フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

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ゼフィの魔法

11 噴火を止めました(12/22 改稿)

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 むさ苦しい男の全裸は最悪である。
 しかし、美少年の全裸は許される。
 だって子供だから。子供万歳! 俺は前世を含め初めて、自分が子供であることに感謝していた。
 普通、男が全裸で他人の家の中に現れたら変態です。

「えーっ、この前の? えええ?!」

 混乱するティオの後ろで、正気を取り戻したサムズ爺さんが「ちょっと待ってくれ」と冷静な顔でとって返した。
 そして、数分もしない内に、ちょっと大きめだけど農村の子供の服を持ってきてくれたのである。爺さんグッジョブ。

「俺、人間に変身する練習をしてるんだ」

 借りた服を着て、俺は爺さんちのダイニングで我が物顔でくつろいだ。
 正直に目的を話す。

「ワンちゃんじゃ無かったんだ……」

 ティオは激しく落ち込んで、残念そうだ。
 いや君、いろいろと間違ってるからね。子犬が神獣だったんだから、普通は驚いたり怖がったりするだろ。

「そうだったのか。フェンリルさま、練習がしたければ、いつでも村にお立ち寄り下さい」

 サムズ爺さんはニコニコして言った。
 物わかりの良い爺さんだな。何も考えてないだけかもしれないが。
 俺はあまり長い間、人間に変身できない。本能でタイムリミットが近付いていると分かったので、外に出てウォルト兄と合流した。
 真剣な顔をしているティオに、別れの挨拶をする。

「じゃあな、ティオ」
「……また来て」
「?」
「また遊びに来てよ、ゼフィ!」

 真っ赤な顔をして叫ぶティオ。
 俺はびっくりしたが、すぐに温かい気持ちになった。

「うん。またな、ティオ」

 ゼフィと名前で呼ばれるのは家族以外では初めてだが、子供の純粋な好意を否定するほど俺は心が狭くないのだ。特別に許してやろう。



 洞窟に帰ると、待っていた母上に説教された。

「未熟な変身魔法で、鳥になって空を飛ぶなんて……怪我がなかったからいいものの。鳥に変身するのは止めなさい」
「ふあーい」

 俺は良い子の返事をしたが、心の中では変身魔法の練習は続けようと思っていた。ルールとは破るためにあるのだ。腕白小僧と呼びたいなら呼ぶがいい。

「クロス兄は、まだ、かえってないの?」
「そういえばあの子はどこをほっつき歩いているのでしょう。ウォルト、知りませんか」
「……」

 母上の問いかけに、ウォルト兄は白々しくそっぽを向き、沈黙を保った。兄たん、反抗期なのかな。

「全くクロスとウォルトの仲の悪さといったら」

 母上は答えないウォルト兄に呆れたようだった。

「つい数年前などは、魔法も使って大暴れするものだから、地脈に影響が出て隣の山が噴火しそうになったほどです。あの時はおさめるのに難儀しました……」

 噴火? 兄たんの力ってすごいんだな。
 ウォルト兄をじっと見上げると、視線に気付いた兄狼は、こっそり俺に耳打ちしてきた。

「……火山、一緒に見に行くか?」

 行く! と俺は二つ返事する。
 こうして母上のお説教の後に、俺たちは火山を見に行くことにした。



 問題の山は、真白山脈フロストランドの外れにあった。
 フェンリルが棲む山は雪と氷におおわれて噴火など起きることはないが、棲みかから少し離れれば大地と炎の力の影響が強く出るらしい。

 俺は子狼の姿で兄たんにくわえられて、現場へ向かった。できれば自分の足で走りたいが、子狼がとたとた走ったところで速度がしれている。

 ウォルト兄は山頂に着くと俺を地面に降ろした。
 山頂は木々が無く、大きな穴が空いて平らになっている。そしてここだけ雪が積もっていない。
 気のせいか熱気が地面から立ち上っている。

「ここでクロス兄とけんかしたの?」
「……」

 ウォルト兄は無言で重々しく頷く。

「……三日三晩、寝る間も惜しんで戦った」
「どっちが勝ったの?」
「……俺に決まっているだろう」

 返事に間が空いたのは何故だろうか。
 その時、大地が鳴動した。

「なに?!」

 ゴゴゴと低い地響きと共に、大地の下から高熱の塊が昇ってくる気配がする。

「もしかして、ふんか?」
「ゼフィ、下がっていろ!」

 ウォルト兄は太い遠吠えを上げる。
 兄狼の周囲に吹雪が発生し、山頂の穴に吸い込まれていく。
 雪は地面に触れると溶け、まったく積もる様子がない。

「……くっ。やはり俺の力だけでは、噴火を抑えられないのか」

 ウォルト兄が悔しそうに何か言っているが、俺は聞いていなかった。

「りんごうさぎ……!」

 山頂の穴で、ウサギが跳ねていた。
 初心者向けの悪魔ウサギで失敗してから、最近ようやく狩ることができるようになった、赤茶色の毛皮を持つウサギだ。悪魔ウサギと違って筋肉ムキムキに変身したりしない、大人しい種族である。

「ごはんっ!」
「ゼフィ?!」

 俺は噴火についてすっかり忘れ、ウサギを追って勢いよく山頂に飛び込んだ。
 リンゴウサギは寸前でピョンと跳んで、俺を避ける。

 空振って着地した足元から、シュワシュワ白い湯気が上がった。

「げほげほ」

 視界が白く閉ざされる。

「ウオオオオウッ!」

 ウォルト兄が吠えると、強風が吹いて湯気が消えた。
 気がつくと、足元の地面が真っ白に凍りついている。
 リンゴウサギはピョンピョン跳ねて、山の尾根へ逃げていくところだった。残念だな、狩り損ねたや。
 あ、そういえばウォルト兄の邪魔しちゃったかも?

「ごめん、ウォルト兄。おれ、じゃました」
「……いや」

 ウォルト兄はなぜか戸惑っているようだった。

「……噴火が止まった。これはまさかゼフィが」
「どうしたの?」
「……何でもない」

 微妙な顔をしたウォルト兄は、俺をくわえて元来た道を戻り始めた。

「兄たん、おれ、ウサギとれるようになりたい」
「……」
「りゅうにへんしんすれば、ウサギとれるかな」
「……鳥に変身するなと母上に叱られたばかりだろう」
「りゅう、とりじゃないもん!」

 俺たちは仲良く雑談しながら母上の待つ洞窟へ引き返した。
 今度は、危ないところに小さい弟を連れていくなと母上にウォルト兄が怒られた、とだけ追記しておく。

 
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