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第三部 魔界探索

78 魔法の属性についておさらいしよう

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 魔族は敵だ。敵に魔法教えてどうするんだと、脳内ツッコミが入る。
 だけど暇だし蜥蜴族リザードの暮らしには興味があった。
 
「……大したことは教えられねーぞ」
「構わない! 感謝する、カナメ殿」
 
 サナトリスは、パッと顔を輝かせた。
 
「よし。奴をギャフンと言わせてやってくれ……!」
「奴? わっ」
 
 いきなり腕を引かれて俺は困惑する。
 ぐいぐい連れて来られた先は、テントの外の広場。
 蜥蜴族の子供が十人くらい輪になっていて、その中央に白黒の執事みたいな服装の男が立っている。
 この暑いのに白い手袋なんか付けて、気取った恰好だ。
 子供たちは露出した腕や手足に鱗があり、トカゲの尻尾が生えている。しかし男は滑らかな浅黒い肌に、赤い瞳と銀の髪を持っていた。蜥蜴族ではないらしい。シシアに似ているな……ダークエルフか。
 男はサナトリスに向かって一礼する。
 
「サナトリス様。魔界一の魔術師と呼ばれるこの私に何か御用で?」
「コリドー殿。こちらは異邦の魔法使い、カナメ殿だ。あなたの魔術を見たいと言っている」
「へ?」
 
 話が違う。
 状況が把握できない俺はポカンとして、コリドーと呼ばれた男と、サナトリスを見比べた。
 
「ふっ。私は魔界で有名な魔術師ですからね!」
 
 コリドーは長い銀髪をかきあげながら威張った。
 いや、お前の名前なんか知らんから。
 
「授業を再開してくれ、コリドー殿」
「いいでしょう」
 
 サナトリスがうながすと、コリドーは子供たちに向き直った。
 
「君たち、魔法は属性によって向き不向きがある。まずは自分の属性を知るところからだ」
 
 授業が始まったので、俺は手近な岩の上に腰かけて話を聞く事にした。ってか、俺が子供に魔法を教えるんじゃなかったっけ?
 サナトリスを横目で見ると、彼女はニコニコして説明する気配がない。
 とりあえず様子を見るか。
 
「魔法の属性は大別して六つ。火炎属性、水氷属性、大地属性、天空属性、陽光属性、月闇属性。もっと細かく分けている魔法理論もあるが、どの魔法もこの六つのどれかに属するとされる。人間は属性を持たないか、持っていても弱い属性で、強い威力の属性魔法を行使することはできない。しかし我々魔族は、属性を持つ者がほとんどだ」
 
 俺は聞きながら欠伸あくびした。
 千年もの異世界生活で、既に聞いたことのある話だったから退屈だ。
 
「君たち蜥蜴族は、だいたい大地属性だな! 私は偉大な魔術師だから、なんと天空属性と火炎属性、二つの属性に適正がある!」
 
 俺は、一度見た魔法は練習すれば使えるようになっていたから、魔法の適正を気にした事が無かった。
 今さらだが、何となく気になって自分のステータスを眺める。
 ステータスを確認しながら、ギョッとした。
 状態が「人魚姫の呪い」になっている。
 いつの間に……?!
 
「カナメ、君は何の属性を持っている?!」
 
 突然、コリドーが聞いてくる。
 呪いに気を取られていた俺は、反応が遅れた。
 こいつ、人の名前を呼び捨てにしやがって。
 
「……さあ。確かめてみたらどうですか?」
 
 不快感がつい言葉に出てしまった。
 砂漠に転移してから、妙に苛々したり浮かれたり、精神的に不安定になっているようだ。呪いのせいか? はやめに解呪しないとな。
 
「それは喧嘩を売っているのかい」
「そう思ってもらって結構ですよ」 
 
 売り言葉に買い言葉。
 俺は立ち上がってコリドーをにらむ。
 
「私に逆らうとは……くらえ、複合属性の奥義! 火炎嵐ファイアー
 
 仰々しい台詞と共に、大きな火の球が飛んできた。こんな人里の真ん中で使う魔法じゃない。
 俺は無言で手を振った。
 詠唱なしで発動した水氷属性の魔法が、コリドーの攻撃を相殺した。
 余波で辺りに水が飛び散る。
 
「水だ!」
「わーい!」
 
 子供たち大喜び。
 一方、ずぶ濡れになったコリドーはワナワナふるえている。
 
「私のような偉大な魔術師に水をかけるなど……ただでは済まされないからな!」
 
 着替えると言ってコリドーは去っていった。
  
「お兄さん、水の魔法を教えてー?」
「教えてー」
 
 俺の足元に子供たちが駆け寄ってきてはしゃぐ。
 サナトリスが大笑いした。
 
「見事だカナメ殿! あのコリドーの間抜けな顔! 笑いが止まらないな!」
「あいつがいるなら、俺が魔法を教える必要は無かっただろ」
「とんでもない。我が蜥蜴族の得意な属性は、水氷と大地なのに、あの男は全く使えないのだ。もちろん教えることもできん」
 
 教師の意味ねーな。それにしてもサナトリスは、コリドーが気に入らないらしい。俺を利用してコリドーを追い出したかったのだろう。
 
「カナメ殿は、大地属性も水氷属性も使えるだろう?」
「まあな……」
 
 属性関係なくすべての魔法が使えるし。
 
「お兄さん、美味しそうな匂いがする!」
「キュー?!」
「あ、お前ら、ウサギギツネは食い物じゃないからな!」
 
 子供たちが鼻をくんくんさせて、俺を見上げた。
 俺の服の下で、ウサギギツネのメロンが震えている。
 というかメロン、お前俺に付いてくるより、アダマスの野原にリリースされた方が幸せだったんじゃないか。ここ魔界では、俺から離れたら一瞬で食われそうだ。
 
 
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