フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉

文字の大きさ
98 / 126
不屈の剣

95 困った時は料理がしたくなります

しおりを挟む
 俺が巨人を斬った時には、街の半分が壊されている状態だった。
 しかし街出身の兵士によると全壊より全然良いらしい。
 
「ありがとうございます! あなたのおかげで街を復興できます!」
 
 スウェルレンの兵士は俺に感謝した後、仲間を呼んで猛烈な勢いで瓦礫を片付け始めた。避難していた街の人たちも戻ってくるらしい。
 俺たちは、街の壊されていない場所で休憩することにした。
 ちなみにフェンリル兄たちは砂ぼこりが漂う街が煙いと言って、別の場所で狩りをしている。
 ティオやフレイヤと旧交を温めたかった俺だが、その前に迷子の対応が必要だった。
 
「僕をアンリルの元へ連れて行け!」
 
 剣の精霊エンバーは偉そうに俺に命令した。
 
「アンリル?」
「僕の主だ」
「お前、置いていかれたの?」
「アンリルは少し……血が苦手なのだ。僕を戦場に残し、栄誉ある撤退を選んだ」
 
 エンバーは憂いを含んだ表情で言う。
 俺との会話を聞いていたティオが、バッサリ単純明快にまとめた。
 
「剣を置いて逃げたんだね」
「戦略的撤退だ!」
 
 エンバーが向きになって叫び返す。
 世の中には分かっていても突っ込んであげない方が良いこともあるんだぞ、ティオ。
 置いていかれたと認めたくないんだろーなーと思いながら、机に頬杖を付いていると、兵士たちの話し声が聞こえてきた。
 
「専門の料理人はいないのか?! フレイヤさまや他国の王族がいらしているのだぞ!」
「申し訳ありません、すぐに準備が……」
 
 俺はふと、この場を抜け出して料理が作りたくなった。
 何か話したそうにしているフレイヤに向かって、にこっと微笑む。
 一瞬でフレイヤは真っ赤になった。
 
「セイルさま……?」
「俺は少し席を外すよ」
「え?」
 
 脱いだ上着の上に天牙を置くと、椅子からピョンと飛び降りる。
 誰にも止められない内にさっと壁の影に滑り込んだ。
 脱出成功っと。
 食べ物の匂いを辿って廃墟になった街をてくてく歩く。
 半壊した建物の台所を覗き込むと、腕まくりした筋肉隆々のおっさんが鍋を前に悩んでいた。
 
「おや……坊主、どこの子だ?」
 
 俺を見つけて、おっさんは不思議そうにする。
 フレイヤ王女やティオと違い、俺は今朝来たばっかりだから顔が割れていない。
 無邪気な銀髪美少年を装って天真爛漫な笑顔を浮かべてみせる。
 
「おじさん、巨人を追い払ってくれてありがとう! 僕も料理手伝うよ!」
「この街の子か? ありがたい。急に料理をしろと上官に言われて困っていたところだったんだ」
 
 おっさんは天の助けと俺を台所に招き入れた。
 
「料理に使えそうなのは、備蓄の大量のジャガイモと、肉の切れ端しか……」
 
 食材が無くて大したものが作れないと肩を落とすおっさん。
 後ろの棚には大量のジャムの瓶が並んでいる。
 
「それに水が無いんだ。巨人が地震を起こしたせいか、井戸が干上がっちまって」
 
 台所を見回していた俺は、隅っこの井戸の蓋の上で寝ている青い竜を見つけた。
 小型サイズに化けている神獣ヨルムンガンドだ。
 
「師匠、師匠」
 
 お腹を出して寝ているヨルムンガンドを人差し指でつんつんする。
 
「Zzz……ハッ。ゼフィくんではないか」
「師匠、なんでこんなところで寝てるの?」
「うむ。ここがちょうど居心地が良くてな」
 
 目覚めたヨルムンガンドが小さな羽をぱたぱたさせて浮き上がる。
 その時、ゴブゴブと水の音が下から聞こえた。
 俺は井戸の蓋を持ち上げる。
 
「水、沸いてるよ?」
「そんな馬鹿な! さっきまで空だったぞ!」
 
 おっさんは目を見張る。
 これはきっとヨルムンガンドのせいだな……。
 神獣はそこにいるだけで、土地に恵みを与えるのだ。
 ヨルムンガンドは「ふっ。私としたことがつい水を呼んでしまった」と恰好つけて呟きながら、俺の肩に座り込む。
 
「よし。俺はジャガイモを剥くから、おじさんはお湯を沸かして」
「あいよ分かった!」
 
 俺は包丁を借り高速でジャガイモの皮を剥き始めた。
 一個数十秒でさらさらと皮を剥いて、大きな鍋に放り込んでいく。
 火が通りやすいように軽く四つに切り分けると、ぐつぐつ煮える鍋で茹でた。
 十分に火が通ったジャガイモは塩を掛けながら入念につぶしていく。
 
「お肉は切れ端しかないなら、ミンチにしちゃって」
「おう」
 
 古い玉ねぎも何個か残っていたから、皮を剥いて微塵切りにして、フライパンで飴色になるまで軽く炒める。
 ミンチにしたお肉と台所に残っていたパン粉を混ぜて……
 
「卵はないの?」
「ニワトリも巨人のせいで逃げちまったからな……」
 
 俺は「ちょっと待ってて」とおっさんに断って、転移のゲートを真白山脈フロストランドにつなげると、サムズ爺さんの家で卵と牛乳とバターをもらってきた。
 卵はお肉とパン粉のつなぎに使う。
 肉団子を作ってフライパンでしっかり火が通るまで炒める。
 牛乳とバターはすりつぶしたジャガイモにくわえて、マッシュポテトに。
 
「できた!」
 
 お皿にミートボールとマッシュポテトを盛って、コケモモジャムを添えれば、完成。
 
「こ、こんな美味い料理ができるなんて……!」
 
 おっさんは味見して感激している。
 俺はおっさんと協力して、料理が乗った皿をフレイヤたちのところへ運ぶ。
 運ぶ途中で俺の正体がばれた。
 エスペランサの竜騎士に見つかったのだ。
 
「おい、その方は巨人討伐の英雄の、セイルさまだぞ!」
「何だって?!」
「……ちょっと料理がしたかったんです」
 
 オフレコでお願いします、と笑ってみせると竜騎士とおっさんは「か、かわいい。本当にこんな少年が巨人を」と絶句する。
 俺はフレイヤとティオとエンバーの前に料理の皿を置いた。
 
「これをセイルさまが……!」
 
 フレイヤが「料理もできるなんて」とショックを受けている。何故だろうか。
 ティオは俺が料理できることを知っているので、ミートボールを食べながら「美味しい!」と歓声を上げている。
 
「……アンリルは、剣士ではなく料理人になりたいと、よく言っていた」
 
 エンバーが料理の皿を見下ろしてポツリと言った。
 
「なんか聞いている限り、そのアンリルって人、すごく弱虫なんじゃ」
「アンリルは弱虫なんかじゃない!」
 
 ティオの指摘に、エンバーが怒りの声を上げる。
 俺はコケモモジャムを付けてミートボールをかじった。
 肉汁じゅわっと出てジャムの酸味がちょうどよくて、旨っ。
 
「俺も料理人やろうかなー。誰かを殺すんじゃなくて、生かす仕事なんて素敵じゃないか。いつでも美味しいご飯が食べられるなんて最高だろ」
 
 俺の言葉に、フレイヤとティオが沈黙する。
 反対にエンバーの表情が分かりやすく明るくなった。
 そのアンリルって奴のこと、本当に大好きなんだな。

しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...