「もう今日の夕御飯に決定したから」
「……ッ!」
後ろに飛ぼうとするマンティコアを追って、俺は踏み込む。
剣の切っ先をくるりと回すと、マンティコアは剣先に見とれて立ち止まった。ぼんやりしたモンスターの頭部へと剣を走らせる。
昔、知り合いに言われたことがある。
お前の剣は、剣術ではなく、見る者を魅了する剣舞だと。
舞うような剣閃が、マンティコアの頭と胴体をさっくり分断する。
勝利を確信した俺は剣を鞘に戻した。
久しぶりの戦いですっかり油断していたのだ。
「……後ろ!」
「え?」
ティオの声で気付いた。いつの間にか復活したサソリの尻尾が、背後に忍び寄っている。
剣を再び抜きかけるが、それより前に上空から白い獣が降ってきた。
「大丈夫かっ、ゼフィ!」
「兄たん!」
凄い勢いで飛び込んできたクロス兄が、サソリの尻尾を押さえる。
ウォルト兄がマンティコアの胴体をひっくり返して牙を入れた。
「こういうモンスターは、胴体を残すと動き続けるんだ!」
うげえ、頭を取っても動く昆虫みたいなものか。
兄たんたちはマンティコアが動かなくなるまで押さえつけると、俺を振り返って目を丸くした。
「ゼ、ゼフィ。その姿は……?!」
「っつ」
俺は人間の姿になっていることを思い出して青ざめた。
兄たんたちは人間が嫌いだ。
人間の姿をしてる俺をどう思うだろう。
こんなの弟のゼフィリアじゃない、と家族から追い出されたりしないだろうか。
急にとてつもなく不安になった。
この姿になって、思考や言語能力が大人に近付いたと思ったのに……おかしいな。感情がコントロールできない。
とめどない不安が涙になって、目にあふれた。
「ゼフィ! どうしたんだ、具合が悪いのか?!」
涙を隠すため咄嗟にうつむいた俺に、柔らかくてふさふさした白い毛並みがぶつかってきた。
驚いて顔を上げると、兄たんがおろおろと心配そうに覗きこんでいる。いつの間にか、俺はクロス兄とウォルト兄のサンドイッチになっていた。
「兄たん……?」
いつも通り、暑苦しいほどの愛情をそそいでくれる兄たちの姿がそこにあった。クロス兄は、俺の頬を舐めて涙をぬぐってくれる。
普段は無言のウォルト兄が、静かに言った。
「ゼフィ……元がなんであろうと、お前は俺たちの弟だ。たとえ人間の姿をしていたとしても」
ああ、それは俺がずっと欲しかった言葉だ。
フェンリルに生まれて、人間の記憶が戻ってから、密かに引け目を感じていた。本当の家族ではないかもしれない、と。
ウォルト兄の言葉は、俺の抱えていたわだかまりを、春の雪解け水のようにさらさらと洗い流した。
俺は歓喜の衝動に突き動かされて、兄狼の首根っこに抱きついた。
「兄たん……ありがとう。俺も、兄たんが大好きだよ!」
後から思えばめっちゃ恥ずかしい台詞だが、この時はつい心のままに行動してしまったのだ。
兄たんと感動の再会をした後、俺はティオに剣を返した。
昔は俺のものだったとしても今の所有者はティオだからな。それにフェンリルの俺に剣は必要ないのだ。
ティオが無事に村に戻ったのを見届けてから、俺は兄たんと母上の待つ洞窟に帰ってきた。
「やっぱりゼフィは、その姿が一番かわいいな!」
「ううう」
俺の姿は、人間から元の子狼に戻っていた。
人間に変身する魔法は時間切れらしい。
悔しくて洞窟の床に生えた氷柱を蹴飛ばす。
兄たんたちは、白いコロコロした毛玉の俺が、可愛くて仕方がないようだ。
人間になりたい訳じゃない。
目指すのはウォルト兄みたいな、恰好いい野生の狼だ。
肉食獣らしい尖ったフォルムに強靭な四肢、鋭い眼差し、太くて威厳のある遠吠え。
ああ、俺も早く大きくなって兄たんたちみたいな狼になりたいな!
「おかえりなさい、ゼフィ」
兄狼に挟まれて洞窟に入ると先客がいた。
優雅に寝そべる母上の前に、見たことのない青い生き物が座っている。
そいつは竜に似ていた。
「……クロスとウォルトは前に会ったな。おや、初めて見る子だ。可愛いな」
青い竜は興味深そうに俺をのぞきこむ。
ええと、あなた誰ですか?
516
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる