9 / 126
ゼフィの魔法
09 魔法使いの弟子になりました(1/20 改稿)
俺は青い竜をまじまじと観察する。
蛇のような胴体に蜥蜴の手足、背中には折り畳まれた一対のコウモリの翼がある。鱗はみずみずしい群青で、頭部には黄金の角が輝いている。
体の大きさは母上と同じくらいだが、翼を広げれば母上より大きいだろう。
巨体なのに洞窟に入るまで気配に気づかなかったのは、静かで落ち着いた雰囲気をしているからだ。普通の竜じゃないのか、神秘的な黄金の瞳に見つめられて、俺はドキリとした。
母上が説明付きの紹介をする。
「ウォルト、クロス、ゼフィリア。こちらは、東の海に棲む神獣ヨルムンガンドです。竜に似ていますが、別の種族なので敬意を持って接するように」
神獣なのか。道理で気配が神々しい訳だぜ。
「私は神獣の中でも長老の部類に入る。地水火風はもちろん、あらゆる種類の魔法を修めている」
「すごい!」
「純粋な賞賛は心地いいな。もっと私を誉めてくれ」
ヨルムンガンドは自分の魔法を自慢したいみたいだ。
人間はひとつかふたつの属性の魔法しか使えないと聞いたことがある。神獣はたくさん魔法を覚えられるんだな。
「私も良い年齢であるし、魔法を受け継いでくれる弟子を探しているのだ。弟子になって、ついでに私の目的に協力してくれれば言うことがない。フェンリル殿の息子はどうかと思ってな」
「弟子?」
俺は兄たんを振り返った。
ウォルト兄とクロス兄は三角の獣耳を伏せてそっぽを向く。
「……ゼフィ。狼たるもの、爪と牙を鍛えることが重要だぞ」
「でも空をとぶやつには、手も足もでないじゃん」
「……」
ほら、空を飛ぶ魔法を教えてもらったら、竜も簡単に狩れるじゃないか。
俺の言葉にヨルムンガンドは喉を鳴らして笑った。
「フェンリル殿は、なかなか将来有望な後継者を持っているな」
「ゼフィリアは私の自慢の子供ですから」
母上は「ウォルトとクロスは、魔法を覚えたがらないので困っていたところです。神獣たるもの、ひととおりの魔法も使えなければ」と愚痴った。
兄たんたちは脳筋だからな。
「ウォルトとクロスは駄目か……」
「おれは?」
「ふーむ。ゼフィ、君はまだ小さいからな。魔法の修行に耐えられるかどうか」
ヨルムンガンドは子狼の俺を見て心配になったようだ。
「南の火の鳥の神獣もあたってみようかな……」
ウォルト兄とクロス兄は乗り気じゃないし、末っ子の俺は小さいしで、ヨルムンガンドは俺たち三兄弟に魔法を教えるのを諦めようとしている。
ちょっと待って欲しい。
前世で剣士だった俺は、魔法に興味を持っていた。
せっかく教えてもらうチャンスなのだ。この機会を逃してなるものか。
「だいじょうぶだもん!」
精一杯、背伸びして主張すると、ヨルムンガンドは目を細めた。
「そうだな……ではひとつ、入門試験をしよう」
「しけん?」
ヨルムンガンドは俺に付いてくるよう尻尾を振って、洞窟の外に出た。
岩をくわえて数個積んで山を作り、天辺にどこからか取り出した金の林檎をのせる。そうして俺に言った。
「この天辺の林檎をひとりで取れるかな? ウォルトやクロスの手を借りると失格だ」
「……できるもん」
俺は自分の身長の倍以上ある岩山をにらんだ。
岩を登って天辺の林檎を取ろうと思ったが。
「とどかないー!(ピョンピョン)」
いかんせん子狼の俺は、人間の腰くらいある大きな岩をよじ登ることすらできない。足掛かりを探して岩山の周囲を歩き回るが、ちょっと登ったところで断崖絶壁に阻まれて断念する。
「うー!」
「……ゼフィ。諦めて俺たちと狩りの練習をしよう。その岩山はお前ひとりで登るのは無理だ」
「もっと成長してから挑戦すればいいのよ」
クロス兄と母上が口々に言う。
悔しいな。
本当に俺が成長するまで無理なのかな。
「……そうだ」
岩山をにらんで考えていた俺は、ふと思いついて、その辺に転がっている木の枝をくわえた。
自分の身長より長い木の枝を引きずって岩山の前に持ってくる。
岩山は適当に岩を積み上げただけなので、岩と岩が接しているところに隙間があった。そこに木の枝をぐいっと押し込む。
「ええいっ」
「……ほう」
ヨルムンガンドが感心したように唸った。
要するに「梃子の原理」ってやつだ。
木の枝の端に飛び乗って、大きな岩を跳ね上げるように動かす。
幸いにも木の枝が丈夫だったのと、岩の積みかたが粗かったので、俺の思惑どおりに岩は動いた。
ついでに積み木崩しのように、バランスを崩して上に乗っている岩が転がり落ちる。がらがらがら。連鎖的に崩壊が起きた。
「ふえっ」
「ゼフィ! 大丈夫か」
岩が上に落ちてきそうになったので、俺はあわてて回避する。
見守っていたクロス兄が心配そうにする。
岩山が平らになると、林檎が俺の足元に転がってきた。
「りんご、とった!」
「「おお~」」
林檎をかかえて勝利宣言をすると、なぜかウォルト兄とクロス兄が意外そうに感嘆の声を上げる。
「見事だゼフィ。約束どおり、魔法を教えてあげよう」
「やった!」
ヨルムンガンドは厳かに言い、俺は弟子として魔法を教えてもらうことになった。
「ところで、りんご、たべていい?」
「う、うむ」
蜜入りだといいなー。
俺はシャリシャリ戦利品の林檎を食べ始めた。ヨルムンガンドは苦笑している。もしかしてデザートに取っておいた林檎だったのかな。言ってくれれば分けてあげるのに。
ふう、労働の後のご飯は美味しいぜ。
蛇のような胴体に蜥蜴の手足、背中には折り畳まれた一対のコウモリの翼がある。鱗はみずみずしい群青で、頭部には黄金の角が輝いている。
体の大きさは母上と同じくらいだが、翼を広げれば母上より大きいだろう。
巨体なのに洞窟に入るまで気配に気づかなかったのは、静かで落ち着いた雰囲気をしているからだ。普通の竜じゃないのか、神秘的な黄金の瞳に見つめられて、俺はドキリとした。
母上が説明付きの紹介をする。
「ウォルト、クロス、ゼフィリア。こちらは、東の海に棲む神獣ヨルムンガンドです。竜に似ていますが、別の種族なので敬意を持って接するように」
神獣なのか。道理で気配が神々しい訳だぜ。
「私は神獣の中でも長老の部類に入る。地水火風はもちろん、あらゆる種類の魔法を修めている」
「すごい!」
「純粋な賞賛は心地いいな。もっと私を誉めてくれ」
ヨルムンガンドは自分の魔法を自慢したいみたいだ。
人間はひとつかふたつの属性の魔法しか使えないと聞いたことがある。神獣はたくさん魔法を覚えられるんだな。
「私も良い年齢であるし、魔法を受け継いでくれる弟子を探しているのだ。弟子になって、ついでに私の目的に協力してくれれば言うことがない。フェンリル殿の息子はどうかと思ってな」
「弟子?」
俺は兄たんを振り返った。
ウォルト兄とクロス兄は三角の獣耳を伏せてそっぽを向く。
「……ゼフィ。狼たるもの、爪と牙を鍛えることが重要だぞ」
「でも空をとぶやつには、手も足もでないじゃん」
「……」
ほら、空を飛ぶ魔法を教えてもらったら、竜も簡単に狩れるじゃないか。
俺の言葉にヨルムンガンドは喉を鳴らして笑った。
「フェンリル殿は、なかなか将来有望な後継者を持っているな」
「ゼフィリアは私の自慢の子供ですから」
母上は「ウォルトとクロスは、魔法を覚えたがらないので困っていたところです。神獣たるもの、ひととおりの魔法も使えなければ」と愚痴った。
兄たんたちは脳筋だからな。
「ウォルトとクロスは駄目か……」
「おれは?」
「ふーむ。ゼフィ、君はまだ小さいからな。魔法の修行に耐えられるかどうか」
ヨルムンガンドは子狼の俺を見て心配になったようだ。
「南の火の鳥の神獣もあたってみようかな……」
ウォルト兄とクロス兄は乗り気じゃないし、末っ子の俺は小さいしで、ヨルムンガンドは俺たち三兄弟に魔法を教えるのを諦めようとしている。
ちょっと待って欲しい。
前世で剣士だった俺は、魔法に興味を持っていた。
せっかく教えてもらうチャンスなのだ。この機会を逃してなるものか。
「だいじょうぶだもん!」
精一杯、背伸びして主張すると、ヨルムンガンドは目を細めた。
「そうだな……ではひとつ、入門試験をしよう」
「しけん?」
ヨルムンガンドは俺に付いてくるよう尻尾を振って、洞窟の外に出た。
岩をくわえて数個積んで山を作り、天辺にどこからか取り出した金の林檎をのせる。そうして俺に言った。
「この天辺の林檎をひとりで取れるかな? ウォルトやクロスの手を借りると失格だ」
「……できるもん」
俺は自分の身長の倍以上ある岩山をにらんだ。
岩を登って天辺の林檎を取ろうと思ったが。
「とどかないー!(ピョンピョン)」
いかんせん子狼の俺は、人間の腰くらいある大きな岩をよじ登ることすらできない。足掛かりを探して岩山の周囲を歩き回るが、ちょっと登ったところで断崖絶壁に阻まれて断念する。
「うー!」
「……ゼフィ。諦めて俺たちと狩りの練習をしよう。その岩山はお前ひとりで登るのは無理だ」
「もっと成長してから挑戦すればいいのよ」
クロス兄と母上が口々に言う。
悔しいな。
本当に俺が成長するまで無理なのかな。
「……そうだ」
岩山をにらんで考えていた俺は、ふと思いついて、その辺に転がっている木の枝をくわえた。
自分の身長より長い木の枝を引きずって岩山の前に持ってくる。
岩山は適当に岩を積み上げただけなので、岩と岩が接しているところに隙間があった。そこに木の枝をぐいっと押し込む。
「ええいっ」
「……ほう」
ヨルムンガンドが感心したように唸った。
要するに「梃子の原理」ってやつだ。
木の枝の端に飛び乗って、大きな岩を跳ね上げるように動かす。
幸いにも木の枝が丈夫だったのと、岩の積みかたが粗かったので、俺の思惑どおりに岩は動いた。
ついでに積み木崩しのように、バランスを崩して上に乗っている岩が転がり落ちる。がらがらがら。連鎖的に崩壊が起きた。
「ふえっ」
「ゼフィ! 大丈夫か」
岩が上に落ちてきそうになったので、俺はあわてて回避する。
見守っていたクロス兄が心配そうにする。
岩山が平らになると、林檎が俺の足元に転がってきた。
「りんご、とった!」
「「おお~」」
林檎をかかえて勝利宣言をすると、なぜかウォルト兄とクロス兄が意外そうに感嘆の声を上げる。
「見事だゼフィ。約束どおり、魔法を教えてあげよう」
「やった!」
ヨルムンガンドは厳かに言い、俺は弟子として魔法を教えてもらうことになった。
「ところで、りんご、たべていい?」
「う、うむ」
蜜入りだといいなー。
俺はシャリシャリ戦利品の林檎を食べ始めた。ヨルムンガンドは苦笑している。もしかしてデザートに取っておいた林檎だったのかな。言ってくれれば分けてあげるのに。
ふう、労働の後のご飯は美味しいぜ。
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。