フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

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竜の娘

76 魚は塩焼きが美味しいです

 俺は天牙を抜く直前、匂いで相手の正体が分かった。
 白い竜の背中でたたらを踏む。
 
「ミカ?!」
「ゼフィさま、ごめんなさーい!」
 
 顔に巻いたマフラーを取り、獣人の少女ミカが泣きそうな顔をする。
 ティオの侍女をやってるミカ。
 いつもならこの時間は領事館で家事をしているはずなのに。
 なんで白竜スノウの背中に乗ってるんだ?
 
「領事館にスノウが飛んできたんです! ティオさまが来ないから不安になったみたいで。なだめても聞かないし、背中に乗ったらそのまま連れ去られて」
「顔を隠してたのはなんで?」
「空の上は寒いので、洗濯するつもりだったマフラーと、変装用の眼鏡をかけてみました!」
 
 紛らわしいことするなよ……。
 
「キュー!(なんでご主人様ティオ、グスタフに乗ってるの)」
 
 ところでスノウは気が荒立っているようだ。
 グスタフに向かって威嚇している。
 
「スノウ! これには訳があるんだよ」
「キューキュー!(ご主人様、僕以外に乗らないで)」
 
 スノウは息を大きく吸い込むと、グスタフに向かって冷気のブレスを吐いた。
 グスタフは回避しようとするが間に合わず、翼に穴が空く。
 
「フシュー……(本艦はまもなく墜落します)」
「グスタフ、諦めるのはやっ」
 
 一方のスノウも、不安定な姿勢で俺とミカを乗せてあれこれやったのが悪かったのか、バランスを崩して湖の上に落ちようとしていた。
 二匹の竜は俺たちもろとも墜落する。
 
「うわあああああっ!」
「きゃあーっ!」
「竜と一緒に落ちるのは初めてだなー」
 
 俺たちは竜にしっかりしがみついて落下の衝撃に備える。
 幸い、高度はそんなに高くない。
 下には浅黄色の水面が広がっている。
 
 どぼーん。
 
 朝日が射しこむ水中には、銀色の小魚がすいすい泳いでいる。
 緑の水草がゆらゆら揺れているのを鑑賞してから、俺はミカとティオを回収して泳ぎ始めた。
 
「ぷはっ」
 
 三人で水面に顔を出して空気を補給する。
 
「岸に向かって泳ぐぞ。ミカ、ティオ、泳げるか?」
「私は大丈夫です!」
「僕、泳いだことが…もがむが」
 
 沈みそうなティオを引っ張って、岸まで泳いだ。
 地面の上に腰を下ろして息を整える。
 目の前の湖の水面がキラキラ光っている。
 ざばーんとスノウが首を出した。スノウはどうやら水遊びに夢中になっているようだ。自分が引き起こした惨事はすっかり忘れて、湖にもぐったり飛び出したりしている。
 一方、グスタフは浴槽に入った老人のようにまったりしていた。
 湖は底が深くないので、グスタフの巨体であれば背中と顔は水面に出るのだ。
 
「グスタフー、傷を治してやるから出てこいよ」
「キュエー(もうこのままでいい)……」
 
 やる気のないグスタフを脅して湖から出すと、俺は時の魔法を使った。
 一瞬で時間が巻き戻って翼の傷が治る、と思いきや。
 
 ポン!
 
 煙が立って、グスタフの身体が横に拡張された。
 
「おや……?」
 
 元の太っちょに戻っちゃった。
 
「キュイー(これが私の真実の姿だ)」
「ちょっとゼフィ、魔法を掛け間違えたんじゃ」
「おっかしーな」
 
 すっかり肥満体になったグスタフは腹ばいになって寝始める。
 俺は自分の手をわきわきしながら考える。
 加減を間違って巻き戻し過ぎたのかな
 
「これじゃ課題をこなせないんじゃ」
「うう、私がスノウを止められなかったせいで」
 
 ティオは不安な顔で、ミカは責任を感じているようで暗くなっている。
 確かに課題合格は絶望的だ。
 でも命が取られる訳ではないし、大したことではないと思う。
 
「大げさだなー。また次のチャンスに挑戦すればいいじゃないか」
「僕はへっぽこだから仕方ないけど、ゼフィが馬鹿にされるのは嫌なんだよ。ゼフィはすごいのに!」
 
 のほほんとしている俺に、ティオが涙目で怒鳴った。
 そう真剣に言われると、どうにかしないとという気分になる。
 
「じゃあ、とりあえず服を乾かして、魚を食べながら考えないか?」
「魚?」
 
 ティオがぽかんとする。
 少年の背後で魚をくわえた白竜が水面に顔を出した。
 この湖の魚、美味しそうなんだよな。
 
 
 
 俺はスノウに追いかけられて逃げまどっている魚を数匹つかまえ、木の枝を集めて火をつけた。
 実は火の魔法を練習中なのだ。
 まだ小さな火を灯すくらいしかできないけど。
 転移魔法でミカに領事館から塩を取ってきてもらう。
 ナイフで魚の腹をさばいて内臓を抜いて捨てる。
 これでもかってくらい塩をまぶして串にさすと、火にかざした。
 
「魚は塩焼きだよなー」
 
 塩を沢山ふると身が美味しくなるのだ。弱火でじっくり焼くと余分な水分が出ていって、美味しい身だけが残る。
 焼きあがった魚を皆で食べた。
 湖の魚は白身でさっぱり淡泊な味だった。
 ご飯が終わる頃、寝ていたグスタフが首を上げた。
 
「……キュー(怖い気配が近づいてくる)」
「んん?」
 
 東の空から黄金の光が飛んでくる。
 炎の翼を広げた美少女。
 なぜか完全に武装して手に黄金の槍を持っている。
 それは、今回の課題とは関係ないはずのフレイヤ王女だった。
 
「セイルさま! お母さまを助けるために協力いただけませんか?」
「へ?」
「レイガスから王都に帰還する途中で、敵国の者に襲われて捕まってしまったと知らせが入ったのです!」
「ええ?!」
 
 必死な顔をして言い募るフレイヤ。
 あの殺しても死なない姐さん聖女バレンシアが捕まったって?
 槍でも降るんじゃないかな……。

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